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証拠説明書の書き方~その1~

労働審判の申立てに際して作成・提出する書面については、第12回のコラムで説明しました。そのうち、まず「労働審判手続申立書」の書き方について、第14回第15回第16回第19回第20回第21回第23回第24回のコラムにて、私の申立書の事例を書き出しながら、詳しく解説しました。また、労働審判手続申立書のテンプレートを(有料ではありますが)第25回のコラムで提示させていただきました。

今回から数回にわたっては、証拠説明書の書き方について解説していきたいと思います。

まずおさらいですが、証拠説明書とは、労働審判に際して労働審判委員会へ提出する証拠(=書証)をリスト化した書面です。証拠にはいくつか種類がありますが(第12回のコラムをご確認ください)、書証とは文書の形で残されている証拠と考えてください。

民事訴訟規則第137条では証拠説明書の提出が義務付けられています。労働審判では、労働審判規則第9条4項・第10条から、証拠説明書の提出が求められていると解釈できます。民事訴訟規則によれば、証拠説明書に含めなければならないものは、

■ 文書の標目(=証拠のタイトル)
■ 作成者(=誰がその証拠を作成したのか)
■ 立証趣旨(=その証拠によって何を立証するのか)

です。労働審判でも同じように考えればよいと思います。くわえて、

■ 号証番号(=証拠の通し番号)
■ 原本か写しか(=証拠の原本か、それとも原本がコピーされたものか)
■ 証拠の作成年月日(=いつ作成されたか)

も記載する必要があります。順番は、

① 号証番号
② 文書の標目
③ 原本か写しか
④ 作成年月日
⑤ 作成者
⑥ 立証趣旨
⑦ 補足事項/備考(必要に応じて)

で書いてください。証拠説明書のフォーマットは基本自由ですが、表形式にするとよりわかりやすいと思います。

第一に、号証番号は、労働審判の申立人(ないし民事訴訟の原告)の証拠なら「第〇号証」、労働審判の相手方(ないし民事訴訟の被告)の証拠なら「第〇号証」となります。甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証、~~ というように○の部分に数字が入ります。

第二に、文書の標目は、出来る限りその文書のタイトル通りの文言を標目として書いてください。例えば、雇用契約書なら「雇用契約書」、離職票なら「離職票-1」(数字が入っているはず)、電子メールの写しなら「電子メール(・・件名・・)」といった具合です。もちろん、何もタイトルらしきものが書かれてない場合は、みずからタイトルをつけてください。

第三に、原本か写しかは、裁判所へ提出する証拠は基本的には写し・コピーとなります。手元に原本を所持し、裁判所に出頭する期日には原本を持参してください。場合によれば、期日当日、その原本を労働審判廷への出廷者全員で閲覧・確認することもあると思います。

第四に、作成年月日は、書証の原本が作成された年月日を書きます。電子メールの写しであれば、送受信された日時が正確にわかるはずです。ハローワークなどの政府機関が発した公的文書であれば、文書発出の日付が明記されているでしょう。離職票や雇用保険の失業等給付(求職者給付)に関する書類であれば、発行された年月日または受け取った年月日を書けばよいと思います。インターネットサイトの印刷物を証拠として提出することもあると思いますが、その際は印刷した日付を記述すればよいと思います。雇用契約書であれば、通常、締結された日付が記載されているでしょう。

第五に、作成者とは、その証拠を作成したのは申立人か相手方か、それとも例えば「〇〇公共職業安定所」や「日本年金機構〇〇年金事務所」かなどといったことです。雇用契約書なら、通常、ドラフティングしたのは会社(=相手方)でしょう。もし署名者を作成者とするなら、申立人と相手方の両者ということになるのでしょう。タイムカードも会社。離職票なら公共職業安定所。同僚や上司・部下などが陳述書(別途、説明予定)を書いてくれる場合、その氏名を書く必要があります。

そして、第六に、立証趣旨。提出する書証をもって何を立証したいのか。ここが一番大切です。例えば、雇用契約書なら、会社に入社した事実、雇用の形態が「雇用期間の定めなし」か「雇用期間の定めあり」かといった有期雇用契約か否か、入社した日、賃金、手当、休日、所定就業時間ないし所定労働時間等などが立証できます。タイムカードなら、出勤した事実、出勤時間(勤務開始時間)、退勤時間(勤務終了時間)がわかります。給与支給明細書なら、振り込まれる金額、基本給、手当、残業代、源泉徴収の項目や金額などがわかります。そういったことを立証趣旨として書いてください。

なお、実際に本人訴訟で労働審判を準備している方は、労働審判の全プロセスを解説している第70回noteの購入もご検討ください。同noteには、労働審判手続申立書、証拠説明書のテンプレートのワードファイルも付いています。

次回は、未払い残業代の請求場面を想定しながら、証拠説明書に記載する書証のより具体的な説明、つまりどのように立証活動をするのかに入っていきたいと思います。お楽しみに。

街中利公

本コラムは、『実録 落ちこぼれビジネスマンのしろうと労働裁判 労働審判編: 訴訟は自分でできる』(街中利公 著、Kindle版、2018年10月)にそって執筆するものです。

免責事項: コラムの内容は、私の実体験や実体験からの知識や個人的見解を読者の皆さまが本人訴訟を提起する際に役立つように提供させていただくものです。内容には誤りがないように注意を払っていますが、法律の専門家ではない私の実体験にもとづく限り、誤った情報は一切含まれていない、私の知識はすべて正しい、私の見解はすべて適切である、とまでは言い切ることができません。ゆえに、本コラムで知り得た情報を使用した方がいかなる損害を被ったとしても、私には一切の責任はなく、その責任は使用者にあるものとさせていただきます。ご了承願います。




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