見出し画像

UFOの"Walk on Water"はすべてのオッサンに捧げる讃美歌だ

「医者は言う。俺はオッサンすぎて戦えないと。賞味期限切れだと。だけど医者は知らんのよ。いざとなれば、俺が自分を限界まで追い込めることを」

時は2024年。オッサンに人権はなくなった。呼吸をするだけでCO2を排出してごめんなさいと土下座を強要され、人波を眺めるだけで痴漢で逮捕される。もう諦めるしかないのだろうか?オッサンになる時代が悪かったのだと。

いや、諦めるにはまだ早い。UFO の "Walk on Water" がついについに再発されたからだ。AVALONさんもこんなオッサンまみれのアルバムをバレンタインに出すなんて人が悪い。(ありがとうございますありがとうございます)

冒頭の超訳は、このアルバムのキラー・ソング "Push to the Limit" の一節。おおよそロックの歌詞とは思えない、オッサンの哀愁とイキリと意地を詰め込んだような迷文句だけど、実はこのアルバム自体が素晴らしきオッサンへの応援歌なんだ。

アルバムが作られたのが1995年。まだ、オッサンにも多少の人権と夢が残されていた時代。それでも、フィル・モグが47歳で、マイケル・シェンカーが40歳。観客の黄色い声援が、野太い激励へと変わっていくことに対する絶望と焦燥。それがきっとこのアルバムを生み出したんだ (たぶん)。

そう、俺たちはまだやれる。俺たちはまだモテる。俺たちだってその気になれば "Walk on Water" 水の上だって歩ける。オッサンにも存在意義があるんだってね。まあマイケルはそれからしばらくして、中野サンプラザでプッツンからの野太い怒号を浴びることになるんだけど、オッサンだって病むしプッツンくらいする。

"Dreaming of Summer" は、ある失業中の男の話。自分の人生が、かつて少年時代に夢見た幸せな未来から遠ざかっていくのを見つめる心にしみる物語。多くの人が共感できる現実のシナリオだよね。年齢を重ねるにつれて狭まっていく可能性。人生を描いた通りに生きられるのは大谷とデコピンだけだ。そんな中年の苦悩と葛藤を、みんなそうなんだよ、大丈夫なんだよとマイケルの優しいアコースティック・ギターとフィルの穏やかな歌メロが抱きしめる。

"Running on Empty"では、決して止まることのない砂時計と飽くことのないロマンスへの渇望をセクシー&ブルージーなギターで表現し、"Knock,Knock" の邪悪な元妻は離婚で家と車を手に入れる。すべてが中年クライシスを描いていて、僕たちオッサンは、うんうん、俺だけじゃないんだ、みんなそうやって悩んでいるんだと安心できるわけだよ。そりゃ、当時の中学生 (僕) が歌詞を読んでも意味不明に決まっている。

一方で、オープナー "Self-made Man" はオッサンにとって自己を顧みるべき辛辣な楽曲。"Self-made Man" とは自力で成り上がった裕福なビジネス・オッサンのこと。

「俺は働いて働いてここまできた。貪欲で利己的で意地悪に。勝ち上がるためならパワハラセクハラなんでもあり。でも日曜日、聖歌隊の歌声でふと気づくんだ。俺に何が残るんだろう?どれほどのものを失ってきたんだろう?ってね」

ホントねー、今の日本で歌われるべき曲だよねぇ。BOΦWY の "Working Man" と並んですべてのオッサラリーマンが聴くべきガイドラインだ。退職してあなたに何がのこりますか?

また、時代を反映したマイケルのダークでエッジーなリフが素晴らしく闇でね。そして流麗なソロワーク。僕はね、ギターソロのフェイド・アウトには真っ向から異を唱えるよ。エエ感じでチピチピダバダバドゥードゥードゥーとなっているのに、突然のフェイドアウト。そりゃ説教ネコもガンギマリで説教するよ。

この時代、マイケルはアコースティックにハマっていて、"Thank You" なる珠玉のアコギ・インスト作品に没頭していた。同時に、ジョー・サトリアーニのような新世代のシュレッダーにも注目して、好みにあう部分は貪欲に取り入れていたんだ。だからこの頃は、その二つの新基軸がマイケルそもそもの超弩級にメロディアスかつスリリングなギター魔術と合体して、リフにしても、ソロにしても、楽曲にしても、非常に聴きごたえのある美しき年輪が、あのフライングVに宿っていたんだよね。

そうなんだよ。年を重ねることは悪じゃない。スカスカで邪悪な年輪さえ重ねなければ、まっすぐに挑戦をつづければ、僕たちはいつだって新鮮な空気を生み出すことができる。存在意義がある。そうマイケルと UFO は自分たちの音楽とリリックで伝えてくれたんだよね。

実際、マイケル以外のメンバーも素晴らしいよ。本当に久しぶりに黄金期のメンバーが揃ったわけだけど、ポール・レイモンドの鍵盤も、ピート・ウェイのベースも、フィル・モグの歌声もすべてが英国。特にフィルは、そんなに声域が広いわけじゃないのに、湿り気のある実に魅力的な歌メロを届け続けている。"Darker Days" の一天にわかにかき曇る様はあまりに劇的だ。

あとまあ、これは蛇足なんだけど UFO のギタリストは、というかフィルとピートのギタリスト選びはいつも絶妙だ。マイケルはもちろん、ポール・チャップマン、アトミック・トミー・M、ローレンス・アーチャー、ヴィニー・ムーア、それにMOGG/WAY でのジョージ・ベラスとジェフ・コールマン。全員が個性的で何かしら特徴があって巧い。もう、UFO の歴史を追うだけで、ギタリストは大勝利なんだよね。

何より、いまだに廃盤の多い Zero Corporation の作品が再発されることが心からうれしいよね。Zero で育った少年が、Zero の再発で救われる。30年の時を経た壮大なオッサン・ストーリーここに極まれり。あとはもう、"メロディのパラダイス、だからタカラ 鬼才と辣腕、熟練の音色 。ジェフ・スコット・ソートと 二ール・グラスキー、旋律の楽園 。おかえり... タカラ" が復活したらオッサン、宝酒造で胸焼けして死んじゃう。


この記事が参加している募集

多様性を考える

一度は行きたいあの場所

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?