まこ

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趣味で詩を書きます。都内で自家焙煎コーヒショップを経営しています。コーヒーと芸術のペアリング🎨☕️

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  • 鬱病虐待サバイバーが自家焙煎コーヒーショップを開業するまで

    虐待サバイバーのうつ病患者がコーヒーショップを開業するまでの激動の半生をお送りします。

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鬱病虐待サバイバーが自家焙煎コーヒーショップを開業するまで⑧

もうほとんどが大方進路を決めていた時期だった。就職組はいそいそと説明会に参加し、受験組は大学の資料請求をしたり勉強に専念しようとしている。 真面目に学校に通っていなかったわたしは、いい大学を受験できる訳もなく、歌やアニメが好きだったから声優の専門学校か、わたしでも入れるレベルの大学の文学部に行きたいなと思っていた。 父がなんの前触れもなく消息を経ってしまい、最初に思ったのは「進路どうしよう」だった。モラトリアムを与えられず社会に突き落とされる恐ろしさや、貧困の連鎖が頭の隅を

    • ノルウェイの森

      私が初めてノルウェイの森を読んだのは、たしかまだ高校生のころだった。授業合間の休憩時間に、鮮やかな赤と緑に装丁された文庫にかじりつく私を見て、現代文の先生は「高校生には少し過激じゃないかな」と笑っていたが、今思うといつも本ばかり読んでいる私を温かい目で見守ってくれていたのだと思う。 私はあの頃、直子であり、緑でもあった。両親の離婚やなんだでもう十分過ぎるくらい傷ついていたし、損なわれ歪んだまま大人になるのが恐ろしくてたまらなかった。ただ一つ違ったことは、自分自身の半身にまだ

      • 痙攣

        「それ飲まないとどうなるの?」 ふとした、ただの素朴な疑問だった。彼女は一瞬かすかに顎を斜め上に傾げると、すぐに唇の端がすいと引っ張られて悪戯を思いついた子供のようににやりと笑った。 「白目を剥いて涎を垂らして痙攣するの」 彼女は自分で言った悪趣味なジョークでくすくす笑うと、指先で摘むとすっかり隠れてしまうほどの小さな白い錠剤を慣れた手つきで口に含みコップの水を飲み下した。首筋に張り付くような青白い薄い皮膚を、女性にしては大きめな喉仏が盛り上げている。それが水を飲み下す

        • 愛されているのだと

          君に愛されることで僕は僕自身を愛せるんだ。 だから僕はいま二人から愛されているんだよ。 君もたくさんの人に愛されているんだよ。 古い文学小説から抜粋したかのような美しい言葉だと思った。そう思いながら、わたしは小さな布団のなかで君の愛にくるまって肩を丸めて小刻みに震わせながら泣いた。涙がとめどなく溢れてはその人のシャツの胸元に染み込む。 この優しい人が幸せになれればいいのに。どこまでも幸せであってほしい。幸せにする権利が私にあればいいのに。

        鬱病虐待サバイバーが自家焙煎コーヒーショップを開業するまで⑧

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          これが

          「ベンクション効果っていってね、自分は動いていないのに向かいの電車が走り出すと動いてるように感じるでしょう?」 僕は話半分に聞きながらきみのつるりとした顔に落ちる窓の形をした光の影がするすると横に動いていくのを眺めていた。真っ直ぐに切り揃えられた前髪が揺れている。お正月の終わりがけはいつも天気が良くて昼過ぎの日差しは角がとれたように暖かい。深く座り込んで眠りこける人や、まだおうちに帰りたくないとシートに丸くなっている子供。 穏やかで、どこにも行かずにどこにも帰らずにいつま

          隣の席のカップルがなぜこんなもの暗記させられるんだと空で案じた一節 左耳に残るつづきが細やかな糸となってその日の日没を紡ぐ 集中して 置き去りにして 千年前の帰り道 右前足のない猫がそれを咥えながら アパートの階段をスタスタ登って逃げた わたしはそれを結えてクローゼットにくくりつけたけれど 君がこじ開けようとしたドアロックはあまりにも調子の軽い音で倒れた 子供が好きだと笑う君のこめかみのニキビの跡 微かに匂い立つ化繊の折り重なる白抜きのそれを いまだ見ないふりをして 千

          肉芽

          押し当てられた腰骨は限りなく私を押しやった。押しやって推しやって押し潰して醜く変形したところでやっと肉を結ぶとわたしのつま先がようやく触れて、わたしは死に物狂いで着地する。膿みにまみれた一瞬間のゆりかご。反対側に大きく揺れる。ゆらゆらと。何もない空を削り取るような慣性で。

          鬱病虐待サバイバーが自家焙煎コーヒーショップを開業するまで⑦

          高校時代は部活もせずにバイトに明け暮れた。地元のイオンにあるケンタッキーフライドチキンのバイトは高校を卒業するまで長くつづいた。 マナーの悪い人や、店員をストレスの捌け口にして怒鳴り散らすような人、正直ろくでもない色んなお客さんが来たが,、従業員同士は仲が良かったため愚痴を吐きあいながらも店長を中心に結束し一生懸命働いていた。 わたしも学校をサボった日でもバイトにはきちんと行って、夕方から夜まで働いた。自分で稼いだお金で食べ物やノートや文房具、本などを買うことができたのが嬉し

