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カンボジアの暮らし方

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10年ほど前にカンボジアの田舎町で暮らした記憶を書いたもの。
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理想のキッチン

理想のキッチン

一人暮らしデビューは、カンボジアだった。

州の中心部なので活気はあるが、都会ではない。赤土が舞い、牛が行き来する田舎町である。
メインストリートの交差点にアンコールワット観光にバスで向かう人々で賑わう大きなホテルがあり、その奥には大きな市場がひろがっている。
日用品から食品まで、なんでも揃う市場だ。

そのほかにもいくつかのホテルやゲストハウス、小さな商店、食堂、コンビニ、ガソリンスタンド、床屋

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いーらい、のナゾが解けたとき カンボジアの暮らし方6

いーらい、のナゾが解けたとき カンボジアの暮らし方6

カンボジアで暮らし始めたばかりの頃のこと。"ネアックルー"(先生)と呼ばれるお仕事をしていた職場である日、

「ネアックルー、いーらい?」

と聞かれた。

"いーらい"ってなんだ!?

まだクメール語も聞き取れないことが多かったけれど、初めて聞く言葉だった。

いーらい?とはてないっぱいの顔をする私に、周りにいた人たちが

「いんぐりっ」

と言う。English。

映画で"いーらい"なんてあ

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長距離バスの人情 カンボジアの暮らし方5

長距離バスの人情 カンボジアの暮らし方5

市場の近くに、床屋さんがあった。

入り口には長距離バスの写真が載った看板があり、店の奥さんか娘さんが机の前の椅子に座っている。みんな目がぱっちり二重の美人さんで、どちらかというとふくよかな体型もよく似ている。

机に貼ってある時刻表を見て、「◯日の何時、プノンペン行きのチケットをください。」と言うと、電話で空席を確認してチケットを出してくれる。

チケットを買える場所はバスの会社ごとにいくつかあ

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至福の水浴び カンボジアの暮らし方4

至福の水浴び カンボジアの暮らし方4

お風呂に入ってシャンプーしようとしたら、全然泡立たない。

朝から息子と公園に行って遊び、午後も強い風のなか、ドラッグストアに行った。

砂が髪の全部にまとわりついている。

一日中、身体にぺたっと何かが貼り付いているかんじですっきりしなかったんだよな、と振り返りながら全身きれいに洗ったらすっきりさっぱりした。

この爽快感。

暑くて赤土の砂ぼこり舞うカンボジアでは、水浴びの習慣がある。

昔な

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夕方のタックロロック カンボジアの暮らし方3

夕方のタックロロック カンボジアの暮らし方3

カンボジアにあるもので日本にもあればいいのに、と思うもののひとつが、"ボンアエム屋さん"だ。

午後、おやつの時間になると出てくる、道端の屋台。台の上にふたつきの鍋が並び、ふたを開けると緑や小豆色の甘く煮た豆とか真っ黒な仙草ゼリーやかぼちゃ、ココナッツミルクで煮たタピオカなんかが入っている。

ひとつずつふたを開けてその中から好きなものを選ぶと、お皿に入れてくれる。そして上からがさっとけずった氷を

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"ない"ことって、本当はすごく豊かだ カンボジアの暮らし方2

"ない"ことって、本当はすごく豊かだ カンボジアの暮らし方2

町の中心に、大きな市場があった。そこに行けば、何でも売っている。

少し薄暗いコンクリート造りの建物は細い通路で区切られていて、ありとあらゆるお店があった。

携帯電話、化粧品、金のアクセサリー、乾物、調味料、漬け物、お菓子、布、服。外側には米、肉、バナナ、卵、外に出るとトタン屋根の下で野菜や果物や魚を売っている。メインの建物の脇にも、金物、食器、文房具、おもちゃ、工具、などなど、たくさんの店が軒

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国道沿いの家 カンボジアの暮らし方1

国道沿いの家 カンボジアの暮らし方1

カンボジアの田舎町に住んでいたことがある。

砂ぼこり舞う国道沿いにホテルやレストラン、銀行、市場、公園などがあり、町を横切る川を渡る橋に続く。橋を渡ると道の両側にバイク屋さんやタイヤ屋さん、お菓子や飲み物を売る店などが連なる。その中にある電気屋さんの2階に部屋を借りて住んでいた。

白く塗られたコンクリートの建物の脇にある階段を2階に上ると部屋の入り口があるのだけれど、私は電気屋さんの入り口から

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