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労働審判手続申立書の書き方~その3~

前回のnoteでは、私が実際に作成・使用した労働審判手続申立書を使って、「当事者」「請求の価額」「申立ての趣旨」について解説しました。これから「申立ての理由」について述べていきたいと思います。この「申立ての理由」の部分こそ、立証活動そのもの。ここには労働審判(ないし民事訴訟)で「未払い残業代を請求する」ノウハウが詰まっています。ぜひ学んでいただければと思います。

私の労働審判手続申立書を事例にして解説をすすめる前に、「申立ての趣旨」の通りに未払い残業代を請求するに際して、まず「申立ての理由」の構成を示しておきます。

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第2 申立ての理由
1.当事者
(1)相手方
(2)申立人

2.所定労働時間、及び基礎賃金
(1)所定労働時間
(2)給与の基礎額
(3)基礎賃金
(4)休日

3.残業の実績
(1)残業の実態
(2)時間管理の方法、及び残業実績の裏付け
(3)残業時間

4.未払い残業代の請求
(1)残業代請求に際しての基礎賃金
(2)残業代請求の基礎となる残業時間
(3)割増率
(4)残業代の算出

5.付加金の請求

6.申立てに至る経緯・概要
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以前にも書きましたが、この「申立ての理由」は、基本的に、「当事者の定義」「事実関係の明確化」「(相手方の)支払義務の主張」という流れになります。上の構成で言えば、「1.当事者」が「当事者の定義」、「1.当事者」「2.所定労働時間、及び基礎賃金」「3.残業の実績」が「事実関係の明確化」、そして「4.未払い残業代の請求」が「(相手方の)支払義務の主張」に当たります。

では、まず、私の申立書の「1.当事者」を以下の通り書き出します。
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第2 申立ての理由
1.当事者
(1)相手方
相手方は*******などを事業内容とする株式会社で、会社法人等番号は*******である。代表取締役は****である。本社は大阪府大阪市浪速区*******にあり、東京都、静岡県、長野県などに支社・営業所をもつ。フィリピン共和国とアメリカ合衆国カリフォルニア州にそれぞれ現地法人がある。グループ全体の従業員は約***名である。

(2)申立人
申立人は、平成**年**月**日に相手方に入社した。契約期間は期間の定めなしで、3ヶ月間の試用期間が設けられた。申立人は、入社と同時に、相手方のフィリピン共和国マニラ首都圏における現地法人***, Inc.へ出向・赴任した。就業場所は、フィリピン共和国*******であった。

申立人が担当した業務は、相手方の代表取締役の指揮命令のもと、企画、営業、総務、経理、法務、労務を含む現地法人業務全般であった。

申立人の給与は月給制であった。月額基本給は******円で、加えて規定上の家族手当が支給されていた。月額給与は、当月末日締めの翌月末日の銀行振り込みによる支給で、相手方から申立人名義の日本の銀行口座へ日本円で直接振り込みがされていた。月額給与から控除されていたのは雇用保険料及び源泉徴収所得税の二項のみであり、健康保険料と厚生年金保険料は控除されていなかった。申立人には、平成**年**月勤務分から平成**年**月勤務分までの給与が支給されている。

申立人は平成**年**月**日に相手方を退職した。退職時の配属先は東京支社であった。
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前のコラムで解説したように申立書の頭書部分には当事者の住所・氏名・連絡先を書きますが、「第2 申立ての理由」の中ではより詳しくかつ具体的に当事者を定義します。

相手方については、会社概要や事業内容、代表者、従業員規模、本社住所、支社・支店などを記載します。法務局で取得する履歴事項全部証明書から法人等番号がわかりますので、それも書けばよいでしょう。申立人については、相手方との関係性や申立人に関する事実を述べていきます。入社した事実、契約期間、出向や配属に関する事実、就業場所等などです。給与などの雇用条件、退職に関する事実も述べてください。

次回以降で詳しく説明しますが、当事者を定義した後は、上で述べたように「事実関係の明確化」「(相手方の)支払義務の主張」となります。上の構成で言えば、「2・3・4」の部分です。

事例のケースでは、残業代の未払いと付加金に関する周辺の出来事も含めた事実関係を主張していきます。もちろん、この部分は当事者間の争いの中心、争点ですから、当事者間で認識が異なったり合意をみなかったりする箇所が出てくるはずです。ですので、予想される争点を抽出して、申立人が主張する事実関係を裏付ける証拠(書証)を提示する必要があるわけです。続いて、そういった事実関係があるから、「相手方は、申立人に対して、***万円を支払わなければならない」と支払義務を主張していくのです。

いずれにせよ、次回以降、実際の申立書の書面を使って「2・3・4」について詳しく解説していきます。お楽しみに。

街中利公

本noteは、『実録 落ちこぼれビジネスマンのしろうと労働裁判 労働審判編: 訴訟は自分でできる』(街中利公 著、Kindle版、2018年10月)にそって執筆するものです。

免責事項: noteの内容は、私の実体験や実体験からの知識や個人的見解を読者の皆さまが本人訴訟を提起する際に役立つように提供させていただくものです。内容には誤りがないように注意を払っていますが、法律の専門家ではない私の実体験にもとづく限り、誤った情報は一切含まれていない、私の知識はすべて正しい、私の見解はすべて適切である、とまでは言い切ることができません。ゆえに、本noteで知り得た情報を使用した方がいかなる損害を被ったとしても、私には一切の責任はなく、その責任は使用者にあるものとさせていただきます。ご了承願います。

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