幻一『まぼろし文庫』

京都府京丹後市在住の木版画家、幻一(まぼろしはじめ)さんの作品を紹介します。

幻一『まぼろし文庫』

京都府京丹後市在住の木版画家、幻一(まぼろしはじめ)さんの作品を紹介します。

マガジン

  • 酒飲みの片思い

    幻一さんが1983年に雑誌に連載していたエッセイ「酒飲みの片思い」12作品をまとめました。

  • わがこころの五百羅漢を求めて

    幻一さんが1983年に雑誌に連載していた記事「わがこころの五百羅漢を求めて」10作品をまとめました。

最近の記事

酒徒、酒に走る

年の瀬に 酒肴持参で 寺の内 酒徒の感謝 仏のみ知る  十二月は一年の総決算の月。「師走」は、仕果つに通じる。もちろん、年中、酒を賞でたがる人類においても何をかいわんや。一年の飲みおさめとばかり、あれやこれやと企画をたてたがる。  「もうそろそろ始めよか」  「何を」  「何を、て。もう十一月に入りましたで」  「あァ、来月は、もう師走やなあ」  「師走といえば」  「師走といえば、何んや」  「何んやて、かなんなあー、忘年会、忘年会」  いつものように酒徒、二人。カウンタ

    • ちょっとひと旅

      汽車にゆられて 北陸路 一夜の夢の 旅ごころ 友との語らい 熱き酒  十一月一日は、出雲に旅をされていた八百万の神々もめいめいの処にお帰りになる日。「神迎えの朔日」といって旅から帰えられた神々を赤飯に新穀でかもした酒と大根を供えお出迎えする習しがある。  われわれ、神々の下僕は、新穀の酒のおさがりを喜こんでいただくのが無上の愉しみ。新酒、新酒とあり難たがる酒飲み河童連。  寒さが本格化する前、冬ごもりに備えてとばかり、滋養をたっぷりとつけておこうと秋の肴と熱き酒を腹に。旨い

      • 旅は酒

        秋の始めの 酒ばなし 酒田の港と雪と鳕鍋 鬼に笑われ 夢や幻  旅の愉しみは、食と酒につきます。もちろん、旅先での人との出合いも、大きな愉しみの一つですが、その出合いの始まりは、やはり、酒。  十月は、神無月。八百万の神々も出雲の大社に旅をされるは、縁結びの相談ならず、酒造りをするためらしい。「御神酒あがらぬ神はなし」。神も凡人も変らぬは、酒を想うこころか。  十月の声を聞くと、酒は、燗。燗の始まり。熱燗をきゅっといっぱい、のど元を通り、腹の中にしみ込む感じのここち良さは、

        • 旅は食

          北へ旅 旨い空気に ビールよし 肴の鍋は ジンギスカン 羲経はるか 泡と消ゆ  旅で何が愉しいかといえば、その土地の食べものを肴に、その土地の酒を飲むことにつきる。  旅の印象もその土地で食べたものから、良否が決まるようです。  ある夏の終り、友人といつものように、酒場のカウンターでぐだぐだいっている内に、何んとなく、北海道に行くはめになる。  「もうそろそろ秋やなあ」  「何んや、急に、えらい感傷的に、どうかしたんか」  「もう九月やなあ」  「それか」  「サッポロのビ

        マガジン

        • 酒飲みの片思い
          12本
          ¥1,200
        • わがこころの五百羅漢を求めて
          10本
          ¥1,000

        記事

          持ち寄り会

          川の床 風に吹かれて 酒、話 旨い、旨いと 喜こび、ころこぶ 酒徒七福神  ある日、ある晩。飲んで、一気に話しがまとまる。次の日曜日、全員集合。各自、一品持ち寄り、料理を一品つくる宴会。熊さん、八さんの世界に入りたがる人、多し。  当日、三三五五、いつもの上戸達が、いつもの飲み屋の台所に集まる。  それぞれ、手に、何だ、かんだと一品ぶら下げ、喜々とした顔、顔、七つ。 何だ、かんだの持ち寄りものは、かくのごとし。豆腐三丁。生湿菜。剣先いか、ピンピン、三ばい、マッシュルーム、二

