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ペンは剣より強いのか?: タイで拘束されたソ連最大のバンドBi-2を救え!

結論からいうと、ペンや音楽や芸術は剣より弱い。太刀打ちどころか歯も陰茎もたたない。昨日、Twitter にこんなポストをしたんだ。

ロシアの稀代のポスト・プログ・デュオ iamthemorning の Gleb Kolyadin がタイの刑務所に収監されているというショッキングなニュースが伝えられました。おそらくプーチンの非道を批判するベラルーシ/ロシアのビッグ・バンドBi-2と行動を共に(ツアーのサポート) していたためだと思われます。

Glebはロシアの侵攻後、英国に渡りビザを得ていましたが、このままだとロシアに引き渡されてしまう可能性もあるようです(ロシアは反戦、反プーチンのBi-2の強制送還を虎視眈々と狙っていて、タイはロシア、ウクライナ双方に完全に中立的立場をとっているため都合がよかった)。
弊誌は、ロシアの侵攻以前、Glebに過去2度にわたってインタビューを行っていました。そこで語られたテーマのひとつが"コフィンベル"。生きたまま埋葬された際に鳴らす最後の望みの話でした。

「僕たちの国にとって、残酷と不正のトピックは特に重要なんだよ。ロシアの社会はまだ明らかな問題を認識して解決し始めるレベルにも達していないんだ。でもね、どんなに長い間、絶望的な状況に置かれたとしても、助けを呼ぶことは出来る。と言うよりも、助けが必要な時は必ず呼ぶべきなんだ」

さて、私は一昨年、個人的にGlebにコンタクトを取りました。そのときは一切記事にするつもりもなく、まずは彼の現状に対する心配と、そしてロシアの今について彼の率直な意見が聞きたかったのです。しばらく経って、彼からこんなメールが届きました。

「まずはじめに、返事がとても遅くなって申し訳ない。この2ヶ月間、私は起こっているすべてのことから自分自身を失っていた。怒りと羞恥心が鬱に変わり、そこから抜け出そうとしているところなんだ。
君からのメールと応援の言葉にとても感謝している!ロシアは今やモルドールと化し、国の大部分はプロパガンダによってゾンビ化した。独立したジャーナリストは皆、身の危険を感じ、ここで今何が起きているかを伝えるために他国へと去っていった。
このようなことが21世紀に起こるとは想像もできなかったよ。
この戦争が一刻も早く終結し、ウクライナへの侵略に責任を負うすべての人々が、この恐怖のすべてに対して処罰されることを強く望んでいるよ。
ありがとう!Gleb」

ただ非道な暴力、抑圧、戦争に反対するだけの美しき音楽家が、これ以上危険で悲しい状況に陥ることを、私たちは防がなければなりません。

もちろん、私たちにできることは限られていますが、それでも日本国民、政府、そして世界に伝えてタイ政府に圧力をかけることは不可能ではないでしょう。
ぜひ、iamthemorning の美しい音楽と、彼らが今置かれている状況を知ってください。知るだけで、伝えるだけで、もしかすると世界は少しだけ、良い方向に変わるかもしれませんから…長文、読んでいただいてありがとうございます。

僕はグレブに対して勝手にシンパシーを感じていて、本当に僭越だし、会ったことさえないんだけど勝手に友人だと思っている。だからね、どうしても彼のような才能の塊が、ただ他人を暴力や権力でねじ伏せるだけの政治マフィアに引き渡されることが耐え難いんだよね。暴力や権力は才能じゃない。エゴだ。

これを書いている途中、芦原妃名子さんの訃報を知った。まったくもってやるせないね…テレビ局のエゴ、マスメディアのエゴ、政治家のエゴ、経営者のエゴ、もしくは虚しき驕りにいったいいつまで、何人の "優しい才能" が殺されなくてはならないのだろう…きっと彼らは "より良い世界" の実現なんて毛ほどの興味もないのだろう。興味があるのは自分と取り巻きの充足だけ。

ただ、きっと世界にはこんな理不尽は山ほどある。僕はそんな山ほどの理不尽を、知っていても知らなくても、ほとんど素通りして生きてきた卑怯者だ。それでもね、グレブの件まで素通りするわけにはいかないんだよ。なのでまず、ことの顛末から整理したいと思う。

