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労働審判手続申立書の書き方~その4~

第16回のnoteでは、「第2 申立ての理由」の構成を示した上で、「1.当事者」について解説しました。続けて、同じく「第2 申立ての理由」の「2.所定労働時間、及び基礎賃金」「3.残業の実績」「4.未払い残業代の請求」について書いていきたいと思います。

まず、私が使用した申立書の当該箇所を書き出します。
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2.所定労働時間、及び基礎賃金
(1)所定労働時間
申立人の所定就業時間は午前9時から午後6時とされ、休憩時間の1時間を除く8時間が所定労働時間(実働時間)とされた(甲第**号証)。したがって、年間の所定労働時間の合計は****時間である。

(2)給与の基礎額
申立人の月当たりの基本給は******円、月当たりの主任手当は*****円である(甲第**号証、甲第**号証)。したがって、申立人の月当たりの給与の基礎額は******円、年間の給与の基礎額は*******円である。

(3)基礎賃金
上記2の(1)(2)より、年間の給与の基礎額を年間の所定労働時間で除すことによって算出される申立人の1時間当たりの労働単価ないし基礎賃金は****円である。

(4)休日
休日は日曜日及び国民の祝日とされた。(甲第**号証)

3.残業の実績
(1)残業の実態
申立人の業務内容は所定就業時間の午前9時から午後6時のうちに終わる業務量ではなく、申立人は連日残業を強いられた。相手方は申立人を含む従業員の残業時間やその業務進捗の管理を実施しておらず、実際には残業が常態化されていた。なお、休日に出勤することはなかった。

(2)時間管理の方法、及び残業実績の裏付け
申立人は出社時並びに退社時にタイムカードの打刻を義務付けられていたことから、その記録に基づいて所定外労働時間(普通残業時間及び深夜残業時間)を把握することができる。残業実績を裏付けるために、タイムカード記録を証拠として提出する(甲第**号証)。

(3)残業時間
上記3の(2)より、申立人の普通残業時間は***時間、深夜残業時間は***時間、月60時間超の残業時間は***時間(再掲)である。別紙**は、申立人が甲第**号証のタイムカード記録のデータを集計したものである。

4.未払い残業代の請求
(1)残業代請求に際しての基礎賃金
上記2の(3)の通り、申立人の基礎賃金は****円である。

(2)残業代請求の基礎となる残業時間
上記3の(3)の通り、申立人の普通残業時間は***時間、深夜残業時間は***時間、月60時間超の残業時間は***時間(再掲)である

(3)割増率
労働基準法第37条1項により、普通残業時間に対する基礎賃金の割増率は1.25、深夜残業時間に対する基礎賃金の割増率は1.50、月60時間超の残業時間に対する基礎賃金の割増率は1.50である。これら割増率に基づいて残業代の算出をする。

(4)残業代の算出
上記4の(1)(2)(3)より、申立人には合計***万****円の残業代が発生している(別紙**)。一方、給与支給明細書(甲第**号証)の記載内容により、申立人には残業代が一切支給されていないことが明らかである。したがって、申立人は、相手方に対し、少なくとも***万****円の未払い残業代の支払いを求めることができる。
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それでは解説していきたいと思いますが、まず労働基準法第37条1項を読んでみましょう。

同条同項には『使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が一箇月について六十時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。』とあります。

私なりの平易な言葉で言い換えれば、所定外労働時間に労働した場合、その労働時間について、通常の1.25~1.50倍割増賃金が支払われなければならないということです。つまり、「割増賃金=通常の賃金の単価×割増率×所定外労働時間」。

「通常の賃金の単価」を基礎賃金と言い、1時間当たりの労働単価を表します。「所定外労働時間」は所定労働時間以外の時間で、つまりは残業時間です。ちなみに、9時から6時までの9時間を所定就業時間と言い、そのうち1時間の休憩時間を除いた8時間の実働時間を所定労働時間と言います。

同条同項に「政令で定める率以上」という文言があります。この政令とは、「労働基準法第三十七条第一項の時間外及び休日の割増賃金に係る率の最低限度を定める政令」のこと。「率」は、通常の残業については最低2割5分、休日の労働については最低3割5分と規定されています。これが割増率です。午後10時から翌午前5時までの深夜時間帯における残業については、労働基準法第37条4項に基づいて、割増率が最低5割となります。

労働基準法で言う休日とは、週一日あるいは4週で四日以上与えなければならない「法定休日」のこと。もし土曜日など「法定休日」以外の休日が就業規則のうえで設定されている場合、それは「法定外休日」となります。この「法定外休日」での勤務は割増された賃金を支給する必要はなく、通常の賃金のみの支給で問題ありません。ただし、「法定外休日」であっても、1日8時間ないし1週間40時間を超える労働時間については、当然、労働基準法第37条1項が適用され、割増賃金(残業代)が支給されなければなりません。

以上の労働基準法の定めをふまえた上で、次のnoteにおいて先に書き出した「2.所定労働時間、及び基礎賃金」「3.残業の実績」「4.未払い残業代の請求」の具体的な解説をしていきます。お楽しみに!

街中利公

本noteは、『実録 落ちこぼれビジネスマンのしろうと労働裁判 労働審判編: 訴訟は自分でできる』(街中利公 著、Kindle版、2018年10月)にそって執筆するものです。

免責事項: noteの内容は、私の実体験や実体験からの知識や個人的見解を読者の皆さまが本人訴訟を提起する際に役立つように提供させていただくものです。内容には誤りがないように注意を払っていますが、法律の専門家ではない私の実体験にもとづく限り、誤った情報は一切含まれていない、私の知識はすべて正しい、私の見解はすべて適切である、とまでは言い切ることができません。ゆえに、本noteで知り得た情報を使用した方がいかなる損害を被ったとしても、私には一切の責任はなく、その責任は使用者にあるものとさせていただきます。ご了承願います。

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