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D2Cモデルとそれを支えるAI: 顧客との対話こそが個別化時代の鍵

D2Cというキーワードに注目が集まっています。

「D2C」とは「Direct To Consumer」の略です。 「消費者に対して製品を直接的に販売する」というビジネスモデルを指します。

筆者は、何年も前から、クラウンドファンディングでの世界中の様々な作り手のカバンやジャケット、パンツ、靴の製品開発のプロジェクト支援に積極的に参加してきたのですが、彼らがクラウドファンディングでの成功を通し、直販のブランドとして立ち上がっていくのを見て、D2C が生まれてくる時代のニーズと必然性を垣間見た気がします。


D2C モデルと「個別化」現象

D2C モデルを生み出しているマーケットの変化は、消費者のニーズの「個別化」現象と関係していると言えます。「個別化」に関しては、サービス学会の学会誌「サービソロジー」に寄稿させていただいた以下の論文で簡単に言及しています。

データを中心としたイノベーションの創出と協働

(引用)
例えば筆者は先日,スマートフォンでSNS にアクセスしていた際,自分の趣味にあった鞄を見つけ,送料無料でもあったことも後押しして直ぐにその商品を購入した.後から調べるとその鞄は,スイスの小さな職人工房で作られていたものであった.恐らくその職人たちは誰も日本語を解さないであろうと思われるが,今は多国語対応する EC サービスを用いて日本語での商品説明をすることも容易であるし,また商品はスイスではなく,香港の倉庫から送られており,そのような配送サービスによってまるで国内の店舗から商品を購入したように送料無料が実現されている.
昔は,そもそも消費者が自身の足を運べる店で,そこで取り扱っている品目の中から,更には実際に在庫が置かれている商品しか購入することができなかった.そのような地理的・空間的・時間的制約が存在し,自分自身のニーズや嗜好をその制約の中に押し込んで,ある種の型にはめなければならなかった.しかし,今や人々は自分のニーズを空間や時間の制約によって変えることなく,いつでもどこでも好みにあったものを世界中のサービスから見つけ,ダイレクトにアクセスし手に入れることが可能になっている.このような進歩の中,ニーズは多様化というレベルをこえて,個別化とも呼べる様相を呈している.


現代においては、単にインターネットやスマートフォンでいつでもどこでもつながっているということを超えて、作り手は、例えば、アクセスしてきたユーザーの国・地域や言語設定で、Webサイトで表示する言語を変え、また、世界中にわたって需要予測に基づいて商品が置かれている倉庫のうち、最適な倉庫から消費者に商品を届けることができます。もしメーカーのWebサイトの言語が外国語しかなくても今のユーザーであれば、ブラウザに備わっているAI(機械翻訳)の力で意識することなく情報を吟味して購入を行っています。知らずしらずのうちに、世界中のメーカーと消費者は、今までの販売チャネルをこえて、地球スケールでダイレクトにつながるようになってきている。D2C モデルはその変化による自然な帰結だとも言えます。


D2C モデルのメリット

顧客接点のデジタル化: D2Cの従来の製造・販売モデルとの違いは、ブランドサイトの立ち上げから顧客への情報発信、広告、マーケティング、購入まで全てがデジタルで完結している点です。

自社を知ってもらい、顧客・市場を理解する: それによる大きなメリットは、直接消費者とのタッチポイントを作り、その声・フィードバックを聞く機会を得られるということです。また顧客がどのような人なのかも知ることができ、作り手が自分たちのブランド、ストーリー、商品と製造の持つ背景を知ってもらいつつ、それらがどのような顧客に受け入れてもらえるのか、向き合うべき市場は本当はどのような姿をしているのかを知ることで、更なる成長を目指す改善を行うことができます。