          錦の居酒屋

          居酒屋と 出合いあり 古色の中に 人あり 空気あり 人生がある  京都の台所とよばれる錦小路の西、高倉通りの角に、居酒屋、発見。  友人と二人で、宴会の準備とばかり、錦で酒の肴の材料を買出しに行く。小一時間ばかり、あちこちのぞき、東から西へ。友と目と目が合う。「のどが乾いたなあ」と云った目。ちょうどその時、その前に、古びて、あちこちきれかかった縄のれんが目に飛び込む。二人は、何の抵抗もなく、スーウと縄のれんをくぐる。  「………」  「ほっこりしたなあ」  「ビールにしよう

          酒との出合い

          青春の若き夢 壮高し 酒が 光陰が 思いを 醸す  小学校の五年生の頃、祖母の留守中に、いつも祖母が猪口に一ぱい寝酒に旨そうに飲んでいる梅酒を発見。ちょっとー口と、猪目に一ぱい。甘くて口の中でとろけそうな味にビックリ。二口、三口とその甘さ、旨さにつられて、たて続けにロへ。のどから食道を伝わって、胃の周辺がほんわかと温たかく、熱くなっていく感じはいまも忘れません。それに味をしめ、時々、盗み梅酒。  それから間もなく、雪の降る夕刻。留守番の駄賃とばかり、祖母の梅酒を水屋の棚の奥

          旅の効用

          北へ旅 こころの想い ひとしずく 酒とさかなに 舌は ふるえる  旅は度々したいもの。旅の愉しみもいろいろあるが、唯ふたつ、いつの場合でも変わらないのは、その地の酒と食べもの。景色が良くとも、この二つが欠けた旅ほどつまらないものは、無い。  写真に夢中で、その景色を後から写真で見る程、味のないものはない。旅にはカメラは不要。景色は心のひだで撮る。いつかの拍子に、ポコと想い出し、愉しめば良し。想い出の根源は、舌にあり。四月のある日、敦賀に商用で出かける。目的は、はじめから、ひ

          酒飲みの空間 その2

          酒は友を呼び 友は酒を呼ぶ 酒徒 企てを知るやいなや 千里を走り 友と酒に出会う  類は類を呼び、 酒は友を呼ぶ。酒をアルコールとして飲む人は酒徒と呼びたくない。呼ばせない。酒徒は、自分の空間、空気、友を求めて幾千年。幾千里。悪戦苦闘。刻苦勉励。日々努力。日々宿酔。鍛え上げられた泗徒の嗅覚は鋭く、敏だ、が、風向きにより、時として鈍。  飲み屋の戸をあけ、顔をつっこむやいなや、その中にただよう空気の良し悪しを直感する。「今日は飲むぞ」となれば、必ず同類が居る。特に、飲み屋の主

          酒飲みの空間 その2

          酒飲みの空間

          花を越え 嵐も越えて 行く酒徒多し 古今東西 いまだかなわぬ 夢と幻  居酒屋は、酒飲みにとって一番気楽に酒が愉しめる。気取った、まずかった、高かったの三拍子揃った老舗の料亭。札束を口にするようなバカ高い鯧屋。無愛想な顔に作り笑いのひきつりを見て飲む、クラブ。  こんな店に入った後の酒徒のこころは、いかばかりか。口直しとばかり、二軒、三軒、あちこち居酒屋を回り、結果、慙愧にたえないことになる。  ほんわか、ゆったり、のんびり飲める居酒屋。薄暗い、細い露路を手さぐりで行くと、

