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酒徒、酒に走る

年の瀬に
酒肴持参で
寺の内
酒徒の感謝
仏のみ知る


「愉しさ発見」(1986年作品)より

 十二月は一年の総決算の月。「師走」は、仕果つに通じる。もちろん、年中、酒を賞でたがる人類においても何をかいわんや。一年の飲みおさめとばかり、あれやこれやと企画をたてたがる。
 「もうそろそろ始めよか」
 「何を」
 「何を、て。もう十一月に入りましたで」
 「あァ、来月は、もう師走やなあ」
 「師走といえば」
 「師走といえば、何んや」
 「何んやて、かなんなあー、忘年会、忘年会」
 いつものように酒徒、二人。カウンターで何んだかんだの無駄話。当然のごとく、飲みながら、また、飲む話。
 「今年は、どうする」
 「ちょっと変わったのにしたいなあ」
 「変わったもんて、どうせ酒飲むんやろ」
 「どうせ酒やといいながら、何んやかんやと注文がうるさいのは誰や」
 「…………」
 「お寺の本堂ではどうやろ」
 「寺」
 「師走ぐらい、仏さん拝んで、酒に感謝するのもばちあたらへんで」
 その年の忘年会の当日。酒友、三三五五、手に手にそれぞれ、酒一本に、酒肴一品。本日の決まり通り。忠臣蔵の打ち入りのごとく、四十数名、定刻に集まる。上は、七十余歳の熟年から、下は、四歳の未熟年まで。老若男女。美男美女。遠くは、はるばる横浜からシューマイと老酒持参。青辰の穴子寿司から酒屋のスルメとピーナッツまで、酒に肴も賑やかに。狭い穴倉に慣れた連中は、広い本堂に少し戸惑いながらも、子供の頃に帰り、相撲取るもの、寝ころぶもの。各人、喜々と遊び、寺のお師さんもにこにこ。当日、年中の総決算済すも、翌日、苦い残高残る。

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