隣の席のカップルがなぜこんなもの暗記させられるんだと空で案じた一節
左耳に残るつづきが細やかな糸となってその日の日没を紡ぐ

集中して 置き去りにして

千年前の帰り道
右前足のない猫がそれを咥えながら
アパートの階段をスタスタ登って逃げた
わたしはそれを結えてクローゼットにくくりつけたけれど
君がこじ開けようとしたドアロックはあまりにも調子の軽い音で倒れた

子供が好きだと笑う君のこめかみのニキビの跡
微かに匂い立つ化繊の折り重なる白抜きのそれを
いまだ見ないふりをして
千年後に遺す何かを手探る

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