これが


「ベンクション効果っていってね、自分は動いていないのに向かいの電車が走り出すと動いてるように感じるでしょう?」

僕は話半分に聞きながらきみのつるりとした顔に落ちる窓の形をした光の影がするすると横に動いていくのを眺めていた。真っ直ぐに切り揃えられた前髪が揺れている。お正月の終わりがけはいつも天気が良くて昼過ぎの日差しは角がとれたように暖かい。深く座り込んで眠りこける人や、まだおうちに帰りたくないとシートに丸くなっている子供。

穏やかで、どこにも行かずにどこにも帰らずにいつまでも立ち止まっていられるのだと錯覚する。止まっているように錯覚する。

きみは笑うだろうか

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