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米国のコミュニティシアターでミュージカルに出演して感じた地域づくりのヒント

アメリカには多くの地域にコミュニティシアターがあります。私が2012年に大学留学していたモンタナ州にもコミュニティシアターがあり、オーディションに受かれば誰もがそのシアターでミュージカル活動や公演に参加できました。

モンタナといえば、町で一番高い建物は大学の寮、大学のキャンパスには鹿とリスが歩いているくらい、アメリカでは「田舎」の代名詞として語られます。そんな大自然に囲まれた広大な州でも、コミュニティ劇場が存在するんです。

私は留学時に課外活動としてそのミュージカルに参加しました。参加者は地域に住むアメリカ人が中心で、約50名のメンバーと共に2ヶ月間の練習を経て、14回の公演を行いました。初舞台の幕が下りるとき、こんなコミュニティシアターが日本にもあったらいいのになあと感じたのをよく覚えています。

このシアターの仕組みや地元の人との関わりをnoteに書くことで、日本の地域づくりの何かしらヒントになれば嬉しいです。(私は地域づくりの専門性はないので、あくまでも自身が経験したことや感じたこと、事実を書き連ねていきます。)

※このnoteは編集部のおすすめと#創作にドラマあり厳選記事集に選ばれました!

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▼はじめに(ミュージカルと私のつながり)

ミュージカルとの出会いは中学生の頃。吹奏楽部でユーフォニアム奏者だった私は、あるときミュージカル作品「West Side Story」メドレーの演奏をしました。複合拍子に苦戦しながらも、なんて美しく緻密な曲だろうと心底感激したものです。こうして私は音楽を入り口に、ミュージカルの世界に魅せられていきました。初めて劇団四季で「オペラ座の怪人」を観て、心が震え涙したのも記憶に新しいです。

その後アメリカの大学留学でミュージカル活動をしたあとは、ニューヨークの本場Broadwayでも計4つのミュージカル公演を鑑賞。プロフェッショナルのパフォーマンスに感銘を受けました。帰国してからも、来日公演を中心に足繁く劇場に通っています。卒論もミュージカルに関する内容で執筆したほどでした。

社会人になってからは、趣味でミュージカル専用のSNSアカウントを作り、その魅力を継続的に発信していました。イベントの運営をちょこっとお手伝いさせてもらい、多くのミュージカル関係者とも交流し、仲間を増やしてきました。

友人から「Marikoといえばミュージカル!」と言われるほど、要は、ミュージカルはもはや私のアイデンティティーの一部なのです。


▼地域に入り込むきっかけ

そんな私もアメリカでミュージカル活動をするまではミュージカルを「観る(聴く)」専門でしたが、何でもやってみたくなる性分なので「いつか本場アメリカでミュージカルに出てみたい」と漠然と考えていました。また、留学したからには、キャンパスライフだけでなく、地元に入り込んでアメリカのリアルな生活を体験したいと課外活動を探していました。

チャンスは前触れもなく訪れるもので、地元で暮らす生徒が「ミュージカルのオーディションに出てみない?」と話を持ちかけてくれたんです。彼女はそのコミュニティシアターで過去ミュージカルに出演したことがあるとか。思い切ってチャレンジすることにしました。

作品は「Miracle 34th Street The Musical (34丁目の奇蹟)」。1947年に全米で一躍有名になったクリスマス映画が原作だそうです。

オーディション数日後、シアターのドアに結果の紙が貼りだされ、私もミュージカル活動に参加できることに。役名の横にズラリと名前が書いてあります。


▼シアター/演劇とアメリカの深い関係

コミュニティシアターの詳しい話の前にアメリカと演劇の関係に少しだけ触れておきます。アメリカの学校では「ドラマ」の授業がカリキュラムに組み込まれていて、演劇を通じた教育が一般的です。教育に限らず、経済面ではニューヨークのブロードウェイがベースボールに引けをとらない観客動員数と経済効果を生み出していますし、文化面ではハリウッド映画・テレビ・ドラマでもミュージカルが頻繁に登場します。つまり、日本と比べてアメリカでは明らかにシアター/演劇が社会に浸透しているんです。この背景をふまえて、コミュニティシアターの仕組みをみていきます。


▼地域に根づいたシアターのモデル

私が活動していたMissoula Community Theater(MCT)はパフォーミングアーツの慈悲事業をおこなう非課税団体(a nonprofit, tax-exempt organization)で、主な特徴は以下6つ。

①地域がシアターを支えている
②参加者はボランティア
③有償公演で参加者の身が引きしまる
④地域の雇用創出
⑤共同作業で舞台セット制作
⑥多種多様なバックグラウンドを持つ地域の老若男女とつながる 

