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賢人マイク・ポートノイの提言

マイク・ポートノイは賢い人だ。

もちろん、人間なので失敗もする。マイクが今、DREAM THEATER にいないのは、その失敗の最たるものだろう。とはいえ、メンバーとの溝をしっかりと修復してまわっているところは、賢人の賢人たる所以だろう。

そんなメタル界のワイズマンが、THE WINERY DOGS の新作で新たな試みに挑んだ。レコード・レーベルからの解放だ。

「WINERY DOGS のこの新しいアルバムは、正直言って、レーベルを通さずに仕事をする初めての試みなんだ。俺の他の作品はすべて InsideOut Music と一緒にやっているからね。SONS OF APOLLO、TRANSLATLANTIC、LIQUID TENSION EXPERIMENT、Neal Morseとの仕事。これらはすべて InsideOut と一緒にやっているんだよ。THE WINERY DOGS の最初の2枚のアルバムも Loud & Proud からリリースされたけど、Loud & Proud はその後解散してしまったんだ」

なるほど。レーベルがなくなったというのが理由の一つだったんだね。だけど、それだけじゃないよ。

「2023年の今、レーベルの必要性はますます小さくなっている。で、この新しいアルバムは、レーベルを通さずに仕事をする初めての経験なんだ。THE WINERY DOGS のギタリスト/ヴォーカリスト、リッチー・コッツェンがソロ・アルバムをこの方法で作っていて、僕らもこの方法で作ったらどうかと提案したんだと思う」

なるほど。発起人は、リッチー・コッツェンだったと。

「僕らが今いる時代や場所を考えたんだ。今の時代、自分の音楽を世に送り出すのにレーベルは本当に必要ないんだ。ディストリビューターとパブリシストさえいれば、アートワークは自分たちでやることもできるし、一緒に仕事をしている人たちでもできる。それに、最近、プロモーションはSNSが中心になっている。つまり、近年、ほとんどのレーベルが、レコードのプロモーションを俺たちアーティストに頼っているのが現状だ。俺は、レーベルやコンサート・プロモーターが俺たちに頼りきりな状況を経験してきているんだよ。彼らは自分たちで宣伝するよりも、アーティストのソーシャル・メディアに頼っているんだ」

なるほど。整理するとこういうことなんだろう。マイキーが DREAM THEATER でブイブイいわせていた90年代、メジャー・レーベルの主な仕事はレコード制作の予算を出すこと、TVや雑誌で積極的なプロモーションを行いその予算を出すこと、アートワークやスタジオ、プロデューサーなど諸々のブッキング、CDのディストリビューション、ツアーの計画、アーティストへの報酬など多岐にわたっていたんだろう。それを成すだけの財力と権力を持っていたとも言える。つまり、レーベルと契約することで、アーティストは様々な恩恵が得られたわけだよ。もちろん、契約のゴタゴタやそれに縛られることを嫌う人たちも少なくはなかったけど。

ところが、今の時代、その恩恵が非常に小さくなっている。アーティストにとって、大手レーベルと契約する旨味が減っているとマイキーは言いたいのだろう。

たしかにそうだ。話は逸れるけど、最近SNSで、このご時世にCDを買うのは、もしストリーミングが突然なくなったとき困るからというポストがバズっていた。で、僕はなぜCDを買い続けるのか自問自答してみたんだけど、別にあなたにだけ未来永劫ストリーミングをお約束しますオジサンが甘い言葉をそっと耳元で囁いたとしても、僕はきっとCDを買うんだよね。そんな変な保険みたいな理由じゃないんだよ。CDの海から選び出し、アートワークを眺め、CDのニオイを堪能し、ブックレットを読み、プレイヤーに挿入する瞬間のワクワク感。棚にCDがまた一枚増える時の満足感。アレが好きなんだよ。アレの良さをレコード会社はついぞ宣伝することなく、ストリーミングに屈してしまった。それって、象徴的じゃない?もっと "アイデア" を出して欲しかったよ。

メジャー・レーベルは今や、若者のテレビや雑誌離れとネットの伸長により、プロモーションはアーティストやSNSの"インフルエンサー"たちにおんぶに抱っこ。フィジカルが売れないから予算もほとんど出せない、ストリーミングの中抜き企業になってしまっているんだよね。

もちろん、インディペンデントのレーベルや、日本のレーベルはそれでもがんばっていると思う。決して世界中にディストリビューションするわけじゃないのに、身を削って必死で売ろうとしているレーベルは沢山あるよね。

でも、ホント、僕もずっとウェブ・サイトをやっているけど、やる気ねーなぁ…適当だなぁ…みたいな海外メジャー・レーベルを目の当たりにしてきたからね。どことは言わないけど、ニュークリアがブラストするところとかね。ロードをランナーするところとかね。ちなみに、メタル・ブレードとか、シーズン・オブ・ミストはいつも怖いくらい本気だ。

まあまあ、それでも、名前の売れてないバンドにとっては、今でも恩恵は少なくないだろう。名前を知ってもらえるし、大きなフェスにもブッキングしてもらえるかもだし。でも、THE WINERY DOGS くらいの有名な大御所にとっては、逆にメリットがないんだろう。

「俺たちはそういう方向、DIY に進んでいる。正直なところ、とても新鮮なことだよ。自分たちで多くの作業を行うことは、少しプレッシャーになるけど、その分、多くの利益を得ることができる。もうレーベルの言いなりにはならないんだ」

まさに、先日ティモ・トルキが言ってたことだよね。

「80年代、90年代に DREAM THEATER を始めた頃は、レコード契約がなければ何もできなかったんだ。レコーディング・スタジオに入り、レコードを作り、ビデオを出すことは、レコード会社がなければできなかった。でも、あの頃とはずいぶん時代が変わった。今は YouTube のアカウントや Instagram のアカウントさえあればアイデア一つでプロモーションが可能だし、自由にSpotifyやiTunesなどに自分の音楽を入れて不特定多数に聴いてもらうこともできる。自分の音楽を完全にコントロールすることができるんだ。それは良いことだと思う」

本当だよねぇ。そんなにお金と手間暇かけずに自分でできるのなら、わざわざ中間業者に入ってもらう必要はないわけで。

何より、今回の "Ⅲ"、気合いがスゴい。完全に最高傑作だよね。いやー、これが聴きたかったんだよ!特に、リッチーの弾け具合ね。もうここ20年以上、リッチーは変にスカして、「もっと弾けるけど弾かないよ?もっと声張れるけど張らないよ?それがクールなんだよ?」みたいなところがあったんだけど、なんかもう全てを出しているよね。弾きまくり歌いまくり。ビリーもマイキーも、リッチーに引きずられるように、ブチかましてくれている。なんか、TALISMAN の名品 "Life" を思い出したよ…

このアルバムとか、あとロビン・マッコーリの新作"Alive"とかで再確認したんだけど、僕はメタルやハードロックの"情熱"が一番好きだ。別にパッション屋良は関係なくて、なんて言うのかなぁ…

「ンーッ!!ンーッ!ンーッ!!ンーッ!ン〜〜〜〜〜〜ッ!?」

みたいに身をよじりながら拳を握りしめて突き上げ脱糞するような瞬間よね。キレイに作りました、一片の淀みもないです、みたいな無菌室のメタルはやっぱりそこまでコナいんだよねぇ…ハチャメチャでもいいから、カタルシスを感じさせてほしいんだ!

彼らの音楽くらい、大手レーベルにも"パッション"を期待したいよね。


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