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世界はここにある㉒  第二部

「あの男たち、殺したんですか」
桜木は車外の様子の確認を怠ることなく僕の問いにも答える。

「やむを得ない状態でした。あの連中を脅して解放させようとしていたら、あなたたちがもっと危害を加えられる可能性があった。それに時間も無い。相手があの連中だけに対応を任せているとは思えない。間髪入れず追手が来るはず」

「やむを得ない相手とは、いったい誰なんですか」
「坂崎さんからは聞いてないのですか」
坂崎は黙って痛みをこらえている。

「そうですか…… さっきの男らは小遣い稼ぎで雇われた連中でしょう。ただ、ああなってしまうと男らが所属している組織は黙っていないかもしれない。けれど心配はいりません。しょせんはコマです」
桜木は振り返る事もなく助手席からそう言った。

「雇った奴がサツキを襲った連中だということですか」
「それは違います」
「じゃあ、誰なんです? 僕らを連れて行こうとした先にいたのは」

 桜木は少し間をおいて、ルームミラーで僕と坂崎の様子を見た。

「立花さんは、ベラギーで皇太子襲撃事件に出くわした。それを実行したのは東側陣営のある組織です。しかしそれは失敗に終わった。立花さんらはテロ犯を罠に掛ける為のいわば撒き餌でした」
「ある組織というのは?」

 僕は坂崎から得ていない答えを欲した。そいつらがサツキを? それとも王国側なのか。

「堂山サツキさんを拉致したのはテロの実行犯側の組織であることには間違いありません。王国側がとの疑いもありますが、それならば立花さんらを解放する必要はない。ただ…… 王国側もこういう筋書きは読んでいたはず。敵が立花さんらを利用しようとすることはね」
 
 桜木は目線をミラーから外し、車の進行方向を見入った。時間はもう何時頃なのだろうか? 深夜になり車の数は随分と少なくなっている。走っているのは僕の知らない場所だが、道路の案内標識で横浜近郊のように思える。

「テロの実行部隊は立花さんらを利用する為にまず、サツキさんを捕らえた。そうすれば立花さんは簡単に情報を含め協力させることができると考えたのでしょう。立花さんを直接狙わなかったのは、より確実に証拠を手に入れる為。一方、王国側はそれを黙認した。騒ぎ立てる必要はない。そもそも暗殺テロなどなかったという立場ですから」

「なんのためにサツキをさらわねばならかった? 何の関係もないサツキを」

「事態の収拾に大国が動いたのです。政治的安定のために。サツキさんや三佳さんらは表に出るべきでなくなった」
 
 サツキが国家間の紛争の犠牲になったということか? 日本人の普通の女性がなぜそんなことに巻き込まれねばならないのか? 一人の女性が政治的安定と言いう言葉で人生を棒にふらなければならない。僕には到底納得のいかない話だ。三佳がそうであったように。

「サツキは生きてるんですか? 生きてるのでしょう? 大事な人質ではないのですか」

 僕の問いに桜木は答えを選んでいるように感じた。

「桜木さん! 知っているんでしょう? あんたは!」
「それは私が答えるべきことではありません。立花さんから聞くべきことです」

 桜木はそういった後、僕からの一切の質問に答えなくなった。痛みを堪える坂崎は首をもたげ僕の顔すら見なくなった。僕の周りはすでに今までの世界ではなくなっていた。

 気付くとコンクリート壁で囲まれた工場のような敷地内に車は流れ込んだ。正面にあるアーチ型の天井を持つ建屋の大型のシャッターが開き、車を中に入れる。内部は倉庫のようであったが何を扱っているのかは一見して判らない。
 
 坂崎はすぐに降ろされ、治療のためにストレッチャーに乗せられて奥へと運ばれた。10mはあろうかと思う天上高に、奥行きもかなりありそうだ。大型の倉庫か工場のように思える。しかし、機械の類や荷物はなく、いくつかのコンテナハウスが点在するのみだ。坂崎はその中の一つに運ばれていった。

