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労働審判手続申立書の書き方~その2~

前回のnoteでは、労働審判手続申立書には「当事者」「申立ての趣旨」「申立ての理由」を含めなければならないこと、および「申立ての理由」では「証拠」をもとに「争点」毎の「事実関係」を明確にしなければならないことを述べました。今回から、未払い残業代を請求するために実際に申立てた労働審判事件を事例として、申立書の具体的な記述について解説します。

以下の記述は、私 街中利公が実際に作成・使用した申立書の最初のページ。「当事者」と「申立ての趣旨」の部分です。

なお、実際に本人訴訟で労働審判を準備している方は、労働審判の全プロセスを解説している第70回noteの購入もご検討ください。同noteには、労働審判手続申立書、証拠説明書のテンプレートのワードファイルも付いています。

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残業代等請求労働審判事件
申立人
〒251ー00**
神奈川県藤沢市***********
街中利公
(連絡先)080-****‐****

相手方
〒556-00**
大阪府大阪市浪速区*********
********株式会社
代表取締役 ****
(連絡先)06-****-****

             労働審判手続申立書

                       令和**年**月**日

東京地方裁判所 御中
                       申立人 街中利公(認印)

請求の価額
労働審判を求める事項の価額   300万円
ちょう用印紙額         1万円
郵便切手額           3060円

第1 申立ての趣旨
1.相手方は、申立人に対し、金300万円、並びにこれに対する平成**年**月**日から支払完了済みまで年14.6%の割合による金員を支払え
2.相手方は、申立人に対し、金300万円、並びにこれに対する労働審判確定の翌日から支払完了済みまで年5%の割合による金員を支払え
3.申立て費用は相手方の負担とする
との労働審判を求める。
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では、解説していきましょう。

一行目に「残業代等請求労働審判事件」とありますが、これは申立てによって何を請求するかで事件名が決まってきます。”等”と付けるのは、例えば、残業代の他に支払ってもらっていない立替経費も請求する場合などです。不当な解雇を言い渡されて、従業員としての地位の確認を求める場合は「地位確認請求事件」、損害賠償を請求する場合は「損害賠償請求事件」となります。なお、申立書のフォーマットは原則自由ですから、絶対に「~~事件」といった文言を最初に入れなければならないというわけではありません。

申立書が受理されると事件番号が付与されます。ですので、その後に必要に応じて提出する準備書面の頭書には、例えば「東京地裁 平成**年(労)第***号 残業代等請求事件」(労働審判の場合は「東京地裁 平成**年(労)第***号 残業代等労働審判事件」)と書いてください。「平成**年(労)第***号」の箇所が事件番号です。

次に、「当事者」の欄です。前のコラムで述べた通り、ここでは申立人と相手方の住所、氏名/会社名、連絡先を書いてください。相手方の会社名とあわせて、代表者名として代表取締役の氏名を書けばよいと思います。もし代表取締役が存在しなければ、社長、CEO、あるいは総務・人事担当取締役の名前を書くとよいでしょう。

続いて、「請求の価額」の欄。請求額は3つにわかれます。上から、①未払い残業代の請求の300万円、②申立て費用のちょう用印紙代の1万円、③申立て費用の郵便切手額の3060円。実は、この3つの請求額の他に「付加金」の請求が300万円(=未払い残業代と同じ額)ありますが、これはここには書きません(「付加金」については改めて説明します)。

最初の「労働審判を求める事項の価額」(=①)とは、民事訴訟での「訴訟物の価額」と同じです。訴訟物とは、簡単に言えば、訴訟(労働審判)を通して原告(申立人)が被告(相手方)へ請求する具体的な内容となるもの。ここでは申立人は未払い残業代を請求するわけなので、法律関係上相手方には申立人に対する「未払い残業代」が存在するとして、それが訴訟物となるのです。もし未払い立替経費も合わせて請求するのであれば、権利義務関係上相手方には申立人に対する「未払い立替経費」も存在するとして、未払い残業代と未払い立替経費の合計額が訴訟物の価額となります。

②のちょう用印紙代と③の郵便切手代は、第7回のコラムで書いた通り、申立て費用です。申立て費用には、他にも、文書作成費、移動交通費、日当もありますが、申立書の時点ではこれらを書いておく必要はありません。

そして、「第1 申立ての趣旨」の欄

1は、「未払い残業代+遅延損害金」の請求です。遅延損害金の利率は14.6%です。これは賃金の支払の確保等に関する法律第6条1項に規定されている利率。一般的には遅延損害金の算定期間は支給日の翌日から支払いが完了する日までです。

2は、「付加金+遅延損害金」の請求です。付加金の解説は別途とさせていただきますが、付加金とは一言で言えば「未払い残業代と同じ額」です。付加金にはペナルティの性質があるようで、雇い主はもし残業代を従業員に支払わなければ、残業代に加えて残業代と同額の付加金を支払わなければならない恐れがあるということです。その遅延損害金の利率は民法第404条にしたがって5%としています。起算日は労働審判が確定した翌日となります。

3は、「申立て費用」の請求です。

次回は、今回と同様に、私 街中利公が実際に作成・使用した申立書を使って「申立ての理由」について解説します。今回は相当な長文でしたが、次回も同じように長文となる予定です。どうか粘り強くお付き合いください!

街中利公

本noteは、『実録 落ちこぼれビジネスマンのしろうと労働裁判 労働審判編: 訴訟は自分でできる』(街中利公 著、Kindle版、2018年10月)にそって執筆するものです。

免責事項: noteの内容は、私の実体験や実体験からの知識や個人的見解を読者の皆さまが本人訴訟を提起する際に役立つように提供させていただくものです。内容には誤りがないように注意を払っていますが、法律の専門家ではない私の実体験にもとづく限り、誤った情報は一切含まれていない、私の知識はすべて正しい、私の見解はすべて適切である、とまでは言い切ることができません。ゆえに、本noteで知り得た情報を使用した方がいかなる損害を被ったとしても、私には一切の責任はなく、その責任は使用者にあるものとさせていただきます。ご了承願います。



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