まるぶちはな

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浩司と敬子の婚活日記(13)

浩司 敬子は自由奔放、めくるめく夜の天女。 ではなく、ただの一人の繊細な女の子だったのだ。 私はこの女の子を一生、守っていく。 私と敬子は交際0日で結婚した。 あれから10年。 イオンモールのフードコートで、家族3人、仲良くラーメンを食べている。 どこにでもいる、家族。 どこにでもある、光景。 娘の真実は、3歳になる。 あれから時間はかかったが、念願の子供を授かった。 養子縁組をして。 結婚5年目に、敬子が女性特有の病気になり、子供が望めない身体になってしまったのだ

    • 浩司と敬子の婚活日記(12)

      敬子 もう、1週間も欠勤している。 社会人としても、終わっている。 今から東尋坊に身を投げに行こうか…。 東尋坊まで行く体力気力がない。 ここまで、ダメージを受けるとは思っていなかった。 1回で妊娠するなんて宝くじに当たったようなものだろう。 浩司ほど真剣に、子供が欲しかったわけでもないくせに。 こんな自分の浅はかさが嫌になるのだ。 チャイムが鳴る。 シカトする。 チャイムが鳴る。 シカトする。 チャイムが鳴る。 浩司だ。 玄関を開ける。 「よくここが分かったね。」

      • 浩司と敬子の婚活日記(11)

        浩司 夢みたいだった。 目に映る全てが私を祝福しているように思えた。 敬子から 「赤ちゃん流れちゃった」 とラインが来るまでは。 「会って話をしましょう」とラインを送るも既読にならない。 ブロックされている。 敬子の心の傷は私の想像以上なのだ。 たった1回で妊娠できる運とDNAの相性が合うのなら、次がある。 そんな言葉は今は刃にしかならないのだろう。 敬子のことをあまり知らない。 派遣で事務を転々としていて、御徒町に住んでいることくらいしか…。 ダメ元で「村

        • 浩司と敬子の婚活日記(10)

          敬子 自分からホテルに誘ったのなんて初めてだ。 1回で妊娠なんて、しないと思った。 だけど、したらいいな~とも思っていた。 浩司が喜ぶ。 生理不順で、生理が遅れることなんてザラにある。 2週間遅れたところで、ようやく、検査薬を使ってみた。 1分も待たないうちにくっきりと2本の線が現れた。 こんな漫画みたいなことってある?! 事実は小説よりも奇なりだわ…としばらく放心していた。 写メを撮り、浩司に送る。 「検査薬陽性でした。産婦人科に行ってきます。」 「私も行きます

        浩司と敬子の婚活日記(13)

          浩司と敬子の婚活日記(9)

          浩司 意味が分からない。 「今日一戦交えて、子供を授かったら結婚。授からなかったら、これっきりにしましょう。」 授からない可能性の方が明らかに高いだろう。 敬子は兵士のように、やる気にみなぎっている。 私は夜には自信がない…。 ラブホを探し歩いたが、どこも埋まってしまっている。 10軒目で、ようやく一番高い部屋が空いていた。 「もんじゃ臭いのは嫌だから、歯磨きとシャワーしっかりお願いね。」 上司から部下への指示のようだ。 まるで童貞を捨てた時のようにドキド

          浩司と敬子の婚活日記(9)

          浩司と敬子の婚活日記(8)

          敬子 初めてもんじゃ焼きを見た時、多くの人がそう感じるように、ゲ〇みたい。 と思った。 しかし、口に入れてみると、おいしい。 いくらでもいけるわ。 初めてのデートがもんじゃ焼きなのは、食べた事がなかったから興味本位と、だらだら長居できそうだと思ったから。 匂っても汚れてもいい服で来た。 浩司にこんなに感動させられるとは思わなかった。 男が言う「子供が欲しい」なんて信用してこなかった。 昔の彼氏がラブホのベットの上でいう「若いパパになりたい」とかいうチャラチャラした

          浩司と敬子の婚活日記(8)

          浩司と敬子の婚活日記(7)

          浩司 婚活バスツアーで奇跡的にマッチングをし、ライン交換をしたからといって、私不呂浩司は油断してはいなかった。 これからが勝負だ。 初めてのデートは月島のもんじゃ焼きだった。 敬子はもんじゃ焼きを食べたことがないらしく、もの珍しそうに私が焼くのを見ている。 敬子は梅酒ソーダを飲んでいる。 私はカシスオレンジにした。 恐る恐るもんじゃ焼きを口に入れる敬子。 「おいしい!」 良かった。 ほうとうといい、もりもり食べる女性というのは気持ちがいい。 酒が回ってきた敬子は

          浩司と敬子の婚活日記(7)

          浩司と敬子の婚活日記(6)

          敬子 次の目的地はワインのお店。 ここでは5種類のワインを試飲することができる。 体調の良くない浩司はもちろん飲めない。 「浩司さんは普段はお酒を飲んだりするの?」 「付き合い程度には飲めます。」 「今日は飲めなくて残念だね」 「敬子さんは私に遠慮しないで飲んでくださいね。」 「ありがとう。じゃあ、ちょっとだけ」 ちょっとだけのつもりが、しっかり全種類制覇してしまった。 浩司退屈してるかなと、ちらっと目をやると、ぽっりゃり系女子とお話していた。 やるな、あい

          浩司と敬子の婚活日記(6)

