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世界で広がるライブコマース:その勢い、対話、コミュニティ、新しいEC

"Amanda Bynes at New York Fashion Week, 2009" by The Heart Truth under CC BY-SA 2.0

本記事は、ライブコマースに関する記事です。


ライブストリーミングがコマースにイノベーションを

先日、中国におけるCOVID-19 アウトブレイク下とその後の変化についての記事を書きました。その中で、デジタルシフトの動きが加速しているという話として、ライブコマース(Livestreaming Commerce)での成功事例を紹介しました。

元々Livestreaming つまり、ライブ動画配信はインターネットサービスの黎明期から存在していましたが、近年、大きな注目を集めています。現代のライブストリーミング、動画配信の人気の起爆剤的な役割を果たした Tikitok の驚異的な成長に関しては前に以下の記事で解説したことがあります。


また、ライブストリーミングは、音楽やダンス等のエンターテイメント領域だけでなく、eSports 等の異分野においても普及し始めています。eSports におけるライブストリーミングは収益源を複線化していくための理にかなった手段であり、またTwitchのような配信プラットフォームは、200万人以上の配信者を有し、広告、サブスクリプション、アプリ内取引等を利用して収益を上げていくことを助けます。ライブストリーミングは今後重要なビジネスチャネルの一つとなっていくと見なすことができ、それがコマースの領域でもイノベーションをもたらそうとしています。


ECのライブストリーミングの始まり

ライブコマースは、リテール市場の伸びが激しい中国で始まりました。2018年の米国のリテール市場は、売上583兆円、成長率3.3%でしたが、中国はそれを上回る売上600兆円の規模であり、かつ成長率7.5%でした。そんな中国のリテール市場を牽引しているのがECであり、35%以上の売上がオンラインで上がっています。

ECにおけるライブストリーミングは、2014年に中国のファッションソーシャルメディア&ECプラットフォームである蘑菇街(Mogujie 、モグジェ)が実験を開始したのが始まりです。初期の実験段階においても、リアルタイムで商品を閲覧している顧客の方が、通常のECサイトにおける顧客より購入意欲が高くそれに加えて、コンバージョンの割合も高いということが判明しました。その後すぐに仁義なき戦いを蘑菇街と繰り広げていた、世界最大のECであるアリババのC2Cコマースプラットフォーム 淘宝(タオバオ)がこれに追随しました。

 蘑菇街のライブコマースページ

 淘宝のライブコマース、Taobao Live

ライブストリーミングコマースにおけるポイントの一つは「対話」です。ライブコマースでは、ホストが様々なタイプの服を試着し、ユーザーはライブチャットで対話することができます。 視聴者は、実際の生活の中で生地がどのように見え、どのように感じるかについて質問したり、ホストに異なるアクセサリーのセットでアイテムを試着してもらうこともできます。それらにより、ライブストリーミングは単なるエンターテイメントを提供するにとどまらず、実店舗での体験のように顧客によりよく商品の使用感や効果を理解してもらい、また顧客との関係性を築き、コンバージョンを改善していくのに役立つことになります。つまり、コマースに付加価値をもたらす手法であるといえます。


中国におけるライブコマースの高まり

2018年、2019年には、ライブコマースがその勢いを爆発させました。 ECにおける競争の激化とトラフィック獲得コストの増大に直面し、有名ブランドやマーチャントは、新たな方向性としてライブコマース着手に乗り出します。淘宝(タオバオ)は、2018年にTaobao Liveのライブコマースで1000億人民元(1.5兆円)以上の流通を生み出しました。(これは、日本の楽天のEC流通総額の40%にあたります。)また、ライブコマースはインフルエンサーマーケティングの顔も持ちます。同年、淘宝の81人のトップライブコマースインフルエンサーは合計15億円以上の収入をあげています。

中国におけるネットショッピングの日として名高い、2019年の「独身の日(11月11日)」において、M・A・C、Levi's、Ralph Lauren、Burberry等の有名ブランドを含む、10万以上のブランドやマーチャントがライブコマースを活用して商品のプロモーションを行い、合計200億元(3000億円)のセールスを生み出しました。他にも、ライブコマースの配信主たちが数百万人のファンを獲得してセレブリティの仲間入りをする等、その人気の高まりを見せつけました。