          おかしい話

          豆を肴に うま酒を おもわず 知らず 飲んだ 赤鬼  世の中、いろいろとおかしく、愉しい事があるものです。笑いをこらえるのに苦労する程おかしい話かどうか、先ず読んで下さい。  よく行く飲み屋の女将から聞いた話から。  彼女の知り合いのお茶屋の老女将は、毎月、一日に、必ず、床の中で、ある儀式をしてからでないと起きないらしい。  朝、目が覚めるとすぐに枕をかかえ、「枕や思ったら千両箱やった」、と大声で叫び、その枕をほうり投げ、受けとめるやいなや、寝卷姿のまま、玄関まで出て行き、

          酒の風景

          熱くした とそのいっぱい 春を呼ぶ 思わず ほころぶ 己が口もと  酒と人との出合いは、神代の頃のはなし。猿も果実が熟して落ちて醸もされた自然酒を飲んで顔を赤らめているらしい。  なんだかんだと年中酒のきれないのも幸の極だと、思い込むように飲んでいる酒徒の多いことか。回りを見わたすと酒客多士済済。酒景多彩。  正月。いきつけ飲み屋で、青竹の猪口で飲む、初絞りの樽酒。杉の香の立った初酒は、新年明けまして、の味がする。この初酒を飲めれば、今年も、また、喜し、愉しの一年のような気

          忙人は走り、閑人は酒を煖む師走

           はや、十二月。京の錦の賑わいが一層高まる頃、魚も一段と旨味が増す。今年も高値で口に入るか心配な松葉蟹。うす造にあさつきをちらしたポン酢で食べると酒とぴったりの目痛蝶。雪降る炉端に鍋で酒、中味は云わずとしれた鱈と白子の味噌仕立て。河豚。鮭。鮃。牡蠣。鰯。鰰。鰤。鮟鱇。等々、数え上げれば限りなし。喰いしん坊には、幸せの季節。  錦をあちこち見て、いろいろ買って、年越の酒肴をつくり、除夜の鐘を聞きながら、百八煩悩を忘れつつ、古い年と別れつつ、新たな年を迎えつつ、酒を静かに愉しむの

          忙人は走り、閑人は酒を煖む師走

          秋深く、鱈(たら)恋し

           鱈は、初雪の後に獲れる魚ゆえに雪に従う、と元禄の食粋人、平野必大がいっている。いかにも、雪の景色が似合う魚です。  食べ物の少なかった、子供の頃、朝昼晩と棒ダラの煮ものばかり食べていたような気がして、いまだに、棒ダラの煮ものは、あまり食指がおこりません。   鱈は、なんといっても、生の新鮮さが命。北海道か東北地方の日本海沿岸で獲れたてのものを鍋にぶち込み、味噌汁にでもして食べるのが一番。いつか、一度やってみたいと願望、希望、期待しつつも、年だけが過ぎてゆく。  「鱈の親子

          秋深く、鱈(たら)恋し

          天高く人肥ゆる秋

           秋。十月に入ると、はやくも、新酒の初走りがでる。これをあらおりというごとく、辛辣で、粗い味で、酒の風味もあまり感じられない。が、初走りの好きな酒徒には、その味も、また、格別なり。  食欲の秋とわざわざいわなくても、年中、旨いものは、旨い。酒も年中、旨いが、これからが本番。  海に、甘鯛、飯峭、鯖、鰤、なまこ、青柳、等々、これからが旬。山には、松茸、しめじ、栗、いも、柿、柚、すだち。新そばも、そろそろ。飲食を探検するには、材料豊富。気候よし。鬼でも、鉄砲でも持ってこい、といっ

          菊酒と皮剝

           白い雲。青い空。青い海。キラキラ太陽。白い砂浜。人のざわめき。人の波。九月に入いると、海は、浜は、静寂。引潮のごとく。  九月九日は、重陽の節供。古人は、この日から燗鍋を用いて、酒をあたため、宴をひらき、飲んだ。燗鍋に細長い口を付けたのが銚子。人の知恵は、よくはたらく。  九月九日は、菊の節供とも云われる。酒杯に菊花を浮べ、その香りを喜び、酒味を愉しめば、長寿ももたらせられようというものです。古人の詩にこれあり。「いにしえの 奈良の土産の菊の酒 けふ九重に いはひにぞ飲む」

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