          浩司と敬子の婚活日記(5)

          浩司 バスツアーのメインイベントは富士芝桜まつりだ。 会場に到着してからずっと、敬子さんが付き添ってくれている。 体調のすぐれない私を心配してくれているのだろうか。 もし他に目当ての人がいるのなら申し訳ない。 「あのう、敬子さん。私のことは気にしなくていいですから。他に目当ての方がいらっしゃるんじゃないですか?17番さんなんてイケメンですよね。」 「イケメンさんはないよ。絶対にない。だって自分が自分じゃいられなくなるから。イケメンさんの前じゃ大好きなほうとうも喉を通らな

          浩司と敬子の婚活日記(5)

          浩司と敬子の婚活日記(4)

          敬子 洋服は、そうだな、とにかく普段着。 富士山に行くんだし、歩きやすい格好。 体温調節しやすいように、Tシャツの上にパーカーを羽織る。 コイツ気合い入れてきたと思われたくない。 集合場所に着き、周りを見渡すと、女性陣がけっこう美人なことに驚いた。 お年を召しても綺麗な人はいる。 20代だからといって高望みできないことは自覚している。 女性陣を見てたら、男性陣を見るのを忘れてしまった。 バスの中で男性が席を移動し、変わる変わるお話をする。 基本的なプロフィールをお話して

          浩司と敬子の婚活日記(4)

          浩司と敬子の婚活日記(3)

          浩司 勝負服は友人のみのりの愛犬チロをデザインしたTシャツにした。 薄手のグレーのパーカーを羽織る。 それにベージュのチノパンを合わせる。 アディダスのス二ーカーは奮発して購入した。 リュックもアディダスだ。 お菓子が沢山入っている。 普段は洋服など、滅多に買わない。 今日の為に、1000円カットではない美容院に久しぶりに行ってきた。 スポーツ刈りが、心なしか、りりしく見える。 集合場所に着き、バスに乗り込む。 男女共に10人ずつ参加者がいる。 誰が好みか、じっくり見てい

          浩司と敬子の婚活日記(3)

          浩司と敬子の婚活日記(2)

          私の名前は村上敬子。27歳。独身。趣味は想い出に浸ること。 見た目はおとなしそうとよく言われる。 いざ、付き合ってみると、あまりのじゃじゃ馬ぶりに驚かれる。 そのままの君が好きだと言われたから、そのままの私でいた。 ありのままとわがままをはき違えていたかもしれない。 だから私は今も独身なのだ。 子供の頃から結婚を夢見ていた。 高校を卒業したらすぐにでも結婚したかった。 が、相手がいなかった。 最初の彼氏は高1の時。 メル友から交際に発展した。 市内の離れた地域に住んで

          浩司と敬子の婚活日記(2)

          浩司と敬子の婚活日記

          私の名前は不呂浩司。37歳。独身。趣味はお菓子を食べること。 私の人生は波乱万丈だった。 小学生から続いた、酷いいじめ。 最近、友人のみのりに「線路に落とされましたからね」と笑いながら話したら、「それ、殺人じゃん」と突っ込まれた。 交通事故にもあったが、運だけはいいのか、無傷だった。 私の願いはただ一つ「子供が欲しい」 「いじめに遭うとさ、自分の子供を持つことに悲観的になったりしない?同じ目に合わないかとか…」とみのりに聞かれたが、 「それとこれとは別です!」と

          浩司と敬子の婚活日記

          習志野ブルース(10)

          いずみちゃんへ 人生は皮肉だね。 いずみちゃんに出会えたことが、人生で一番幸せだったことなのに、いずみちゃんがいなくなったことが、人生で一番辛いことでした。 いずみちゃんが生きたかった今日という日を、いずみちゃんの大好きな人と生きています。 いずみちゃんがいない胸の痛みを一緒に抱えて。 誠一郎君に出会って、クリスマスが大好きになりました。 いずみちゃんと久の子だから、可愛くないわけがない。 いい母親になれるかは自信がないけど、私なりにがんばっています。 もうすぐいずみち

          習志野ブルース(10)

          習志野ブルース(9)

          いずみちゃんが亡くなったことを久からのメールで知った。 私に連絡してお葬式に出席して欲しいと、メモに残されていたそうだ。 2人だけの秘密って言ったのに。 いずみちゃんの嘘つき。 散り始めた桜のピンク色と、喪服の黒色のコントラストが、悲しいほど綺麗だ。 たった3か月だけのメル友。 たった3か月だけの親友。 遺影を見て、はじめていずみちゃんの顔を知った。 花のように可愛らしい人だった。 泣きじゃくっていると、小さな子供が、背中をさすってくれた。 顔を見なくても、誰な

          習志野ブルース(9)

          習志野ブルース(8)

          来た。この質問が。幸子は思った。 自分自身に何度も問いかけた。 その度に、目を背けてきた。 しかし、ここまでの純粋な想いを前にしてどうして嘘がつけるだろう。 「私、幸せ恐怖症なんだよね。」 幸子という名前に呪われているのだろうか。 「そうかあ~辛いねえ。思い当たる原因はあるの?」 「クリスマスの夜に両親が大喧嘩して、父親が出て行って、母親が発狂してたことかなははは」 「そうかあ~。」 「だから今でも、クリスマスが大嫌い。」 「そうかあ~。逃げ出したくなるくらい、

          習志野ブルース(8)