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まこ
2024年4月8日 23:39
押し当てられた腰骨は限りなく私を押しやった。押しやって推しやって押し潰して醜く変形したところでやっと肉を結ぶとわたしのつま先がようやく触れて、わたしは死に物狂いで着地する。膿みにまみれた一瞬間のゆりかご。反対側に大きく揺れる。ゆらゆらと。何もない空を削り取るような慣性で。
2024年1月12日 17:12
淋しさを浸したらルビー色のダージリンマスカットもいで添えたら水滴と朝もやの味あの空のグラデーション君にも見せたい鼻歌のイミテーション意味もなく添えたい前髪越しのつま先は一定のリズム 揺れているトワイライン トワイライト踏切前で立ち止まった噛み締めた 唇は一定のリズム 震えてるトワイライン トワイライト
2024年1月5日 20:51
君が誇らしげになにかを話す時ぴんと張ったゆびの先丸い瞳の表面が太陽を弾いてつるりと光るわたしはただその顔が愛しくて口の端が引っ張られてついほころぶ君の美しい知識のかけらがわたしの心にやみくもに張ったいくつもの線をゴールテープみたいにぴん、ぴん、と綺麗に切り取っていく
2023年12月1日 10:58
高層ビルから見る夜景より川面の小石に乱反射する太陽の瞬きの方がきっと思い出の飛距離が長い。白鷺の群れが気持ちよさそうに歩いている。じっと微動だにせず一点を眺める嘴の先。たぶん冬の朝の空気を啄んでいる。
2023年10月11日 12:36
あの夏道路沿いのアパートの花壇の端君と並んで腰掛けてアイスバーを齧りながら日が暮れかけても僅かに残るアスファルトの熱時折走り去る車の排気ガスの匂い世界に二人きりで汗ばみながらも手を握り合いそれだけで全く満たされて八月の匂いに胸を膨らませていた
2023年10月6日 17:38
君が脱ぎ捨てたブラウスはまだあたたかくて春の匂いを放っていた。あの時何度もたなびくカーテンが撫でるコスモスの赤がリビングに滲んでいた最後の一欠片が食べずにお皿に置かれたままのドーナツみたいにパンプスの踵をコツリコツリと鳴らしながらまた春を脱ぎ捨てていく
2023年9月21日 18:35
その日の天気は海だったレンガは青く波打ってコンクリートは朽ちた珊瑚礁のように静かにだまりこくっているじっとり湿った肌をなんども拭うみんなスイスイとどこかに泳いでいくのにわたしは何度も何度も立ち止まってはシャッターを切る
2023年8月23日 22:57
月光が引きちぎられた繊維の先のように闇の中に伸びてはその漆黒に飲み込まれていく。まるでついさっき誰かが厚紙を手で引きさいて出鱈目な丸を描いたような朧げな月だ。電車が少しずつスピードを上げる。そのモーター音が強く高く順を追っていくように。曖昧なように聞こえるその音の変わり目は、旧態然とした厳格な指揮者の指揮棒の先をぴったりとなぞらえている。
2023年8月23日 15:24
やっぱり仕事上がりはビールだよそうはにかむ君の骨張った肩が触れるか触れないかで私の横を通り抜け追いかけるようにアルコールの香りが軌跡を残したいくつも連なるビルのネオン看板が振り返った君を後ろから照らして新宿の街に縫い止める君は根拠のない出鱈目をわらったまま半月の切れ目からこぼしつづけるから私は地面に擦れた靴底の感覚だけをただ確かめるために何度も何度も踏み締める
2023年8月16日 16:59
蝉が死んでいた。二匹折り重なるように潰れている。夏の終わり。それはわたしをこの世に内在するすべての悲しみと共に置き去りにされたような気にさせる。なおざりに熱されたあとのアスファルトの熱の翳り。羊水の中のわずかな音。
2023年8月13日 22:04
誰も傷つけたくないと君が残した米の一粒を僕は指先で捉えてはしずかに口へ運ぶそれは甘い鉛のような質量でそれは連続する一年のようで胃袋の奥に真夏の雪が散り積もる永遠に満ち足りることもなく君の孤独が 君の痛みが何度も何度も蜻蛉の僕を喉元まで埋め尽くす
2023年7月29日 19:48
私の詩はつまらないー前髪を2センチ切っても気づかないー私が追いかけると猫が走りさるー透明じゃなかったことに気づくー明日がくるー明後日もくるー明々後日もくるー冷えたワインがのみたいー明日も明後日も飲みたいー
2023年7月29日 19:30
本をめくる選民思想なような軽薄な指先の踊り孤独な被害者意識に飲まれてまたせっせと穴を掘るひんやり冷えた空気だれからも見えない地平目の前で触れた壁心地よくて黒い獣だけが息もせずうごめく
2023年7月21日 16:26
私の体が世界が言葉がままならないということが美しい寒さを耐え忍ばなければ葉は赤く色づくこともなかったわたしのむねが破れるように痛まなければこの言葉は紡がれなかった