ゆみ

神奈川県の海辺の町で、議員をしています。趣味で書いている小説を、皆さんに読んで頂けたら…

ゆみ

神奈川県の海辺の町で、議員をしています。趣味で書いている小説を、皆さんに読んで頂けたらと思います。 ブログは「山田由美in葉山」でhttps://hayama-nagae1b39.seesaa.net ホームページ は「山田由美in葉山」で検索を。

最近の記事

恋愛SF『レディランサー アイリス編』23章 24章-1

23章 アイリス  肉体はできた。ごく一部だけがわたしの細胞で、あとは、エディ自身の細胞を利用している。精密な検査をされればそれまでだが、警備センサー程度なら、一時的に騙すことはできるだろう。  目立たない程度に、骨格と筋肉を強化した。エディ本人よりは、何割か強いはず。  暗い洞窟の中で、エディから取り上げておいた服を着た。胸に焦げ穴のある戦闘服だ。いかにも病み上がりらしく、よろめき歩いてみせよう。上空の開けた野山を歩いていれば、いずれ警備衛星か偵察鳥が発見してくれる。

    • 恋愛SF『ブルー・ギャラクシー 泉編』3章-3 4章-1

      3章-3 シレール  違法都市《サラスヴァティ》の管理仕事は、別に、心躍る仕事ではない。  都市内にオフィスや店舗を持ちたがる中小組織を選別する。繁華街を見て回り、悪質すぎる商売を止めさせる。組織同士の対立が、治安の悪化を招かないよう調停する。土地やビルの賃貸料、つまり上納金をきちんと取り立てる。都市の管制宙域に出入りする艦船の監視をする……  ほとんどは、神経を使う対外業務だ。上の世代の負担を軽くするためにも、第四世代の最年長者であるわたしが、厄介事を引き受けるしかな

      • 恋愛SF『ブルー・ギャラクシー 泉編』3章-2

        3章-2 シレール  黒髪の娘は、最初のうち、所属組織における通り名の〝桜〟を使っていた。だが、わたしはじきに、彼女の本当の名前を知ってしまった。  牧田泉。  かれこれ七、八年前、市民社会の女学校を舞台に、ダイナと敵対した娘だ。  泉は、ダイナが悪党狩りのハンター〝リリス〟の縁者だと知らされ、誘拐して人質に取ろうとした。少女を遠隔で操ったグリフィンにとっては、失敗しても損はない、たくさんの試みのうちの一つにすぎない。  市民社会の英雄である〝リリス〟を捕えたり、殺

        • 恋愛SF『ブルー・ギャラクシー 泉編』3章-1

          3章-1 シレール  まあ、いつかは来るはずの時だ。  それも、ダイナの方から、わざわざわたしに会うためにやってきてくれた。来なくていい、などとは言えない。  どんな結果になろうとも、ここで迎えるつもりだった。  それにしても、あんなに慌てて逃げなくてもいいような気がするが。  床に落ちている箱を取り上げ、蓋を開いてみたら、手作りらしいケーキが入っている。レモンクリームを塗った表面には、蜂蜜浸けに見える薄切りのレモンが飾られていた。わたしが教えたレシピの通りだ。

        恋愛SF『レディランサー アイリス編』23章 24章-1

          恋愛SF『ブルー・ギャラクシー 泉編』2章-4

          2章-4 ダイナ  普通人よりはるかに強健で、活力に溢れ、長生きできる肉体。  だからこそ紅泉姉さまも探春姉さまも、ハンターとして第一線で活躍し続けられる。  有機体としての限界はあるけれど、不老処置を繰り返していけば、おそらく、何千年でも生きられる。それ以上の年月を望むことも、不可能ではないだろう。  生まれながらに、こういう特権を持っているのだから、市民社会に生まれるよりも、はるかによかったと思う。  あたしは市民社会で学生生活も経験させてもらったので、両方を冷