①地域がシアターを支えている

公演当日には観客全員にこのようなパンフレットが配られます。シアター紹介とプログラム、役名と名前が書かれていますが、裏表紙あわせて全33ページのうち16ページを企業広告が占めています。見るとどれも地元企業ばかりです。他にも3ページに渡って寄付してくれた人の個人名が記載されています。

つまり、モンタナ州政府の支援や地元企業のスポンサー、住民からの寄付で、シアターが成り立っているんですよね。

②参加者はボランティア

最も特徴的なのは、演じるキャスト・衣装・照明・チケットもぎり等のスタッフのほとんどが、完全ボランティアであること。私もそうでした。しかも参加者は主役を除いて素人ばかり。シアター設立当時の1971年から今日まで、約130万人の観客を動員し、10万人がボランティアスタッフとしてミュージカル公演に携わってきたそうです。

ミュージカルの経験値に関わらずだれでも気軽に参加できる。無料でこのような貴重な体験ができて、地域の人たちとつながれるなんて、月並みですが、本当にすごいことだと思います。

③有償公演で参加者の身が引きしまる

公演は14回、練習期間は2ヶ月。私が歌う楽曲は5つで、その間大学の授業が終わった夜から毎日のように練習がありました。

公演は有償です。私が記憶している限り、出演した14回の公演はほとんど空席が見当たらなかったから驚きです。毎年楽しみにしている地元の人が多いんだと出演者が話してくれました。お金を払って観てくれるのだから、いくら素人の自分でも喜んでもらえるパフォーマンスをしなければと、背筋が伸びる思いでした。一方、参加者にチケット販売のノルマ等は一切ないので安心でした。

④地域の雇用創出

全てがボランティアのスタッフだけではなく、フルタイムで雇われている方も約120名いました。コミュニティシアターは地域の雇用の場でもあるようです。

⑤共同作業で舞台セット制作

曲や演技が仕上がってきたところで、参加者みんなで一緒に舞台セットを制作します。英語では「Work Party」と呼ばれます。舞台セットはお遊戯レベルではなく本格的。ペンキ塗りに没頭したのは、小学生ぶりでした。参加者同士で確認し合いながら色を塗る。共同作業をすると、参加者の一体感が高まっていくのを感じました。

⑥多種多様なバックグラウンドを持つ地域の老若男女とつながる

出演したのがクリスマスのファミリー向け作品だけあって、出演者が特に幅広い年齢層でした。小学生からリタイア後の方まで、まさにキャンパスライフだけでは出逢えない老若男女がそろっていました。オペラ歌手、雑貨屋、看護師、レストラン経営、テレビ局のディレクター等。時にはパーティーを開き、お酒を交えて語り合うのが楽しいひと時でした。

①~⑥地域でのコミュニティシアターの役割

特徴をまとめていたら、コミュニティシアターが地域のハブとなっていることに気がつきました。そして、地域の色んなステークホルダーを巻き込み、人生を豊かにしている。シアター/演劇文化が根づいているアメリカだからこそ成り立つモデルなのかもしれませんが、日本にもこんなシアターがあれば、地元に入りこむきっかけになるのかもしれませんね。


▼コミュニティシアターの醍醐味

2ヶ月間のミュージカル活動の中で、一生忘れられない出来事がありました。公演前の最後のリハーサル時、リーダーがピアノ演奏と共に「Lean On Me」を突然歌い出したんです。「Lean On Me」は、辛いときは手を取り合って生きよう、と全ての人にエールをおくる名曲。次第に私たちメンバー全員が肩を組み、彼に続きました。たとえ私が日本人で、周りのメンバーがアメリカ人であろうと、年齢が違えど、私は全員が一つのなるのを強く感じました。何にも代えがたい感動で、思わず涙をこらえたくらいです。

思うに、コミュニティシアターの醍醐味はここにあります。様々なバックグラウンドの人たちが、ミュージカルを通して一つになる。「みんなで良いミュージカルを街の人に届けたい」その気持ちさえあれば、それぞれの個性が輝きだす。コロナも重なり、人と人や地域のつながりが希薄になってしまった今こそ、コミュニティシアターの真価がみえた気がします。


▼おわりに

このコミュニティシアターの持続可能性はともかく、地域の人たちの暮らしを豊かにしていたことに間違いありません。その国・地域だからこそ成り立つモデルかもしれませんが、ここに地域づくりのヒントがあるように思えました。コロナ禍で対面での地域交流は難しくなりつつありますが、日本も地域の人と人とのつながりをより強くできていったらいいなあと切に願います。


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