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歯がない私の父親
私の父は、歯がない
具体的にどこの歯がなくて、どこの歯があるのか私はわからないが、見える限りだと1、2本しかないと思う
私が小学校高学年くらいから父の歯はなくなり、入れ歯を入れるのも拒否した
なぜなくなったのか、わからない
なぜ入れ歯を入れるのを拒否したのかも、わからない
私は中学生・高校生の時に父と長い長い喧嘩をしていたので、その時代に父と話した記憶はあまりない
父のことが中学の頃は疎ましく、早く離れたかった
高校の頃はそこまで嫌いだとも思っていなかったが、勉強友達部活恋愛に忙しくしていた私は、家族との時間や家族のことを考える時間をあまり取ろうとしなかった
父との関係の修復はしなきゃなあとは思っていたが、それより大事なことがいっぱいあると思っていて、面倒くさかった
父は、ことあるごとに自分に歯がないことをネタにしていた
自虐したり、ツッコまれたりして笑いをとっている姿をよく見てきた
私が大学に入学すると、様々な環境が変化する中で、父とも普通に話せるようになっていた
家族と離れ離れに過ごすこと、帰省すること、成人式、などで家族のことを考える機会が増えて、父に手紙を書いたこともある
バイトもするようになったので、私と姉で誕生日と父の日に贈りものもするようになった
中学・高校と父としっかり顔を見合わせてこなかった私は、大学に入り、父と顔を合わせて話をするようになり、驚いた
父の顔は、「歯がない人」の顔になっていた
歯がない老人は、口元が緩くなり、皺が増える
父は相変わらず歯がないことをネタにしながら、「歯がない人」の顔で生活をしていた
私は父の歯がないことについて、あまり何も思ったことはなかった
おもしろー、くらいにしか思っていなかった
ふざけることが大好きな父には、そのくらいがちょうどいいと思っていた
私は、父のことを友達に紹介したことがほとんどない
長い長い喧嘩をしている時は友達に父の話を一切しなかった
母と姉ととても仲が良い私は、友達との話の中にもSNSにもよく彼女らを登場させるので、父だけいつもいない、というのは友達の中でも違和感だったのだと思う
いるはずなのにいなかった
父との関係が改善した今は、たまに友達に父の話をするようになったし、父とのLINEのやり取りをSNSに載せるようになった
先日、友達と話している時に、父の話になった
その友達は私の父をとても面白がってくれた
面白いもの好きの彼女は、「会ってみたい」とまで言ってくれた
高校から知り合った彼女には、父の姿を一度も見せたことがない
歯がない父の顔が私の頭をよぎった
そう、父には歯がない
歯がない父親
めちゃくちゃふざける父親
頑固な父親
私のことを愛してくれる父親
父のような人は、今までみたことがない
突飛な発想を持ち、確固たる信念を持っていて、人が困っていたらなんでもして、50代前半にして「歯がない人」の顔をしている
父は、変だ
その変さは、私が生きたいと思っている道をいつも肯定してくれていた
人と同じじゃなくてもいい、面白ければいい
でも、その変さが嫌で嫌で仕方なかった時代が私にはあるのだ
中学・高校の時は変な父親が恥ずかしくて、誰にも言えなかった
歯がないし
父は、変だ
今はその変さを友達に話すのが楽しい
「会ってみたい」と言ってくれた彼女に、私は
「歯がないけどいい?」
と言った
彼女は、大笑いした
父の歯がないことを友達に話したのは、初めてだった
歯がないの!なんでかわからないけど歯がないの!そしてすごく変!
それでもいいならぜひ会ってよ
パパ、喜ぶと思う!
それからも父のトンチキ話を私はたくさん話し、私の友達はいつまでも笑った
こんな風に父の話を楽しく話せる日が来るなんて、想像できなかった
恥ずかしくって、隠していたかった
でも今、変な父が面白くてたまらないし、それを面白がってくれる友達がいるということが、嬉しくてたまらない
私、ちゃんとパパのこと大好きなんだな
この夏、彼女と父が会う機会を作れそう
私の友達が会いたがっている、と伝えたら父は驚くだろう
そして、嬉しく思ってくれるだろう
私の父と私の友達が話す日、面白い日になるに違いない
父には自分の歯がないことを思いっきりネタにしてほしいし、友達には父の話に思いっきり笑ってほしい
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