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酒の風景

熱くした
とそのいっぱい
春を呼ぶ
思わず
ほころぶ
己が口もと


「愉しさ発見」(1986年作品)より

 酒と人との出合いは、神代の頃のはなし。猿も果実が熟して落ちて醸もされた自然酒を飲んで顔を赤らめているらしい。
 なんだかんだと年中酒のきれないのも幸の極だと、思い込むように飲んでいる酒徒の多いことか。回りを見わたすと酒客多士済済。酒景多彩。
 正月。いきつけ飲み屋で、青竹の猪口で飲む、初絞りの樽酒。杉の香の立った初酒は、新年明けまして、の味がする。この初酒を飲めれば、今年も、また、喜し、愉しの一年のような気分。酒の味も、人と肴と空気によって、五味こもごも。江戸の狂歌師・大田蜀山人は、大々々の酒好き。

 世をすてて山に入るも味噌醬油
 酒のかよい路なくてかなわじ
と、世をすてられず。
 自分で、自分の酒飲訓をて、厳守したらしい。
 一、節供祝儀にはのむ
 一、珍客あればのむ
 一、肴あればのむ
 一、雪月花あればのむ
 一、宿酔(ふつかよい)を解くにはひとりのむ
 一、この外群飲俟遊長夜の宴終日の宴を禁ず

 つまり、年中いかに酒をやめないかを訓じ、律した。何百年後の酒徒達も、あいかわらず、蜀山人とともに、尚、いまだ、学成りがたし。唯々、修業にあけくれるも、酒学深し。自分に訓をたれ、自分を律す人多し。
 吹雪の山形・酒田の港に、寒露鍋を求めて、何百里、わざわざ、京都から夜行に乗る酒徒あり。また、札幌のビールエ場のジンギスカンで生だしビールを飲もうと、ジェットで飛ぶ酒徒。酒肴の宴の打ち合わせのために、飲みながら、ついでに打合わせする酒徒。
 雪月花友。酒の景色に、友がなければ、と酒族は大声する。

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