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世界はここにある①

 仕事の帰りにいつも通り抜ける公園がある。
広めの敷地に大きな桜が数本あり芝や花壇の手入れも良くて、近くの住人たちにはそれなりに人気のある場所に思える。通勤以外の時間に立ち寄るといつも誰かがいる。子供たちは何かしら自分たちの遊びをしているし、若いママたちは子供を遊ばせながら、積もる話に笑顔や時折眉を顰めたりと忙しい。飲み物片手の老人同士は表情を変えず、お互いに聞こえているかどうかわからない話を語り合う。その場合の飲み物は大抵アルコールのようだ。
 
 若いカップルを見ることはほとんどない。そういうロケーションではないのだろう。中学生位までならば辛うじて候補になるのかもしれないが、それも帰り道という台本ありきの場面の一つなのかもしれない。

 その日僕は久しぶりに取った休暇を家で過ごしていた。平日なので混まない映画にでも行こうかとも思ったが面倒くさくなりやめた。それでも腹は減るのでコンビニで適当な飯を手に入れるべく外へ出た。

 店へはやはりいつもの公園を通る。今日は気温が低めなので誰もいないだろう。どうしても出かける用の無いヒマ人がウロウロするには少し温度が低かった。映画もやめて正解だったと思う。

 欠伸を数回しながら歩いて、いつものその場所が視界に入る角を曲がった時、一瞬、意識が遠のくような気配の異常さに出かかった最新の欠伸を飲み込んだ。

 
 何?
 
 いつものその公園は幼稚園くらいの子供の塊に占拠されている。ものすごい数だ。何十何百どころではない、多分だが桁が1つ違う。何かの行事?遠足?すぐに浮かびそうな答えはその光景にすぐに否定される。これだけいると大人でも少し後ずさりをする。大人はどこだ?親もそれだけいるのか?しかし集団の中に大人は一人としていない。この場では僕だけが巨人で、あとは数の力で圧倒する子供達だった。

 防御本能から立ち止まった僕だったが、この集団の謎に触れたくなり公園の中に潜り込む。どうやら集団は大人でいうところの集会というやつらしかった。集団の子達はそれぞれの家庭で着せられたバラバラの服装だが、一番奥の方でどこかの幼稚園の制服のようなものを着ている子供が十数人、ここからは聞こえないが何やら話しているようだ。

 僕は近くに順番待ちをする様子の、一番話しかけ易そうな男女(兄弟かもしれない)に驚かせないように声をかけてみた。

「あの、ちょっといいかな?」
男の子のほうが振り向き。なんだ大人かというような顔をしてから口を開く。
「何か用ですか?」
およそ幼稚園児らしくない返答に少し気後れしながらも続ける。

「君たち、何をしに集まってるの?遠足かなにか?」
「違います」
「これから何処かへ行くの?」
「行きませんよ。集まって来たんですから、ここに」
「だったら何してるの?」
「ゆうたくん、知らない人に返答したらだめよ。いつも言われてるでしょ」
女の子のほうが僕を訝し気に見ながら彼に言う。兄弟ではないのか。
「僕は近所に住んでいるんだ。怪しい大人ではないよ。むしろ怪しいのは君らのほうだよ」
僕はつい、子供に本音を漏らしてしまう。

「私たちは怪しくなんかないですよ。れっきとした子供ですから」
女の子が言う。
「それはごめん。でも、普段この公園に君らのような子供がこんなにたくさん、しかもお母さんとかは一人もいないじゃない?先生とかも。僕からするとこの状態のほうが怪しいし、謎なんだよ」
僕は正直な疑問をぶつけてみた。

「何も怪しくありません。ねぇ、ゆうたくん」
「うん、怪しくないですよ。むしろ感動です」

感動?

僕は他の子供たちの表情を見渡した。なるほど、彼ら彼女らはみな喜びの表情をたたえている。やはり怪しい。それが大人の感覚だ。

「何かの集まりなのかな?」
「そうですね」ゆうたくんがいう。
「子供だけの?」
「そうですね」
「親なしで?」
「そうですね」
「なんで親はいないの」
「ぼくらだけの会合ですから」
「いや、だからお母さんとかは知ってるの?君らがここにいること」
「うすうすは知ってるかもしれませんが、僕らも一人前の子供ですから」

 ますますわからない。僕は巨人の利点を使い、その集団の意図を上から探ろうとするがやはりわからない。それどころかこの子供達の統制された集会の謎の深さに腹が減っていたのをすっかり忘れていた。

続く

エンディング曲
detune. / さとりのしょ



新連載です、宜しくお願いします。
突如目の前に現れた子供の集団。彼らのその目的は…?
「僕」は彼らに出会い、そして何を知るのか?
全世界の大人たちの取るべき道は?
全世界の子供たちの取るべき道は?

今、あなたに問う。

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