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しょんぴん版 THE短編集

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短編
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#短編

福山浄化町奉行所改め帖

福山浄化町奉行所改め帖

【12635文字】

『コンビニ絶叫騒動の巻き』
  〜第1話から第4話まで一気掲載〜

【第1話】

ーーーーーーーーーーーーーー
今日も福山浄化町奉行所の目が光る。
街にはびこる諸悪を許しまじと、
正義と人情のお裁きで天晴一件落着!
ーーーーーーーーーーーーーー

 日が傾き頬をなでる風がキンと冷え込み始めて来たこの季節、晴れ渡り澄んだ空気は遠い峰々の稜線もくっきりと、遠近感を無視したような近

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半可通ループ(彼女の粉)

半可通ループ(彼女の粉)

【2864文字】

どのくらい経っただろう
ふと気付くと
僕は暖かな陽を浴びながら
電車に揺られている事に気付いた
座席に座っているらしい
少しウトウトしている
僕をよく知っているという女性と
並んで一緒に座っている様だが
僕には彼女が誰だか分からない

その女性は背中に大きな荷物を抱え
シートへは浅くしか座れていない
辛そうだ
彼女をもっと辛くしているのが
その手にしているものだった
何か茶色い

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昼行燈の経済論

昼行燈の経済論

【9130文字】

昼行燈とはよく言ったもので
間口の狭い店の脇に赤ちょうちんが
風に吹かれて暇そうにぶらぶらと揺れている
果たして明かりは灯っているのか
この晴天の昼過ぎには分からない

暖簾が出されてるところを見れば
どうやら昼の2時でも開けてる店の様だ
高架線の方から熊五郎はいつものように
肩をすぼめ申し訳なさそうにやって来て
恐る恐る暖簾を両手で分けると
その奥の引き戸をそっと開けて入って

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インドの神髄

インドの神髄

[2721文字]
#小説 #短編

「インド人の作るカレーが必ずしも旨いとは限らぬ。」
「はぁ?」
弟子はまたこの師匠妙な事を言い出したなと思った。
「もしくは、カレー好きのインド人だからこそ、他所のカレーは食えぬという場合もある。」
自分の頭と椅子の背もたれを同時に抱え込む様にして座っていた弟子は、ここに来た事を少し後悔し始めていた。
「なんの話ですかそれ、僕はただ女心が分らないと言ってるだけ

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黒犬

黒犬

[3066文字]
#小説 #短編

 一人と一匹が「さようなら」をしようとしていた。

「そろそろさようならだね。」
「でもまだ、もう少し・・。」
彼女の言葉がつまった瞬間、意志とは裏腹にひとすじの涙が頬を走った。不安がらせないように頑張っているつもりでも、やはりもう会えなくなると思えば我慢など出来るものではない。
「もう一回一緒に散歩が出来たら・・。」
彼女はあわてて言葉をつなげようとした

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四次元飴

四次元飴

[3521文字] #小説 #短編

「何もかも卒業してはならぬ。」
と師匠は酸っぱい顔をしながら言う。
「へぇ〜、じゃぁ僕はいつまでたってもハンパなまんまじゃないですか。」
弟子はそう言いながら、コイツ大丈夫か?といぶかった視線を師匠の横顔と、自らの腕時計へせわしく送った。師匠はこの弟子の視線に気付いたが、知らぬ顔で腕を組み昼下がりの明窓を見据えながら重々しく言う。
「卒業無き修行にこそに、人生の

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イトー君

イトー君

[2453文字] #小説 #短編

ぃと・・・
伊藤君?
伊藤君かな…?

ぁのォ~ っちょっと失礼しま・・
ぉぉおお~っ! 伊藤君じゃないか!!
やっぱ伊藤君だ!
そうだと思ったんだよ
こんな所で会うとはなぁ!
元気にしてたのか?
見た感じあんまり変わったように見えないが
・・ずいぶん苦労もしたみたいだなぁ
でもまぁまぁ元気そうで良かった!
ぁそうだ時間あるかい?
立ち話もなんだから
ちょっ

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巣立ち

巣立ち

[3681文字] #短編 #小説

まだ免許を取れない中学の頃から母親に、
「あんた、オートバイだけは乗りたいって言わないねぇ」
と先手を打たれ、 まだションベン臭かった僕はまんまと、
「あんなものには興味ネェよ」
と言わざるを得なくなっていた。しかし当時当然ながらバイクに興味のない高校1年生などこの世に居る筈もなく、僕は十六才の誕生日を迎えた途端、そういった行きがかり上仕方なくこっそりと

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羽化

羽化

[2157文字] #短編 #小説

_田舎の片隅にある男が住んでいた。
_世間では中年と言われる年齢に達しているが、男は一度も結婚をしたことがない。今も小さな家に一人で暮らしている。家は小さい。街から山をいくつも超えた田舎町の、そのまた村外れにひっそり建つ家である、庭だけは都会にはあり得ない広大さがある。しかし敷地の境などははっきりしない。おそらくここが境であろうと思われるあたりは雑草に覆われ、男

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ポスト

ポスト

[2940文字] #短編 #小説

_鉄製の扉の中腹にあるポストに今日も何かが投函された。鉄扉独特の金属的な響きでガタン!と音がする。その度に男は神経質に身を強ばらせる。投函者の足音が遠ざかるまで、なぜか息を殺しジッとしているのが癖になっている。一人暮らしの安アパートは狭く、部屋のどこに居てもその音は聞こえる。テレビを観ていようが、トイレに立っていても、風呂に入っていようが、ガタン!が聞こえると男

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