そして、2020年COVID-19のアウトブレイクによる都市封鎖と人々が自宅隔離を余儀なくされたことにより、ライブコマースはデジタルシフトの尖兵として更にその可能性を開花します。2020年のQ1には、中国全体で400万回以上のライブコマースのイベントが開催されました。ロックダウンが行われていた2月の Taobao Live は、配信主が8倍以上に増加し、過去最大の売上を記録しています。先日書いた記事では以下の成功事例を書きました。

例えば、COVID-19 が猛威を奮っていた、2月17日、上海ファッションウィークで、アディダスが、Taobao Live というLivestreaming Commerceで限定版スーパースターのスニーカー発表会を開催しています。消費者はホストとリアルタイムで交流し、Tmall でスニーカーを購入できるというイベントでしたが、223万人の視聴者を集め、わずか10時間で 2億元 (30億円) 以上の収益を上げたそうです。
モデレーターのアンジェリカは、このパンデミックを機に中国では新たな購買行動が生まれていると語る。例えば、セレブリティや著名人たちがWeChatやライブ配信などを通じて商品を販売するというような、かつてのテレビショッピングのような方法だ。最近開催されたあるライブ配信は、実に3,800万人もの視聴者を集め、600万ドル(約6億円)のロケットを含む1億ドル(約100億円)以上のセールスを記録したという。


同じくライブコマースのプラットフォームである Xiaohongshu では、COVID-19 感染拡大中にアクティブユーザーが35%増加し、視聴時間も45%以上伸びました。この勢いを受けて、有名ブランド Louis Vuitton、Dior、Fendi、Chloe、Loewe、Givenchy、Yves Saint Laurent、Jimmy Choo、Salvatore Ferragamo、Omega、Harry Winston、Qeelin、De Beers、Vacheron Constantin と名だたるところも、Xiaohongshu でのデビューを果たしています。

ライブコマースの成功例は、上記のようなアパレルやブランド品だけではありません。中国の家電大手の Gree Electric Appliance は、社長の董明珠(Dong Mingzhu)をホストとした、複数のライブコマースプラットフォームを使ったイベントとオフラインのイベントを駆使して、5月単月で970億円規模のセールスをあげました。また、中国最大手のオンライン旅行会社 Trip.com は、COVID-19による大量のキャンセルに悩まされる中、グループの会長である梁建章(James Liang)をホストにしたライブコマースイベントを5月に開催。イベントを通して8万室の予約を獲得するということを成し遂げています。

このような中、他の大手 JD.comKaola もそれぞれ独自のライブストリーミング・エコシステムを拡大させていくビジョンを発表しており、それぞれ相応規模の投資を計画しています。Taobao は今や毎日60万点以上の商品をストリーミングで販売しており、2021年には、(全体の流通の15%近くである)7.5兆円の流通を生み出すと予想しています。中国における新しいECの快進撃は続きます。


世界におけるライブコマースの広がり

ライブコマースは、中国だけでなく、韓国、そして米国にそのブームが波及しています。


韓国での動き

韓国では、中国に続いて早くにライブコマースが始まりました。アパレル生産・販売の LF Corp は、ライブストリーミングとリアルタイムチャット、ワンクリック購入を組み合わせた、シームレスなショッピング体験を2015年に導入。以降、ライブコマースによる売上は毎年約30%と高い成長を示しています。

そして今年に入り、中国での成功を追う形で韓国でも本格的にライブコマースのトレンドが始まりました。

Naver が3月に、Kakao が5月に、ライブコマースプラットフォーム事業をローンチしています。Naver は ECサービス Naver Shopping を利用する32万ものセーラーにライブコマースを実施してもらう計画です。


彼らのようなIT企業だけでなく、現代百貨店ロッテ百貨店のような伝統的な小売業者も新たな挑戦を始めています。現代百貨店は、今年3月にライブコマースを配信したところ、女性ファッションブランドの G-Cut の製品が一時間で月の30%の売上にあたる分が売れたと発表しています。またロッテ百貨店は、今年4月にリリースしたECアプリ「ロッテオン」で毎日ライブコマースの配信を行っています。現在、販売されている商品は、女性用アパレルと化粧品が中心ですが、今後、商品カテゴリーを増やし、ロッテのプラットフォームを利用するアフィリエイターを拡大していく予定です。


