あらゆることに進化が関与している
地球上にはなぜこんなに多様な生物がいるのか?といった問題に限らず、なぜ人は個人個人で異なるのか、また、あるときはお互い協力するのに、あるいときは敵対するのか?といった問題もヒトが進化してきたプロセスが関与しています。
私が大学院生として進化の研究をはじめた1980年代は、進化論論争の時代といわれ、様々な理論が提案され、その妥当性について激しい論争が生じていました。当時は、ダーウィン進化論から発展したネオダーウィニズムとよばれる学派が主流であり、進化の原動力としての「自然選択」が特に重要視されていました。それに対して、古生物学者であるS.J.グールドらは、化石パターンの変化は、ネオダーウィニズムの理論からは説明できないとして、論争が生じていました。また、国立遺伝学研究所の木村資生氏は、ほとんどの分子レベルでの進化は、自然選択とは関係のない中立な進化によって起こるとする「分子進化の中立説」を提唱し、これも大きな論争となっていました。しかし、当時は、化石や、現生生物の形態や行動などをもとに、進化の仮説を検証するという手法が主であった。そのため、理論の妥当性を頑健に実証できることは少なかったと思います。
2000年代になると、ゲノム配列を比較的容易に解読する技術が進展し、ヒトを含め、さまざまな生物のゲノム配列の解読が行われるようになりました。また、最近では、遺伝子編集技術や合成性物学といった分野が進展してきたことで、生物進化のメカニズムの実証研究がゲノムや遺伝子のレベルから可能になってきました。かつて、進化学は「進化論」といわれることがあり、それは、「進化がどのように生じたか」を科学的に実証することはできないので、サイエンスではなく、理論にすぎない、と考える人がいたからです。しかし、近年は、様々な手法で進化を実証することができるようになり、進化学は実証科学として生命科学の基礎をなすだけでなく、医学、農学や保全など応用科学としての役割も果たしています。かつて、Theodosius Dobzhansky (1900~1975)「生物学では何ごとも、進化を考慮に入れないかぎり意味をなさない」と有名な言葉を残しましたが、現実に、現在の生命科学は、進化を考慮しないと「生命の意味」を理解できないということだと思います。
しかし、「いかに進化が、身近な現象に大きく関わっているのか」ということが、一般の人には、うまく伝わってるとはいえません。そこで、このnoteでは、できるだけわかりやすく、しかし、できるだけ正確に、進化についての解説記事を掲載していこうと思います。同時に、進化的視点からの私自身の考察についても触れたいと思います。
特に、大量のヒトゲノムが解読され、さらに数万年前の古代人のゲノム配列も多数のデータが蓄積されていることで、ヒトの様々な側面の進化の様相や機構の解明が急速に進んでいます。このnoteでは、「進化的視点から人について考える」というマガジンにヒトの進化に関する記事を集めています。
また、最新の知見もとりれて、進化について誤解されやすいトピックをもとに、進化学の基礎を分かりやすく紹介する入門書を目指した『ダーウィンの進化論はどこまで正しいのか?: 進化の仕組みを基礎から学ぶ』(光文社新書)が2024年の春に出版されます。また、人の精神的性質の進化についてまとめて議論する『人の「こころ」の進化(仮)』(河出書房新書)を執筆中です。
記事についてのご意見やコメントがありましたら、是非お寄せください。
これまでの記事
進化的視点から人について考える
生物はいかに進化するのか
生物多様性と進化
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