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11月11日 独身の日(Singles Day)を概観: 発端は大学生たちのイベントだった、世界最大のECの日

"Singles' Day" by Ch Maheswara Raju under CC-BY-SA-4.0


本記事は、中国における E-Commerce の祭典である、「独身の日」に関する記事です。ライブコマースの記事を書いた時もそう思い、また、皆様もそう感じられると思いますが、一言感想を述べると 「規模がおかしい」 でしょうか。


独身者たちの日

「独身の日」、それは世界最大のショッピングデーイベントです。

昔は、ショッピングデーイベントと言ったら、米国のブラックフライデーとサイバーマンデーのことを指しました。しかし、今や「独身の日」がその代名詞です。規模は世界最大であり、ブラックフライデーとサイバーマンデーを合わせたものよりも多くの売上を生み出しています。

独身の日は、中国で、毎年11月11日に24時間通して行われるECのセールスイベントです。光棍節や Double 11 とも言います。セレブや著名なインフルエンサーを総動員して、午前0時までカウントダウンしながら進行。この一日だけで日本円で数兆円の売上があがります。これは、日本のECの雄である楽天の一年間の売上を上回ります。

英語で、「独身の日」は、”Singles Day” と書きます。”Singles” と複数形で、文字通りに解釈すると、「独身者たちの日」となります。そもそもは、独身であることを祝う日として誕生しました。一般的には、1993年に南京大学の寮生たちの間で「独身者たちの日」が始まったと考えられています。最初は中国の若者が自分のために何かを買う日であり、ローカルの草の根的な人気イベントでしかありませんでした。


Alibaba が作った「独身の日」

しかし、そんな独身者たちの日も、今では若者たちのイベントではなく、あらゆる世代、既婚者も独身者も含んだ全ての消費者のための華々しいお祭りへとアップグレードしています。

中国のECといったら Alibaba。2019年9月10日に、創業者であるジャック・マーが Alibaba グループから引退しました。その後継者と指名されたのが、現CEOの ダニエル・チャンですが、彼は、「独身の日」を国家的ECイベントへと仕立てた人間として知られています。2009年11月11日に、チャンは、Taobao と Tmall に出店している十数万の企業やブランドを総動員した、Alibaba のエコシステム全体のセールスキャンペーンを立ち上げました。その後、JD.com 等、他の中国のECプラットフォームにも波及し、瞬く間に、年に一度の世界最大のオンライン&オフラインショッピングイベントの日となったのです。


セレブやインフルエンサーも参加するお祭り

今や絢爛豪華なお祭りとなった独身の日は、セレブやインフルエンサーが多数、登場することでも人気を博しています。有名人が出演するライブストリームイベントやファッションショーも並行開催され、多数のソーシャルメディアプラットフォームや中国テレビネットワークで同時中継されます。毎年、アジアのポップアイコンであるGEMを含む、数多くのセレブが登場するだけでなく、米国のセレブも出演しています。過去には、ニコール・キッドマン、ファレル・ウィリアムス、ミランダ・カー、マライア・キャリー、テイラー・スイフトが登場しています。日本からは渡辺直美さんビヨンセ役で登場。


世界最大となり、壮大なスケールへ

どのように独身の日は拡大してきたのでしょうか。初回の2009年以降、中国の人口は14億人近くにのぼり、中産階級が厚くなっていきました。スマートフォンの利用が増加し、それと呼応し、Alibaba の「独身の日」の流通は急上昇していきます。2009年開始時点で日本円でわずか8億円だったイベント売上は、2017年に2兆8000億円、2018年に3兆3000億円、2019年に4兆1000億円という壮大なスケールに突入していきます。

2017年Alibabaの独身の日イベントは外国も含めて5億人のユーザーが参加し、2兆8000億円を売り上げました。一方で、米国のサイバーマンデーは7200億円のセールスをもたらし、ブラックフライデーのオンライン売上は5500億円でした。しかし、これらは、5日間の合算なのです。独身の日がいかに圧倒的かが分かります。

2018年にはAlibabaは、3兆3000億円を売り上げます。米国のサイバーマンデーは8700億円。ブラックフライデーは5日間で2兆7000億円となります。独身の日には負けたものの、追随する数字を作り上げて面目躍如でしょうか。しかし、Alibabaは、この年、開始わずか68秒で売上が1100億円、30分で1兆9000億円を超えたと明らかにし、また、1時間で niqlo、Apple、Philips、Siemens、Dyson、Adidas、Skechers、Fila、Gap、L'oreal、Lancome、Estee Lauder、Shiseido、Aptamil 等、84のブランドが15億円の売上を突破したとも発表。次元の違いを見せつけました。


壮大なスケールは、次世代のインフラ、AIを生み出す

壮大な売上は、膨大なトランザクションによって生み出されています。2017年、Alibaba の決済プラットフォームである Alipay は、14億8000万件の決済トランザクションを処理しています。ピーク時には1秒間に25万6000件の取引があったそうです。また、7億5000万個以上の商品が出荷されました。これをさばくことのできる決済システム、そしてそれを支えるITインフラ・物流インフラはやはり並々ならぬレベルにあると言っていいでしょう。

独身の日の熾烈な注文により、様々な技術インフラや物流インフラが鍛え上げられてきたことも想像されます。Alibaba のジェフ・チェンCTOは、独身の日のイベントを、「ターボスピードで飛ぶ飛行機」にたとえています。

At a press briefing an hour ago, Alibaba Chief Technology Officer Jeff Zhang described 11.11 as an “airplane flying at turbo speed,” adding that making this supposed airplane more efficient has been the company’s biggest focus.
One such improvement is a logistics network, which is still a laggard for the technology giant. Last week, Alibaba Group announced it was investing an additional $3.3 billion in logistics unit Cainiao, which it co-founded with a number of other companies six years ago.


