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連載:「新書こそが教養!」【第71回】『何が記者を殺すのか』

2020年10月1日より、「note光文社新書」で連載を開始した。その目的は、次のようなものである。

■膨大な情報に流されて自己を見失っていませんか?
■デマやフェイクニュースに騙されていませんか?
■自分の頭で論理的・科学的に考えていますか?

★現代の日本社会では、多彩な分野の専門家がコンパクトに仕上げた「新書」こそが、最も厳選されたコンテンツといえます。この連載では、哲学者・高橋昌一郎が「教養」を磨くために必読の新刊「新書」を選び抜いて紹介します!

現在、毎月200冊以上の「新書」が発行されているが、玉石混交の「新刊」の中から、何を選べばよいのか? どれがおもしろいのか? どの新書を読めば、しっかりと自分の頭で考えて自力で判断するだけの「教養」が身に付くのか? 厳選に厳選を重ねて紹介していくつもりである。乞うご期待!

「記者として殺される」!

2022年5月3日、「国境なき記者団(RSF: Reporters Without Borders)」が「報道の自由度」に関する国際ランキングを発表した。政治・法律・経済・社会文化・安全性の5つのコンテクストから、各国でいかに自由に報道がなされているかを100点満点で評価する。1位ノルウェー(92.65)、2位デンマーク(90.27)、3位スウェーデン(88.84)と最上位を北欧諸国が占めている。

ドイツ(82.04)16位、イギリス(78.71)24位、フランス(78.53)26位とヨーロッパ諸国が続く。アメリカ合衆国(72.74)42位、韓国(72.11)43位、多民族の内紛の絶えないボスニア・ヘルツェゴビナ(65.64)が67位である。日本(64.37)は71位、僅差でキルギスタン(64.25)の72位が続く。ちなみに、キルギスタンは、今も「誘拐婚」の風習があるイスラム教徒の国である。

戦争中のウクライナ(55.76)106位とロシア(38.82)155位、中国(25.17)175位、最下位が北朝鮮(13.92)の180位になっている。残念ながら、71位の日本の「報道の自由度」はG7で最低であり、イスラム諸国や独裁諸国の評価と肩を並べている。その主要な原因として、政治的な圧力と大企業の影響による報道機関の「自己検閲」が挙げられている。要するに、ジャーナリズムが日本政府や企業に「忖度」して、自主的に報道を控えているわけである。

本書の著者・斉加尚代氏は1965年生まれ。早稲田大学文学部卒業後、毎日放送に入社。秘書部・報道局を経てドキュメンタリー報道部に勤務。現在はドキュメンタリー担当ディレクター。著書に『教育と愛国』(岩波書店)がある。

さて、本書には斉加氏が制作した2015年の「なぜペンをとるのか:沖縄の新聞記者たち」、2017年の「沖縄さまよう木霊:基地反対運動の素顔」と「教育と愛国:教科書でいま何が起きているのか」、2018年の「バッシング:その発信源の背後に何が」の4作品の舞台裏が解説されている。これらの作品は「新聞」・「放送」・「出版」・「メディア」の深層に踏み込むドキュメンタリーであり、どれも当事者への直撃インタビューを中心に構成されている。

メディアが最大の効果を発揮するのは「インタビュー」だと常々私は考えている。鋭いインタビューを受ける当事者は、言語メッセージに加えて、口調、目や手指の動き、上半身の揺れ、全身の挙動のような非言語メッセージを視聴者に伝える。そこで視聴者は「嘘」を見抜き「誠意」を測ることができる。

2017年3月23日、森友学園の籠池泰典氏が「安倍昭恵氏から『安倍晋三からです』と封筒に入った100万円を受け取った」と国会で証言した。野党は昭恵氏の証人喚問を要求したが拒否された。そこで何よりも情けなかったのが、日本のジャーナリストが誰一人として彼女に突撃取材しなかったことだ。昭恵氏が酔っ払って歌手とキスした暴露記事は出ても、彼女に直接、籠池証言をインタビューした記事はない。取材すると「殺される」から怖いのか?

本書で最も驚かされたのは、ネットで政府の政策に賛同し、批判勢力をバッシングする匿名アカウントの発信元が民間企業で、その企業に自民党関連会社から資金が流れていたこと。ジャーナリストには勇気が求められている!

本書のハイライト

30年前、リベラルな論調を掲げていた記者やディレクターたちは、横柄に感じるほど自身に満ちて大きな顔をしていました。ですが、どうも最近はさまざまな「圧力」に晒されて、支持率の高い政治家らを追及する取材がやりにくくなっているらしいのです。命は取られなくとも「記者として殺される」、そんな物騒な言葉も耳にしました。その現場はデマやヘイトとも隣り合わせです。これらをもたらす要因は何なのか。戦後75年以上が経過し、人びとが希求した「民主主義」という仕組みにいくつも穴が開けられ、その壁が少しずつ崩れかけているのではないでしょうか。(pp. 7-8)

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