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物語のようなもの

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短いお話を思いついた時に書いています。確実に3分以内で読めます。カップ麺のできあがりを待ちながら。
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2023年11月の記事一覧

『着の身着のままゲーム機』 # 毎週ショートショートnote

『着の身着のままゲーム機』 # 毎週ショートショートnote

信じられないかもしれないが聞いてくれ。
俺はもうすぐ還暦のジジイだ。
輪廻転生とかそんなもの信じちゃいない。
あんたらと同じようにな。
ある朝のことだ。
前の晩、少々飲み過ぎて着の身着のままで寝てしまっていた。
目覚めた時には、窓の外は明るかった。
起きようとした。
ところが、俺の目の前に男が立っている。
背中を向けているので顔はわからない。
突然、ドアを開けて覆面が入ってきた。
なんだ、なんだ。

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『タペストリー』 # シロクマ文芸部

『タペストリー』 # シロクマ文芸部

詩と暮らす人の住むといふ
ああ、われひとと尋めゆきて
林檎畑の樹の下に
おのづからなる細道は
誰が踏みそめしかたみぞと
つぶら瞳の君ゆえに
憂いは青しそらよりも
時はたそがれ
母よ、私の乳母車を押せ
泣き濡れる夕陽に向かって
あれが阿多多羅山
あの光るのが阿武隈川
やまのあなたになほ遠く
詩と暮らす人の住むといふ

さて、いくつの詩が出てきたでしょうか?
答えはお知らせの後に。

「山のあなた」カ

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『マネキン』

『マネキン』

妙にマネキンの多いフロアだと思った。
ここは、デパートの中だ。
紳士服や婦人服が並んでいる。
もちろん、多くのマネキンがその最先端の流行を身にまとうのは不思議ではない。
ただ、それらが本来あるべきところではないところにまで、飾られている。
しかも、そのポーズが、片足を半歩前に出して顔をやや上に向けたり、片手を頬に当てたり、そんな見慣れたものではない。
何かの行動の途中で、突然時間の流れをぶったぎら

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『強すぎる数え歌』 # 毎週ショートショートnote

『強すぎる数え歌』 # 毎週ショートショートnote

京都の数え歌と言えば、碁盤の目の通り名を歌にした「通り唄」だ。
御所の南、丸太町通りから始まる「まるたけえびすにおしおいけ」
この東西の通りの「通り唄」は有名だ。
だから、これを知っているからと言って、京都人になりきれるわけではない。
しかし、南北の通り歌となると、あまり知られていない。
お教えしよう。
「てらごこふやとみやなぎさかい
たかあいひがしくるまやちょう
からすりょうがえむらごろも
しん

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『ネギ』

『ネギ』

元妻と偶然会った。
新しい顧客との打ち合わせが早めに終わって、タクシーを待っている時だった。
声をかけてきたのは、彼女のほうだ。
いや、正確にはその前から、こちらが見つめていたのだ。
傾きかけた太陽を背にして歩く姿が美しかった。
もちろん、その時には、それが別れた妻だとはわからなかった。
だから、そうだとわかった時には思わず目を逸らしてしまった。
元妻は、そんなこちらの気持ちを見透かしたのかどうか

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『寝心地の悪い脳』 # シロクマ文芸部

『寝心地の悪い脳』 # シロクマ文芸部

「逃げる夢を見るんだよ」
先輩は言った。
「俺じゃないよ、その夢を見るのは」
先輩は自分の頭を指さした。
「こいつだよ」

その先輩とは特別に親しいわけではない。
その日は朝から仕事が立て込んで、休憩が取れなかった。
全員が昼食を終えて戻って来た頃に、ようやくひと段落ついた。
近くのハンバーガーショップのセットで食事を済ませた後、長居するわけにもいかず、近くの公園まで移動した。
幸い天気も良かった

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『戦国時代の自動操縦』 # 毎週ショートnote

『戦国時代の自動操縦』 # 毎週ショートnote

「お前、何やってんだよ」
「あ、神様」
「お前だって神様だろ。大丈夫なのか、ほったらかしにして」
「だって、あっちは自動操縦にして、こっちでネトフリとかアマプラ見てる方が楽しいんだもん」
「でもさ、俺たちの仕事はあっちだろ。この間もお前、自動操縦にして、とんでもない争いになったとこだろ」
「ああ、あれですね」
「自動操縦なんて、まだ実験段階なんだぞ。使用しないでって通達、読んでない?」
「読みまし

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『白いノート』

『白いノート』

父の遺品を、実家で母と一緒に整理していた。
夫には2、3日で帰るからと言ってある。
父は、元々自分の書斎など持たない人だった。
家にいる時には、台所の隣の六畳の居間でいつも過ごしていた。
そこで、新聞や本を読んだり、テレビを見たり、居眠りをしたりしていた。
定年後は、私が使っていた2階の四畳半の部屋に時々籠るようになった。
私の残していった勉強机をそのまま使っていたらしい。
その部屋で、時々は書き

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『わたしの誕生日』 # シロクマ文芸部

『わたしの誕生日』 # シロクマ文芸部

誕生日が好きです。
あ、あなたの誕生日じゃありませんよ。
他人の誕生日が好きって言う人いるでしょ、あれ気持ち悪い。
パーティーなんかに、のこのこ出かけて行って、自分が生まれたわけでもないのに、
「お誕生日おめでとう」
なんてはしゃいでいる人の気がしれないわ。

わたしはわたしが大好き。
顔もスタイルも声も。
いろいろなものの考え方だって、誰よりも素敵だと思うわ。
あと、血液型とか。
そして、何より

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『ごはん杖』 # 毎週ショートショートnote

『ごはん杖』 # 毎週ショートショートnote

食事をする時に、杖をつく人たちがいる。
特に、どこかの地方の風習というわけでもない。
家族代々の慣習でもないらしい。
そんなことには関係なく、ある程度の割合で、そのような人がいるみたいなのだ。

最初に見たのは、小学校の時。
転校生のY君だ。
給食の時間に、彼の方からコツコツと音がする。
見ると、彼は左手に、どこに隠していたのか、杖を持ち、右手だけで器用に食べていた。
しかし、それ以上に驚いたのは

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『世紀の一戦』

『世紀の一戦』

度重なる内戦で、その国は荒れ果てていた。
道路は瓦礫で埋め尽くされ、歪でない建物はひとつもなかった。
何度も、停戦の話し合いは持たれ、何度も、停戦に合意はされた。
しかし、しばらくすると、どちらからともなくまた戦いは始まってしまう。
内戦が始まる前の、その国が平和で、人々がひとつであった頃のことを知る人は少なくなった。

「なあ」
とスパーリングを終えた彼は、トレーナーに話しかけた。
ヘッドギアを

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『余白の気まぐれ』

『余白の気まぐれ』

出張続きだった。
こんなときはいつも同じだ。
最初は、いつもと違う日常に少しわくわくする。
新しい仕事相手との会話も新鮮だ。
また、当たり外れはあるとはいえ、どんなホテルなのか。
食事はどこにしよう。
ホテルの中で手軽に済ませるか。
その土地の郷土料理のようなものを求めて足を伸ばすか。
家族を離れて、少し羽目を外したくもなる。
ただ、それも1週間までだ。
それを過ぎると、やはり疲れがたまってくる。

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