また、このようなビッグデータの世界は、新しい世代のAIの開発も後押ししています。2016年の独身の日に、Alibaba は、Luban という広告システムを導入しています。強化学習、ディープラーニング等、各種AI技術を組み合わせ、商品の素材データ(画像、パターン、キーワード、色など)、商品の文言から毎秒8000枚のバナーを生成し、1.7億枚ものバナーを作成したと発表しました。(100人のデザイナーが、一人10分で一枚作成しても、120年ぐらいかかるという計算に。)

Luban システムは進化を続け、2017年には、4億枚ものバナーを自動生成。2019年には、10億枚のバナー生成に到達しています。

以下は、Alibaba のTech Blog ですが、Luban システムにおける自動生成処理に関して図解しています。興味を引く内容です。

これは、Creative AIと呼ぶことのできる、新しい世代の AIアプリケーションです。

ディープラーニング等の機械学習のアプローチを用い、データから学習を行ったモデルを構築して様々な分野での識別や予測を実現していくというAIの活用は、徐々にかつ着実に浸透してきています。そのような中、識別や予測という利用法から、今やAIに新しいデータやコンテンツを作り出させるという世界が始まってきています。それが、「創造するAI」=“Creative AI”の世界です。
小説を執筆したり、絵を描いたり、音楽を作曲するAI というのはわかりやすい例です。それ以外にも映画の脚本を書きあげたり、予告編を作ったり、報道の分野ではニュース記事や原稿を作成したり、広告分野では広告のキャッチコピーを生成したり、まさにクリエティブそのものを制作したり、ECの分野でも商品説明文を書いたり、またランディングページそのものを構成したり等、多様な応用がありえます。


投入されている実戦の規模感から行っても、LuBan は世界最高峰と言ってよいでしょう。独身の日は単なるショッピングイベントを超えて、世界最先端の技術を開発するフィールドにもなっています。


更に拡大をしていく独身の日

Alibabaは、独身の日を更に拡大させようと考えています。例えば、11月11日を「グローバル・ショッピング・フェスティバル」と呼び、中国以外の消費者への浸透を狙っています。Alibabaが出資する東南アジアのECプラットフォームであるLazada、越境ECプラットフォームである AliExpress も活用し、中国の外へもその手を伸ばそうとしています。

Alibaba だけでなく、他の企業もこの独身の日を活用してきています。強豪の JD.com や Pinduoduo は、地方都市では大きなシェアを握り、より整備された物流ネットワークを有しています。彼らもまた同様のキャンペーンを展開し、高い売上をあげています。中国以外でも、Amazonや、Walmartがインドに持つ Flipkart、シンガポールのQoo10、韓国の11th Street が、独身の日の成功を模倣し始めており、世界へ広がっていこうとしています。


今年はライブコマースに注目、そしてこれから

2020年の独身の日も勢いは止まらないでしょう。今年は、COVID-19 の感染拡大を受けて、中国は劇的なデジタルシフトを遂げており、ECの売上も増大しています。


また、その中でも、ECとインフルエンサーマーケティングが融合した「ライブコマース」の躍進ぶりは激しく、今年の「独身の日」はライブコマースが猛威を奮うことは間違いありません。独身の日における主力の商品ジャンルは、家電製品とファッションであると Alibaba は明かしていますが、これはまた、2020年に中国全土で爆発的に盛り上がっているライブコマースにおいても売れ筋のジャンルです。

中国におけるネットショッピングの日として名高い、2019年の「独身の日(11月11日)」において、M・A・C、Levi's、Ralph Lauren、Burberry等の有名ブランドを含む、10万以上のブランドやマーチャントがライブコマースを活用して商品のプロモーションを行い、合計200億元(3000億円)のセールスを生み出しました。他にも、ライブコマースの配信主たちが数百万人のファンを獲得してセレブリティの仲間入りをする等、その人気の高まりを見せつけました。


今年の独身の日も迫ってきています。Alibaba は、今回の「独身の日」は、セールを前倒しで実施すると発表しました。海外旅行が制限されているため、高級ブランド品の購入意欲が特に高まっているとし、昨年の倍に相当する200万点の新商品を取りそろえるとのことです。Alibaba の配送部門は、出荷が前年比30%増になると予測しています。

今年はどんな驚くべき数字が発表されるのか今から楽しみです。そして、今後、独身の日が中国の国境を越えて様々な国でブレイクするかどうか。その展開から目が離せません。


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