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旅は食

北へ旅
旨い空気に
ビールよし
肴の鍋は
ジンギスカン
羲経はるか
泡と消ゆ


「愉しさ発見」(1986年作品)より

 旅で何が愉しいかといえば、その土地の食べものを肴に、その土地の酒を飲むことにつきる。
 旅の印象もその土地で食べたものから、良否が決まるようです。
 ある夏の終り、友人といつものように、酒場のカウンターでぐだぐだいっている内に、何んとなく、北海道に行くはめになる。
 「もうそろそろ秋やなあ」
 「何んや、急に、えらい感傷的に、どうかしたんか」
 「もう九月やなあ」
 「それか」
 「サッポロのビール園に行こうか、それも、日帰りで」
 「何んや急に」
 「一回、北海道の日帰りの旅をしたかったんや」
 「何んで日帰りや、もったいない」
 「日帰りで、ビールで、ジンギスカンの三拍子が北海道やで—」と何んだか解かった様で解からん理由で札幌に行く。
 目的は一つ。他に何処も行かない。何も食べない、飲まない。唯々、ビールとジンギスカンだけ。
 当日、朝十時頃の飛行機で北海道へ。千歳空港に降り立ち、始めての北海道の空気を吸い込み、友人ひとこと。
 「旨い、この空気、この空気やないと旨いビールでけへん」
 「ビールは水やで」
 「いや、空気や、旨い空気のあるとこに旨い水ありや」
 その旨い空気を吸い吸い、目的地のビール園に急ぐ。友人の頭は、ビールで、ジンギスカンのみ。
 古いビールエ場の倉庫あと。案内された部屋は、天井が高く、広い。ガッシリとした木造りのテーブルの上は、めざすジンギスカン鍋、鍋。ビールを片手に喜顔破笑の人・人・人。間もなく、我々二人もまけじと喜顔破笑、笑門来福といった顔になる。

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