「こちらに」

 桜木の後について貨物用のエレベータに乗り込む。中二階にステージが組んであり、そこへ荷物を運ぶためのもののようだ。桜木は操作盤を開けスイッチを押す。当然に上へあがると思っていた僕は、エレベータの扉が開いた場所が中二階ではなく、施設の下部に降りていたのであろうことに驚いた。
 
 彼は無言で先を歩く。堅牢に囲まれたコンクリートの壁にむき出しの配管が壁面を何本もはっている。映画で見るような秘密基地というよりはシェルターのような感じがする。部屋らしきための扉は少なく、配管と何かの設備のボックスが等間隔に配置されている。
 
 何人かの人とすれ違うが、皆、同じ作業着のようなユニフォーム姿である。どこかで見た様な気がする。しかし彼らはたとえば設備の技術者などとは違う雰囲気を醸し出している。僕を襲った奴らを撃退した桜木らも一般人ではない。敵でないことを信じたい。今はそれが正直な気持ちだった。

 桜木は一つの扉の前で歩を止める。桜木は扉横の端末にコードを入力してロックを解除した。扉を押し開け僕に入るように促す。

 開けられた扉から見える様子に僕は言葉が出なかった。
それはあの光景がよみがえるのに十分な要素だった。
僕が見たあの公園の子供の数こそ違えど、広い会議室のようなスペースにたくさんのデスクとPCらしきものが並ぶ。そのモニターを眺め、居並び何かを行うのは全て子供達。全て同じユニフォームを見て、先ほどの作業着が同じであったことに気付く。

 桜木と一緒に室内に入る。子供たちが見るそれぞれのモニターには3Dの何かのモデルを作っているように見える。小さな子供たちがこんな作業を難なく行っていることは勿論、突然入ってきた僕に興味を示すこともなく集中していることに驚く。

 子供たちのデスクの間を抜けて、部屋の奥にあるガラスパーテーションの裏に入ると巨大なモニターが居並ぶスペースがあった。ここには大人が5人ほど作業をしていた。そして一番奥にあるプライベートスペースにはまたモニターに囲まれたデスクがある。

 桜木はデスクの前に進むと
『高山さんに来ていただきました』と報告したが、デスクには誰もいないように見える。僕は彼の後ろから覗き込んだ。

「ありがとう、おつかれさま」
モニターの陰から声が聞こえた。
誰も座っていないハイバックチェアが動き、ゴソゴソとはい出てきたのはやはり子供だった。

「ごめんなさい、ちょっとモニター交換してもらったんだけど、ケーブルがすぐに抜けちゃって、あ、お兄さん! 意外に早く会えましたね」

 手を払いながらデスクの下から笑顔をのぞかせたのは、公園のあの彼女だった。

「ダヴァースへようこそ。私はナオ。心配しないでね。私たちはお兄さんたちを全力で守るから」

 先ほど実力で相手を排除した桜木が敬礼するこのナオという少女。彼女がどれだけの力を持っているのか、何者なのかもわからない。しかし無力な僕は彼女の子供らしい笑顔にさえも縋りたくなる自分に気付く。

「サツキを助けてほしい」
僕はナオに申し出た。

「そのためには三佳さんやヒデトさんの協力が必要です」
ナオの笑顔が消え、真剣な表情になった。

「僕は何でもする、どうすればいい」

「高山先生を告発できますか」

 ナオのまっすぐな瞳は僕を見据えた。

「理由を教えてくれないか。僕はそれで決心できると思う」

「もちろん」

 ナオはそう言って少し微笑む。

「私も生みの親を敵とするのです。理由は明確じゃないと」

 


㉓へ続く

★この作品はフィクションであり登場する人物、団体、国家は実在のものと  一切関係がありません。

エンディング曲
Jamiroquai - Virtual Insanity (Official Video)


世界はここにある①    世界はここにある⑪   
世界はここにある②    世界はここにある⑫
世界はここにある③    世界はここにある⑬
世界はここにある④    世界はここにある⑭
世界はここにある⑤    世界はここにある⑮
世界はここにある⑥    世界はここにある⑯
世界はここにある⑦    世界はここにある⑰
世界はここにある⑧    世界はここにある⑱
世界はここにある➈    世界はここにある⑲
世界はここにある⑩    世界はここにある⑳

世界はここにある㉑

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