先週の木曜日、グレブを含む Bi-2 のミュージシャンたちは労働許可証を持たずにコンサートを開いたとして逮捕された。
プーケットのナイトクラブ "イルジオン" でのコンサートの直後、ロシアで "外国人諜報員" と名指しされたリオバとシュラを含む Bi-2 のメンバー7人が拘束された。警察は楽屋を襲撃した。ミュージシャンたちは、タイで労働許可証を持たずにコンサートを開催した罪に問われていた。グループは観光ビザで入国していた。
ポータルサイト "The Insider" は、ロシア外務省に近い情報筋の話として、在プーケット・ロシア総領事ウラジミール・ソスノフの要請により、タイでのロシア人アーティストのコンサートはキャンセルされたと伝えた。
「私の知る限り、これはソスノフ氏の個人的な発案ですが、タイはロシアの外務大臣セルゲイ・ラブロフ氏が好意的に受け入れられている残された国のひとつであるため、ラブロフ氏自身が要請した可能性もある」
これに先立ち、Bi-2グループのリーダー、リオバはインスタグラムにロシアには帰らないと書き込んでいた。戦勝記念日のお祝いについて書かれたインスタグラムの投稿の下で、リオバは「プーチンのロシアは嫌悪感しかない」「プーチンと彼のイカれたツレどもが国を破壊した」「ロシアに戻るつもりはない」と書き込んだのだ。
2023年5月、ロシア司法省はリオバを "外国諜報員" と認定していた。

つまり、反ロシア、反プーチンを表明しているバンドと、ウクライナ、ロシア双方に対して完全中立を貫くタイにいたために拘束されたわけだ。もちろん、グレブも思想的には Bi-2 と似ているわけだけど。では、Bi-2 とはどんなバンドなのだろうか。

Bi-2 はロシア語を使うオルタナティブ・ロックバンドで、1988年にベラルーシのボブルイスクで結成された。ツイッターのフォロワー数はゆうに100万を超えるビッグ・バンド。グループの創設者であり、常任メンバーはシュラとリオバ。グループにはイスラエル人やオーストラリア人もいて、彼らも同様に拘束されているようだ。

リオバは2023年5月9日、戦勝記念日にファンがインスタグラム(このSNSはロシア連邦では禁止されている)で彼を祝福したとき、ついに耐え切れずこう切り出した。

「現在のロシアは私に嫌悪感を抱かせる。誰もがツケを支払うことになる。私は愚かではないし、ほくそ笑んでいるわけでもない。これが世界の仕組みだ。犯罪者は罰せられ、国は損害を賠償する。ロシアはもはや世界にとって適切な国家としては存在しない。イカれたのゴミクズがこの国を破壊した。ウクライナとヨーロッパは功績を分かち合ってきたのだ。プーチンのロシアが今呼び起こすのは、嫌悪と軋みだけだ。国民はまるで動物のようになっている」

それから Bi-2 はロシアを離れたんだ。ただ彼らは2014年以来、ヒントを出しながら慎重に、反ロシアの立場を示してきていた。Bi-2 はウクライナに演奏に行っても、ドンバスでコンサートを開くことはなかった。そして "Taken to the army" という曲のビデオを発表し、キエフへの支援と評価されていた。

ロシアのウクライナ侵攻後、彼らの反ロシア的な立場はより明確に現れ始めた。2022年2月28日、リオバはSNSにこう投稿した。「この恫喝的虐殺を止めることが急務だ!」さらに2022年4月、Bi-2 は、プーチンを支持したことを理由に、ショーのディレクターであるデイヴィッド・ミサキアンを解雇した。デイヴィッドはのちにこう語っている。

「2013年以来、私はBi-2で照明、映像、舞台美術、特殊効果など、すべての舞台映像の責任者だった。私たちは一緒にコンサート・ショーを作り上げてきたが、業界関係者の大多数によれば、それはクオリティの水準を引き上げ、ツアー・コンサートのエンターテインメントに対する全体的なアプローチを変えるものだった。そして特別作戦の開始により、我が国にとって新たな時期が到来し、すべての人に確実性と明確な市民的立場が求められるようになった。Bi-2 では、ロシアと世界の政治的な出来事を違った角度から評価している。私は自分の意見を隠さず、ロシア市民の立場を示したため、即座に解雇されたんだ」

そして Bi-2 はロシアはオムスクでのコンサートをキャンセルする。その理由は、ロシア国旗の背景に "大統領のために…Z" と書かれた横断幕が掲げられていたからだ。彼らは、コンサート会場の管理者に内緒で、夜、国旗を黒い喪服の布で覆った。しかし黒い布を取り除くよう求められ、彼らはそのまま立ち去ったのだ。聴衆にお金は戻ってこなかった。謝罪もなかった。Bi-2のギタリスト、アンドレイ・ズヴォノフは、この説明として、ロシア国旗とZの文字が描かれた旗が "音と光の邪魔をした" というトンデモ理論を提唱したんだけど、そんな言い訳がいつまでもまかり通っていいわけがないのは明白だった。