顧客コミュニティの形成: また、既存の製造・販売モデルを行ってきたメーカーにおいては、D2Cモデルを付加することで、ブランドロイヤルティの強化、ロイヤリティの高いファンである顧客のエンゲージメントを高める効果、そしてコミュニティ形成も狙うことができます。今までの販売チャネルにおいて何度もリピートをしてくれたファンである顧客やあるいはリピート顧客になりうる潜在層を、D2C のチャネルやイベントに招待し、よりよい品質とサポート、一人ひとりのお客様にパーソナライズされたサービスを届け、時にはお客様同士のつながる場も提供し、強いリレーションを構築します。

顧客参加型の商品開発: 更に重要なことに新商品開発の手段としてD2Cモデルは機能します。顧客との直接的な対話を通し、時にはワークショップ等も行い、ロイヤリティの強い顧客の潜在ニーズを発掘したり、新商品の迅速なテストや紹介を行ったり、顧客参加型の商品開発を試みる等、今後の方向性を考える上での示唆を得る手段とすることもできます。

自社コントロールの向上: 従来の販売チャネルでは、利益率は低く、またブランド側がコントロールするのは難しいという状況がありました。消費者との直接のコミュニケーションを通して的確なニーズを掴むことで、自社ブランドの可能性をさぐり、顧客ロイヤリティとエンゲージメントも高めることで、利益率の向上とコントロールをも作り手は得ることができます。何にもましてニーズをつかむことは鍵となります。


AI でニーズを分析し、それを活かす

前に以下の講演で、顧客のニーズをつかむことで新しい商品の提供を考えたケースというのを紹介しました。

(引用)
次に、我々が挑戦したのは、ユーザーの隠れたニーズをつかむことでした。その例のひとつが、AIによるファッションサイトの作成です。まずAIにユーザーの検索データや閲覧データを集めて分析させ、ユーザー自身も気づいていないニーズを抽出、これをベースに商品サイトを作成しました。これをマーケターがチェックして、イメージとコピーが合致しているかを確認しました。つまり、AIが仮説を立て、それをベースにマーケターが補完するということを試したわけです。すると、売上が従来の手法より2倍以上になったのです。これは、我々にとって、劇的な転換点となりました。

ここにおいては、データをAIの力も使って分析し、その内容に基づくサービスを直接消費者からのフィードバックを得てまた改善していくコミュニケーションはD2Cの重要なポイントになると言えるでしょう。


Exploration & Exploitation (探索と活用)モデルとの共通点

先日、人とAI が共に成長しあうモデルとして、Exploration & Exploitation (探索と活用)というビジネスモデルの紹介を書きました。

昨今の垂直型B2Bのソリューションにおいて、業界のリーダーとなるような顧客の本当のニーズを探索して掘り下げ、それをAIのプラットフォームにいち早く実装し、インターネットスケールでレバレッジしていくというのがある種の勝ちパターンとなっています。実は、D2Cモデルも、直接ロイヤリティの高い消費者とのやり取りをすることでニーズを探索していくことができ、インターネットのプラットフォームで(AIの力を大いに活かして)従来の販売チャネルのあり様とは違うレバレッジされた展開を行っていくという意味では、同じ、Exploration & Exploitation(探索と活用)という構造をしているのだということに気づかされます。


まとめ

D2Cモデルは、単なる直販という考え方に留まらない、消費者と直接対話し、一緒に素晴らしい商品を作っていこうという試みです。ある意味、現代のインターネットとAIの進化そのものを活用することで、より価値のあるマーケットを作ることを目指すムーブメントと言えます。E&Eモデルにもつながる構造を持つこの動きは、今後数年に渡って、極めて重要な潮流になるでしょう。作り手と消費者の積極的つながりは、栄えある充実した未来を導く大切な道標となっていくでしょう。

筆者が所属しているデロイトデジタルにおいて、D2Cを含めた今後のリテールビジネス、コンシューマービジネス、マーケティングは、AI の活用によって切り開かれるという内容の記事およびそのソリューションも提供しています。ご興味ありましたらこちらもご確認ください。



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