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恋愛SF『ブルー・ギャラクシー ジュニア編』6章
6章 アスマン
渚沙とは、数年間、ぽつぽつとメールのやりとりを続けた。中身は、映画や小説のことだけだ。それなら、子供を誘惑したと、渚沙がそしられることもないだろう。
二十歳を過ぎて、もう対等に付き合えるだろうと思ったので、はるばる彼女に会いに行った。あれこれ迷った挙句に、大きな花束を抱いて。
そうしたら、渚沙は既に結婚していた。そして、子供が生まれるのだと、にこにこして教えてくれた。
恋愛SF『ブルー・ギャラクシー ジュニア編』5章-2
5章-2 シヴァ
俺はリナに胸を貸したまま、彼女が泣き止むのを辛抱強く待ち、肩をさすってなだめた。
「とにかく、子供たちの居場所はわかってるんだろう。俺の故郷にいるなら、心配することはない。〝リリス〟が保護してくれる」
リナは香水の匂いがするハンカチを握りしめ、しゃくり上げながら言う。
「だけど、ひどいわ。何の権利があって、人の子供を誘拐するの。あんまりよ」
奇妙な言い分だと思った
恋愛SF『ブルー・ギャラクシー ジュニア編』5章-1
5章-1 シヴァ
「シヴァ、悪いが、リナがそちらへ行く。話を聞いてやってほしい」
リザードから連絡があったことに、まず驚いた。俺がグリフィン役から降ろされて以来、交流は絶えていたからだ。だが、大学教授のような取り澄ました容貌には、何の変化もない。辺境の人間は、あらゆる方法で延命を図る。
そのリザードの説明には、心底驚愕し、揺さぶられた。俺に子供がいたというのだ。それも、二人も。
「まさ
恋愛SF『ブルー・ギャラクシー ジュニア編』4章
4章 アスマン
番犬の暮らしには、すぐ慣れた。自分にこんな修行者みたいな生活ができるとは、これまで考えたこともなかったが。
朝、暗いうちに起き出し、一通り運動してからシャワーを浴び、身支度をする。目立たないスーツ姿でいることがほとんどだ。何種類かの武器を身に付け、食事を済ませる。
俺の部屋は、ライサが暮らす高級アパートメントの同じ階に用意されたが、ここは俺専用ではなく、警備要員の詰所と
恋愛SF『ブルー・ギャラクシー ジュニア編』3章-2
3章-2 紅泉
そうやって離れ小島で三か月ほど過ごしてから、あたしたちは中央に戻った。
いや、本当は辺境が故郷なのだが、もう長いこと市民社会で過ごしているので、すっかり中央星域での暮らしに馴染んでしまっている。
あたしたちはジュニアを同行し、司法局のハンター管理課に頼んで、彼の市民登録をしてもらった。仮の名前で架空の経歴をでっち上げ、市民社会で自由に動けるようにしてもらったのだ。特例だ
恋愛SF『ブルー・ギャラクシー ジュニア編』2章-4 3章-1
2章-4 アスマン
金色のドレスの美女が立ち去るのを、呆然として見送っていたら、リリーが俺に目で合図した。俺が彼女の横の席に移ったら、声を低めて言う。
「あんたを引き取ることに、ヴァイオレットは反対だったのよ。だから、態度が冷たいのは仕方ない。我慢しなさい。それも修行だと思って」
俺が不服な顔をしていると、リリーは更に声を低めて言う。
「問題は、あんたじゃなくて、あんたの父親なの。ちょ
恋愛SF『ブルー・ギャラクシー ジュニア編』2章-3
2章-3 アスマン
しかし、頭をさすりながら、何だかひどく懐かしい気分になった。おふくろにもリザードにも、こんな真似をされたことはないのに。
リザードは冷静な書斎派で、俺にはいつも、静かに話をするだけだった。辺境の現状について。組織の運営について。部下たちはみんな、その静けさを恐れていた。リザードが冷静なまま、冷徹な判断を下すのを知っていたからだ。
でも、この女は最初から、ずんずん俺に
恋愛SF『ブルー・ギャラクシー ジュニア編』2章-2
2章-2 アスマン
機械の召使なんか、八つ当たりで壊しても意味がない。壊さないと約束すると、ナギと名乗った美形のアンドロイドは、俺を通路に連れ出した。
どうやら、どこかの地球型惑星にあるリゾートホテルらしい。大きな窓の外には、波を立てた冷たそうな青い海と、いじけた緑の生えた灰色の海岸線が見えた。意識のないうち、こんな所まで運ばれていたとは。
ここは大陸から離れた孤島で、島にある唯一のホ
恋愛SF『ブルー・ギャラクシー ジュニア編』2章-1
2章-1 アスマン
おふくろは最近、ヒステリーだ。俺がおふくろと呼ぶと、青筋立てて怒りだす。
「リナと呼びなさいって、言ったでしょ!!」
気色悪い。
母親を名前で呼ばせるなんて、異常だ。
おふくろで、いいではないか。ババアと呼ばれるより、はるかにましだろう。それなのに、
「そんな呼び方したって、返事しないから!!」
まるで小娘みたいにわめく。護衛を引き連れて外へ出れば、いっ
恋愛SF『ブルー・ギャラクシー ジュニア編』1章
1章 紅泉
最初は、ナギからの報告だった。
「ミス・リリー、これをご覧下さい。先ほど届いた情報です」
彼はあたしたちが秘書として使っている、美青年型の有機体アンドロイドの一体である。
任務と任務の間の待機時間だったので、あたしたちは中央の植民惑星の快適なホテルにいた。繁華街で買い物をしたり、レストラン巡りをしたりする間に、不定期にネットを通じて、辺境からの連絡を受け取っている。
恋愛SF『ミッドナイト・ブルー グリフィン編』15章-2
15章-2 探春
辺境での彼女の通り名は、ジョルファ。本名はリアンヌ・ルナン。元軍人で、辺境に脱出してからは、老舗組織《フェンリル》のナンバー2として知られてきた人物。
ナンバー1はリザードという通り名を持つ男で、最高幹部会からも重用されているという話だけれど、わたしたちは噂でしか知らない。居場所を秘匿していることが多いため、わたしたちの探査の網にもかからないのだ。
その点、ジョルファ
恋愛SF『ミッドナイト・ブルー グリフィン編』13章 14章 15章-1
13章 シヴァ
「通話だ、向こうと話す!!」
艦の管理システムにそう命じた。話せば、紅泉はわかってくれる。他でもない、従兄弟の俺が言うことなのだから。
あいつはまだ、子供の頃と変わっていない。一緒に野原を走り、木に登り、川で泳いだ。竹刀で打ち合い、柔道の技をかけ合い、取っ組み合いの喧嘩もした。ほとんど、男同士の付き合いだった。だから、わかっている。悪気のない、単純な奴だと。そうだから、報
恋愛SF『ミッドナイト・ブルー グリフィン編』11章-2 12章
11章-2 シヴァ
「小さいうちは、うんと甘やかしても平気よ。あなたも、子供と遊んであげて」
リアンヌは夢見るような、心を彼方に飛ばした顔つきだ。もう、歴戦のアマゾネスという印象は受けない。顔の輪郭も、丸みを帯びてきている。これが本来のリアンヌなのだ。くだらない男に誘われて、辺境などに出てこなかったら、とうに幸福な母親になっていただろう。
「ああ、キャッチボールをしよう。電子工作も教えてや