2022年7月、Bi-2 はサンクトペテルブルクで開催されたロシア・サッカー・スーパーカップに招待された。しかし、彼らがフィールドに登場した最初の数分間から、スタジアム全体は口笛と叫び声で阿鼻叫喚の様相を呈する。「出て行け、ロシア嫌い!ヤツらをここから追い出せ!」

それでも Bi-2 は13分間スタジアムにとどまり、その後退場した。そうして彼らは、恥辱の代償として5万ユーロのギャラを受け取った。この状況は8月にもトムスクで繰り返された。彼らがロシア軍と特殊作戦への反対を訴えると、グラスやビンがステージに飛んできた。そして8人がステージに上がり、バンド全員を殴りつけた。そうまでして彼らはお金が欲しかったのだろうか?

「気にしないさ。自分たちはいい仕事をしてお金を稼ぎ、それをチャリティーにすべて送ったのだ」

彼らがどのようなチャリティーを行っているかは、2023年3月、キャリアをスタートさせてからイスラエルに逃亡した俳優アナトリー・ベーリー(ワイスマン)が説明している。

「彼らはコンサートの収益の一部をウクライナのために寄付しているんだ。彼らはそれを宣伝しない。ただそうしているだけだ。もう何も言うことはない」

Bi-2の中心人物で平和主義者の2人はロシアの市民権さえ持っていない。シュラはオーストラリアとイスラエルの国籍を持ち、家族はカリフォルニアに住んでいる。リオバはベラルーシとイスラエルの国籍を持ち、家族はスペインにいる。2人ともベラルーシ、いやソ連で生まれ、1991年のソ連崩壊後、イスラエルに移住した。海外で音楽で成功を収めようとした彼らの試みはすべて無駄に終わった。リオバは建設業者、石工、警備員として働かなければならず、イスラエル軍に2年間所属した。その後、音楽家はオーストラリアに移り住んだが、その時すでにシュラはそこに定住していた。昼間はペンキ職人として働き、アパートを修理し、夜は2人でコンサートを開いた。

人気が出たのは1999年のことで、友人たちが Our radio に Bi-2 の曲を送ってくれたおかげで、ロシアでも人気が出た。ミュージシャンたちはモスクワに到着し、そこで俳優のセルゲイ・ボドロフにも出会った。彼はアレクセイ・バラバノフ監督とともに映画 "Brother-2" のサウンドトラックを探していた。そうして彼らの曲が採用された。

2000年に映画が公開されると、バンドには多くのファンがつき、印税は増え始め、アルバムの売り上げは記録を塗り替えた。(YouTubeでら1億再生間近) 人気は20年間衰えなかった。Bi-2 はロシアの主要な国営テレビ局の放送に登場し、プライベート・イベントでのギャラはロシアで最も高いとされ、1時間あたり5万ユーロから6万ユーロにのぼる。

お分かりいただけたであろうか。つまり彼らは黙っているだけで幸せに生活ができて、リスクを冒す必要など1ミリもなかったにもかかわらず、それでもこの国はおかしい、イカれている、もう許せない 「オマエらはただの人殺しだ!」と歌の中でも外でも声をあげたんだ。それは英国に移住したグレブも同様だよね。

戦争の熱狂と全体主義の中でも、声をあげる勇者はいつだって存在する。権力の暴走、理不尽を見過ごせない英雄はいつだって存在する。一方で、僕のような卑怯者にできるのは、せめて遠くからでも彼らに寄り添って、連帯を示し、世界に発信することくらいだ。

だけどね、見て見ぬふりをするよりはずっと良い。ずっとマシだと思うんだ。21世紀になっても、いまだにペンは剣よりもずっと弱い。弱いけどね、ペンの力を使って、剣を持つ人をだんだんと減らしていくことはできるんじゃないかな。

書籍だけじゃなく、SNSもその手段だし、教育だって当然そう。そうしていつか、世界が少し良くなって、ドス黒い剣が一掃されて、一振りのエメラルド・ソードだけが残った時、「このエメラルド・ソードを市役所にしばらく展示します。子供たちに渡さないとは言っていない!」とかガンギマリキメ顔でホザかれたらさすがにブン殴るよね!


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