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秋深く、鱈(たら)恋し


「愉しみのこころ」(1985年作品)より

 鱈は、初雪の後に獲れる魚ゆえに雪に従う、と元禄の食粋人、平野必大がいっている。いかにも、雪の景色が似合う魚です。
 食べ物の少なかった、子供の頃、朝昼晩と棒ダラの煮ものばかり食べていたような気がして、いまだに、棒ダラの煮ものは、あまり食指がおこりません。 
 鱈は、なんといっても、生の新鮮さが命。北海道か東北地方の日本海沿岸で獲れたてのものを鍋にぶち込み、味噌汁にでもして食べるのが一番。いつか、一度やってみたいと願望、希望、期待しつつも、年だけが過ぎてゆく。

 「鱈の親子天ぷら、そば風味」

 鱈の旬は、一月、二月。旬には早く、初ものには、高い代価を支払わねばならず、それならば、と冷凍もので、一品。
 先ず、鱈を解凍し、小口に切って、さっと酒をふりかけておく。辛子メンタイ子を薄皮をはがして、ほぐして、少し空いりをしておく。そば粉を普通の天ぷらの粉より少し薄めに水でとかして、その中に、しその青葉のミジン切りを大目に入れ、軽くまぜておく。後は、いつものように、鱈にときそば粉をまぶし、それに、フライもののパン粉のかわりに、辛子メンタイをまぶし、油で揚げる。
 油は胡麻油に框(かや)の油を交ぜたものが良いが、こだわらなくて良い。
 カラッと揚った、あつあつに、柚、レモン、かぼす、なんでもよいから、ジュ!としぼって、一口。冷凍とは思えない程、旨い。そばとしその風味が鱈によく合って、旨い。酒の肴にぴったり。

 「タラ、トロピカル」

 冷凍鰐でもう一品。辛くて、辛くて、ハ—ドにせまる、この一品。
 冷凍ダラをブツ切りにしてボウルに入れる。
 この中に、玉ねぎ一個。トマト三〜四個。ニンニクニ〜三片。ショウガ一片。それぞれ、いづれもミジン切りにして加える。
 後は、山椒の葉、実を一握。コショウ。レモン汁一個分。オリーブ油、大さじ五杯。塩。
 それらを、十分混ぜ合わせ、三十分位漬け込んでおく。
 三、四十分後、別の鍋にボウルの鱈を移し、ワインを大サジ五、六杯加え、とろ火で、コトコト煮込む。三十分もたてば、魚にも火も通り、味もしみ通る。火を消す前に、パセリのミジン切りをドドッと一杯ほうり込み、しばらくして、でき上り。
 冷えたワイン。いや、キッと冷やした、日本酒にびっくりするほど、良く合います。

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