小説_『まっすぐ歩く』

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僕はまっすぐ歩いている。

なぜなのかは、あとで話すかもしれないし、話さないかもしれない。
いまはまっすぐ歩いている僕が何を感じているかを聞いて欲しい。

今日は涼しい。五月の始め。
ゴールデンウイーク明けの仕事帰り。

最寄りの駅から自宅まで歩いている。

例年の五月よりも幾ばくか気温が低いらしい。

暑がりの僕にはちょうどいい気候だ。

連休明けの仕事で疲れているところを心地の良い風が癒やしてくれているようだ。

クールビズがまだ始まっていなかった四月はジャケットを着て、ネクタイを締めて出勤していた。
気温はもう五月と変わらないというのに格好は冬と大きく変わらない。

だからどうしたって?

そう思うならこの本を閉じるという選択肢があなたにはある。
それがとても勿体ないことであることをここで強調したいところだが、そんな自信は僕にはない。

歩いていると色んなことを思い出す。
色んな景色と色んな人とすれ違う。
でも感じることには共通点がある。
僕はそれを起点に色んなことを思い出していく。
記憶のスイッチが押されると、いっきにそのことを想い出す。
想い出される速度は僕には操作できず、どんどん流れていく。
あるときは言葉、あるときは匂い、あるときは感覚、何を起点にして想い出すのかは自分でも分からない。

ときには完全に忘れていたことを想い出すことだってある。
この不思議な感覚が僕は好きだ。
子供のときにつまらなかった映画を大人になってみたときに感動するような、そんな感覚に近い。

嫌なことだって想い出す。
でも自動的に記憶は流れ、次の記憶に繋がっていく。
悪いことばかりではない。
僕の人生にだって良いときはある。

良くないときだってある。
でもそれがないと良いときの価値がわからないじゃないか。

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