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散文

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雑多にいろいろ
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そもそも

そもそものはなし、穴の空いた容器だとどれだけ磨いても、それだけ水を注いでも時間が経てば空っぽになる。
生活に忙殺されるなか欠陥容器に注ぎ続けるひとなんていないよな。
そして空っぽになって汚れた容器は誰にも見向きもされなくなる。

痙攣

「それ飲まないとどうなるの?」

ふとした、ただの素朴な疑問だった。彼女は一瞬かすかに顎を斜め上に傾げると、すぐに唇の端がすいと引っ張られて悪戯を思いついた子供のようににやりと笑った。

「白目を剥いて涎を垂らして痙攣するの」

彼女は自分で言った悪趣味なジョークでくすくす笑うと、指先で摘むとすっかり隠れてしまうほどの小さな白い錠剤を慣れた手つきで口に含みコップの水を飲み下した。首筋に張り付くよう

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愛されているのだと

君に愛されることで僕は僕自身を愛せるんだ。
だから僕はいま二人から愛されているんだよ。
君もたくさんの人に愛されているんだよ。

古い文学小説から抜粋したかのような美しい言葉だと思った。そう思いながら、わたしは小さな布団のなかで君の愛にくるまって肩を丸めて小刻みに震わせながら泣いた。涙がとめどなく溢れてはその人のシャツの胸元に染み込む。

この優しい人が幸せになれればいいのに。どこまでも幸せであっ

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これが

「ベンクション効果っていってね、自分は動いていないのに向かいの電車が走り出すと動いてるように感じるでしょう?」

僕は話半分に聞きながらきみのつるりとした顔に落ちる窓の形をした光の影がするすると横に動いていくのを眺めていた。真っ直ぐに切り揃えられた前髪が揺れている。お正月の終わりがけはいつも天気が良くて昼過ぎの日差しは角がとれたように暖かい。深く座り込んで眠りこける人や、まだおうちに帰りたくないと

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不眠症との付き合い方

不眠症との付き合い方

どうして眠れないのかわからないのだけど私は何年も夜上手く眠れない。眠ろうとすると色んな考えが浮かんできてあれもこれもと気が気でなくなってしまう。

あの言葉の意味は何だっけ。
あの時こう言われたのはどういう意味だったのだろう。
明日の気温は何度で何を着て家を出ればいいだろうか。

神経が昂ってくるせいか、体がビリビリと感電したようになり、しゃっくりをしたときみたいに何度も飛び跳ねてしまう。

あぁ

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中年文学

どうしようもなく疲れたら死のうと思っていたけど、わたしが死んだら多分生涯悲しむだろうなって人が増えていき、わたしはおいそれと死ねなくなった。若きウェルテルのように叶わぬ理想に死ぬことができるのは青春の特権なのだとか。生きなければならない。あと何十年と続く生に閉じ込められて。

ラッシュアワー

京王線で八王子から東京駅に向かう朝のラッシュタイムの電車の中は人でごった返している。
これが東京の満員電車か、と

自分より頭一つ分以上大きい背広に押しつぶされ右に左に流されながら、ふと必死に踏ん張る足をふと脱力させる。
すると不思議と倒れることはなくて、わたしは川に浮かぶ木の葉みたいに車両の中をたゆたっていた。
目を閉じる。知らない誰かの呼吸と匂いと体温。
群衆の中では誰でもないわたしが誰でもな

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わたしのママ

わたしの首には生まれつき100円大くらいのあざがある。今思うと大したアザではないんだけど、小さい時はそれを気にしてずっと髪を伸ばしていた。
そんな私を見てママは、私のクローンが現れてどっちが本物か分からなくなったときこのアザが目印になるんだよって言ってくれた。

子育てに熱心な人で、よく膝枕で耳かきをしてくれた。わたしの耳の奥には妖精が住んでるよって言ってた。それたぶん全然とれない耳かすだと思う。

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貸し出し中

選んでほしいなという
誰かに貸した本が
いつまで経っても返ってこない
もしかすると、と託した友情の期待が
読み古した本と一緒に
どこか遠くに行ってしまったようで
思い出の一部分を失ったようで
余計にかなしい

南口ロータリー

薄く伸ばされた両翼が空を切るように頭上を通り越して降っていった。羽毛が曇り空の空気をはらんでふわりと電線に舞い降りる。鳥はそこにあるなにかを掴んでいる。黒く光る瞳は常に自分が世界に内包されていることを知っている。

タップ

寂しさと時間を夜に持て余してスマホをコツコツ叩く。スワイプに忙しいかすかに巻いた中指の爪の端が気になって薬指でなぞる。今日は春一番が吹いたとか、もうあまり寒くもないんだもん。毛布に潜り込むこともできず、ただ煌々とライトが顔を照らす。

まだ

みんないつからきちんと夜にお家に帰るようになったの。日を跨いでも商店街をそぞろ歩く人はたくさんいたのに。夜と朝の間に人が行き交う時間があったのに。いつからきちんと店が日を跨ぐ前に閉まるようになったの。路上ライブもできないの。ねぇまだお日様が出るのはずいぶん先だよ。なにかこの街が削り取られているみたいね。

人花

人花

 朝起きると二の腕がむず痒く、姿鏡の前に立って寝巻きを捲り上げて確認すると、植物の芽のようなものが生えていた。台所で朝食の準備をしている母にそのことを告げると「あら、おめでとう」と一瞬振り返り、すぐに何事も無かったかのようにまな板に向き直った。その腕には半袖のブラウスの袖の奥から伸びた蔦が絡み、左手の先の方で淡い黄色の花が咲いている。包丁のリズムに合わせで揺れるその花を見ていると、言い知れぬ不快感

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氷菓

睡眠薬を飲み下すと脳の奥で氷砂糖がじわりと溶けたようになにかが広がる。
二言目には死にたいと言う僕に、きみは悲しそうに微かに目を細める。
僕にしか気づけないくらい微かな皮膚のさざめき。
僕の孤独で君を絡め取ってしまったことが心残りで、僕は今日も死ぬのを踏みとどまり続けている。