          鬱病虐待サバイバーが自家焙煎コーヒーショップを開業するまで⑦

          中平卓馬展 火-氾濫

          先日友人と中平卓馬展に行ってきたのだけど葉山であった展覧会とは全く違った展示方法でこれまたキュレーターのセンスに脱帽。パリの展示の際に写真を写真としてでなく印刷物として展示したいという中平の意向をくんでか、雑誌がひたすらにそのまま展示されていた。壁まで間近にせまり寺山修司の連載文を読みながらじっと写真を眺める。 若い頃の作品から急性アルコール中毒で死にかけた晩年まで作風は少しずつ変わっていくけど捉えたいものは一貫している。 後半にクタクタの帽子をかぶって雪道を迷わずに、し

          中平卓馬展 火-氾濫

          2024年3月の日記

          別に僕の一生懸命書いた文章より綺麗なラテとかスイーツの写真とかの方がバンバンいいねくるけどそんなんしかいいねしない人と関わりたくないので僕が一生懸命書いた文章はいいねしなくていいのです。文学読む人やアートがわかる人としか友達にならないと決めた春先。感受性が死んでる人と関わるととても傷つきます。消費社会においてモノだけでなく人やコミュニケーションや自分自身すらも消費しつくされる時代が始まっている。うすら恐ろしさに包まれながら桃源郷をせっっせと打ち立てようと毒虫のようにもがく。

          2024年3月の日記

          古井由吉『杳子』読書感想文

          よく晴れた春の日暮れはどうしてか泣きたいような気持ちになります。暖かい空気が日没とともに、含んだ水分をそっと染み出させるような。肩に触れた涙が洋服にじわりと染み込むような。優しくて温かな悲しみの膜に体が撫でられているような感覚になります。 春の雨は好きです。何もかもをゆるしてくれているような、そんな緩やかなリズムで不確定な実存を包み込んでくれます。 さて、コーヒーのペアリングにと久々に古井由吉の『杳子』を読み返しました。 政治的イデオロギーから距離を取り、人間の内面を描く「

          古井由吉『杳子』読書感想文

          鬱病虐待サバイバーが自家焙煎コーヒーショップを開業するまで⑥

          人間が生きていく上で衣食住の3つが整っていてこそ安心して人間らしい生活が送れるのだと思うが、わたしは年頃になってから洋服ならず下着すらも充分に買ってもらえなかった。思春期にはかなりキツいことである。 少ない数の下着でやりくりしているため、洗濯のルーティンがうまくいかず、朝から手洗いしてドライヤーで乾かした生乾きの下着を身につけることだってしょっちゅうで、 気持ち悪い上に朝時間もないのだからイライラしたものだった。 おまけに姉と妹も同じありさまで、イライラをぶつけ合いながら一

          鬱病虐待サバイバーが自家焙煎コーヒーショップを開業するまで⑥

          鬱病虐待サバイバーが自家焙煎コーヒーショップを開業するまで⑤

          高校生活 わたしはなんとか地元の高校に進学したものの、相変わらず授業はサボりがちで、最初こそ努力したもののあまりに家庭環境が掛け離れた同級生たちともなんだか何を話していいか分からなくなり、わたしはいつも休み時間を廊下の傘立てで本を読んで過ごしていた。 わたしのクラスの一つ隣の部屋が図書室であった事もあり、高校の司書の先生には近代文学を読み込む今時珍しい子供だと気に入られ、たまに図書室で授業をサボることに目をつぶってくれた。 クラスで悪目立ちしていたわたしを授業中もクラス

          鬱病虐待サバイバーが自家焙煎コーヒーショップを開業するまで⑤

          不眠症との付き合い方

          どうして眠れないのかわからないのだけど私は何年も夜上手く眠れない。眠ろうとすると色んな考えが浮かんできてあれもこれもと気が気でなくなってしまう。 あの言葉の意味は何だっけ。 あの時こう言われたのはどういう意味だったのだろう。 明日の気温は何度で何を着て家を出ればいいだろうか。 神経が昂ってくるせいか、体がビリビリと感電したようになり、しゃっくりをしたときみたいに何度も飛び跳ねてしまう。 あぁ、またチックが来た。この調子だと今日もだめだ、とがっかりする。眠るのにがっかりす

          不眠症との付き合い方

          鬱病虐待サバイバーが自家焙煎コーヒーショップを開業するまで④

          中学時代 入学してすぐわたしは友達に誘われて吹奏楽部に入った。部活紹介で、壇上で力強くドラムを叩く女性の部長さんがカッコ良くて、わたしはパーカッションかトランペットがやりたいなぁと思い入部申請書を出した。いろんな楽器を一通り試し吹きする適性テストの結果、顧問によってトランペットに割り振られることが決まり、とても嬉しかった。 トランペットは音が大きいので部室の一番後ろ側、指揮者から離れた位置にすわる。そうすると他のパートの部員たちのずらりと並ぶ背中を眺めることができる。 合

          鬱病虐待サバイバーが自家焙煎コーヒーショップを開業するまで④

          鬱病の虐待サバイバーが自家焙煎コーヒーショップを開業するまで③

          幼少期 3歳からは母の意向で仏教系の私立の幼稚園に入学した。毎朝ブラウスと吊りスカートをはいて、鏡の前に座る。母は三人の子供たちを代わる代わるにかわいいぼんぼりのついた可愛いヘアゴムで髪をセットしてくれた。 母は私の髪をヘアブラシでときながら、あんまり強い力で引っ張るもんだから、私の頭は引っ張られるままに傾く。そうすると母に頭をピシ、とまっすぐに戻される。その繰り返しである。思い返すと、すこし居心地の悪いような、でも母の愛を独り占めできるその時間が私は好きだったのだと思う

          鬱病の虐待サバイバーが自家焙煎コーヒーショップを開業するまで③