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証拠説明書の書き方~その2~

証拠説明書にリストアップされる書証は、当然、労働審判手続申立書での記述と連動します。では、その申立書のどのような事実の記述に対して書証を付ければよいのでしょうか。あるいは、どのような事実について立証が必要なのでしょうか。

まず、民事訴訟法第179条によれば、「当事者が自白した事実」と「顕著な事実」は「証明することを要しない事実」とされています。前者の民事事件で言う「自白」とは、刑事事件のそれとは意味合いが異なり、申立人/原告ないし相手方/被告がみずからに不利となる事実を認める答弁や陳述のことを言います。一方、後者の「顕著な事実」とは、誰でも知っているような公知の事実と考えればよいでしょう。

申立人(=労働者)が書証によって立証する必要がある事実(または、書証を付ける必要がある労働審判手続申立書の記述)とは「要件事実」です。これは、一定の法律上の効果を発生させるために必要とされる具体的な事実のことです。

申立人が認めてもらいたいのは、労働審判手続申立書の「第1 申立ての趣旨」(第15回のnote参照)に記述された内容です。要するに、「未払い残業代が〇〇〇万円存在するから、それを支払え」です。これを認めてもらうことが、「法律(労働基準法)上の効果の発生」ということ。そのために必要とされるのが、具体的な要件事実なのです。要件事実が立証されない限り、「未払い残業代が〇〇〇万円存在するから、それを支払え」という主張は決して認められません。

では、「未払い残業代が〇〇〇万円存在するから、それを支払え」という「申立ての趣旨」に関する要件事実とは、具体的に何でしょうか。それは、基本的には、

① 申立人(=労働者)は相手方(=会社/雇主)と雇用契約を締結した事実
② 申立人が所定労働時間を超えて残業をした事実
③ 賃金支払日が到来した事実

です。くわえて、

④ 割増賃金(残業代)の計算式(基礎賃金×割増率×残業時間)
⑤ 割増賃金(残業代)が支給されていない事実

も明確にする必要があります。これらを労働審判手続申立書の「第2 申立ての理由」の箇所(第16回第19回のnote参照)において、細かく記述していくことになります。つまり、これら①~⑤を立証する必要があるわけです。そして、これら①~⑤を裏付ける書証を付けて、証拠説明書にリストアップする必要があるのです。ということで、

①を裏付ける書証 ⇒「雇用契約書」(および「就業規則」など)
②を裏付ける書証 ⇒「雇用契約書」と「タイムカード
③を裏付ける書証 ⇒「雇用契約書」と「給与支給明細書
④を裏付ける書証 ⇒「雇用契約書」(および「就業規則」など)
⑤を裏付ける書証 ⇒「給与支給明細書」(および「銀行の通帳」)

となります。「雇用契約書」と「タイムカード」と「給与支給明細書」は、未払い残業代の請求に際して絶対に準備してほしい最強の証拠3点セットです。逆に言えば、この3点のうち一つでも欠けるなら、申立人ないし原告の立証活動は十分ではないと考えるくらいで丁度よいと思います。

申立人(=労働者)が労働審判手続申立書のなかで主張し立証をこころみる要件事実に対し、相手方(=会社/雇主)は答弁書にて反論・抗弁しつつ、その証拠(書証)も提示してくるはずです。それによって、当事者間において争いがある事実、つまり争点が浮き彫りになるのです。

次回のnoteでは、書証3点セットの詳しい説明をしていこうと思います。お楽しみに!

街中利公

本noteは、『実録 落ちこぼれビジネスマンのしろうと労働裁判 労働審判編: 訴訟は自分でできる』(街中利公 著、Kindle版、2018年10月)にそって執筆するものです。

免責事項: noteの内容は、私の実体験や実体験からの知識や個人的見解を読者の皆さまが本人訴訟を提起する際に役立つように提供させていただくものです。内容には誤りがないように注意を払っていますが、法律の専門家ではない私の実体験にもとづく限り、誤った情報は一切含まれていない、私の知識はすべて正しい、私の見解はすべて適切である、とまでは言い切ることができません。ゆえに、本noteで知り得た情報を使用した方がいかなる損害を被ったとしても、私には一切の責任はなく、その責任は使用者にあるものとさせていただきます。ご了承願います。

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