見出し画像

人花


 朝起きると二の腕がむず痒く、姿鏡の前に立って寝巻きを捲り上げて確認すると、植物の芽のようなものが生えていた。台所で朝食の準備をしている母にそのことを告げると「あら、おめでとう」と一瞬振り返り、すぐに何事も無かったかのようにまな板に向き直った。その腕には半袖のブラウスの袖の奥から伸びた蔦が絡み、左手の先の方で淡い黄色の花が咲いている。包丁のリズムに合わせで揺れるその花を見ていると、言い知れぬ不快感が湧き上がってくる。部屋に戻ると机の引き出しからハサミを取り出し、腕に生えた芽を根本から切り取った。痛みはない。たぶんまた明日には生えてくるのだろう。
 部屋に戻ってパジャマを脱ぎ捨てブラを着けるとまた少し締め付けがキツくなっていた。サイズを買い替えないといけない。母に面倒がられるだろうなと思いながら制服のシャツを着る。今日は一限から体育で少し憂鬱だ。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?