米国での動き

米国でもライブコマースの波が徐々に浸透してきています。中国や韓国でライブコマースのプラットフォームプレイヤーが誕生したように、米国では、Amazon がその地位を築こうとしています。2019年にAmazon がライブコマースサービス Amazon Live をリリースし、マーチャントにインタラクティブなライブストリーミングによるショッピング機能の提供を開始しました。家具ECプラットフォームの Wayfair も同様の機能を導入。また、対話機能はないものの、ショッピングアプリの Dote がインフルエンサーやライブストリーミングを取り入れた機能をリリース。他にも、インフルエンサーフリマアプリの Depop、ビデオショッピングアプリの YeayMikMakGoogle Shoploop 等、多くのアプリが市場に参入し、着々とライブコマースへの関心が高まりつつあります。


そのような中、Estee Lauder 傘下のブランド BOBBI BROWN、Clinique、DE LA MER が、それぞれスウェーデンの動画プラットフォーム Bambuser を用いてライブコマースを開始しました。例えば、BOBBI BROWN は、今年、5月20日にライブコマースを開始し、一般的なコンバージョン率2%、平均注文額87ドルに対して、ライブコマースでのコンバージョン率は5%、平均注文額は99ドル、またサイト滞在時間も通常のECの2~3倍の結果になったと発表しています。

Clinique は6月24日にスペシャルイベントとして「Game of Thrones」エミリア・クラーク(Emilia Clarke)をホストに迎えたライブコマースを開催。このイベントでは、エミリアから女優のスキンケアとメイクアップの手順が説明され、 ユーザーはその説明を楽しみながら、画面にポップアップされて紹介される各製品をクリックして直接購入できました。通常のコマースに比べてライブコマースはエンゲージメント率も高まり、またスペシャルイベントだけでなく安定した視聴者を持つことが可能であることもわかり、各ブランドは、ライブコマースを一時のブームとしてではなく長期的戦略として位置づけつつあります。

以下の記事では、Clinique のシニアバイスプレジデントのコメントも引用しながら米国でのライブコマースについて解説しています。


そして、Amazonは、今月(2020年7月16日)に、これまでマーチャントやブランドにのみ提供していたAmazon Live の機能をインフルエンサーに開放。インフルエンサーマーケティングと組み合わせてライブコマースを加速させようとしています。


そして、これから

ライブコマースはこのように新しいコマースのスタイルを世界に広げていますが、その重要なポイントは「対話」である、と書きました。以前、D2Cの記事を書いた際にも、「対話」こそが鍵を握っていると述べました。ライブコマースも単なる商品説明を動画でやるだけのものではなく、またエンターテイメント的な動画配信でもなく、一方的なTVショッピングのモバイル版でもないのです。そのインタラクティブ性こそが、視聴者にホストを身近に、時には友人のように感じさせ、ホストが商品を身に着けたりするのを見て、自らの代理人として視聴者にホストを受け入れさせています。それによりライブコマースは、高いコンバージョンやエンゲージメント率、長いサイト滞在時間を実現しているわけです。これらは例えば、単なるAIによるサービスの自動化では代替にならない、デジタル時代ならではの濃密なコミュニケーションといえるかもしれません。そしてホストと消費者の濃密なつながりの中に、新しいコミュニティの誕生をも感じさせます。

ライブコマースは特に、25歳から34歳の年齢層に人気があると言われています。この層は、86世代デジタルネイティブ96世代デジタルネイティブのちょうど過渡期にある層で、デジタル技術の進歩によって情報処理能力が増幅され、新しいツールや手法を最大限に活用するための考え方や行動を物心付く前から身につけている世代です。彼ら彼女らはネットの発展が目覚ましく、今までにないサービスが次々と生まれ、変化が絶えない時代を生きてきました。その世代に顧客として振り向いてもらうには、先進的な取り組みに挑戦することが重要になります。その顧客を惹きつけている先進的な取り組みの一つこそがライブコマースであり、COVID-19 により一層その意義を増してきています。

ライブコマースはビジネスにイノベーションをもたらしうる存在です。単なる一時のブームとして見過ごすのではなく、日本の企業においても、かかる時流を踏まえ、またデジタル世代の本質もとらえながら、コマースを、そしてビジネスを進化させていくことができればと思います。


おまけ

以下は本記事のスライド板です。


また、以下はヘッドレスECに関する記事です。ヘッドレスなECプラットフォームを活用することで、APIコールを介して、既に導入している様々なシステムと連携し、ライブコマースも含めた新しいコマースサービスを多様なデバイスで提供することが可能になります。ご興味ありましたら、こちらもご確認ください。


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