          恋愛SF『ブルー・ギャラクシー 泉編』2章-4

          恋愛SF『ブルー・ギャラクシー 泉編』2章-3

          2章-3 ダイナ  無人星系での採掘基地新設や、既存の研究施設の強化、他組織の動向に関する情報収集など、求められる仕事の幅は広かった。これまで、その業務を統括していた年長者たちは、平気であたしに引き継ぎを求めてくる。 「そんなに何もかも、無理です!!」  と抵抗しても、 「あら、あなたが一族で一番若いのよ」 「我々が若い頃は、もっと大変だった。信頼できる部下も、少なかったし」 「シヴァが行方不明で、紅泉と探春が抜けている今、我々の頼りは、きみとシレールだけなのだよ

          恋愛SF『ブルー・ギャラクシー 泉編』2章-3

          恋愛SF『ブルー・ギャラクシー 泉編』2章-2

          2章-2 ダイナ  それから三日、四日、一週間、一か月……秘書見習いの仕事に忙殺されるうち、兄さまの断髪姿を見たショックは、徐々に薄れていった。  兄さまは好きで長髪にしているものと思っていたけれど、そうではなかったのだ。子育ての責任を果たすまではと、約束の印のように髪を伸ばし、養育係に徹してくれていただけ。男性の長髪なんて、歌手とか芸術家とか、よっぽど特殊な人でなければ、あえて望まないものね。  あたしから解放されたら、普通の独身男性の生活に戻りたいんだ。夜の街で遊ぶ

          恋愛SF『ブルー・ギャラクシー 泉編』2章-2

          恋愛SF『ブルー・ギャラクシー 泉編』1章 2章-1

          1章 シレール  まだ、昨日のことのように覚えている。ダイナが小さい頃、毎晩のように、絵本の読み聞かせをしたことを。  竜と騎士、高い塔の姫君、洞窟の財宝、海洋を行く船、砂漠の盗賊。  そして、ダイナが深い眠りに落ちてからも、しばらく椅子にかけたまま、寝顔を見守っていたことを。  くるくるした赤い髪の、小さな娘。大きな緑の目は、起きている間中、世界の謎を映している。  怪我をしてもへこたれない、健康な心身。  好奇心一杯で、世界を探検せずにはいられない性格だ。

          恋愛SF『ブルー・ギャラクシー 泉編』1章 2章-1

          恋愛SF『ミッドナイト・ブルー ハニー編』34章

          34章 シヴァ  怖い。たまらなく怖い。  真実を知られ、ハニーに軽蔑されることが。  人工子宮で誕生させた娘と息子がすくすく育っていることは、担保にならない。ハニーはかつて、マックスに見切りをつけたではないか。この俺だって、ハニーを怒らせてしまえば、 『もう、あなたとは暮らせないわ』  と宣告され、《ヴィーナス・タウン》から永久追放されるかもしれない。そうしたら、元の野良犬に逆戻りだ。意味もなく違法都市をうろつくか、この銀河を永遠に出ていくか。想像するだけで、真っ

          恋愛SF『ミッドナイト・ブルー ハニー編』34章

          恋愛SF『ミッドナイト・ブルー ハニー編』33章

          33章 カーラ  ハニーが、これからシヴァの子供たちを育てるつもりだと打ち明けた時……長い付き合いのルーンは、すぐに喜色を浮かべ、胸の前で両手を合わせた。 「素敵ですわ。おめでとうございます。もちろん、子育てを手伝わせて下さいね!!  ハニーさまが前例になれば、他の女たちも、どんなに心強いでしょう!!」  《ヴィーナス・タウン》で働く女たちの中には、自分の子供を持とうとする者が出てきている。ハニーは、その女たちの子育てを支援する態勢を整えていた。自分一人の人生だけでは物

          恋愛SF『ミッドナイト・ブルー ハニー編』33章

          恋愛SF『ミッドナイト・ブルー ハニー編』32章-2

          32章-2 ハニー 「六大組織ってのは、どんな恐ろしい連中の集まりなのかと思っていたが、とんでもない。ぬるま湯に浸かって、平和惚けした連中だったんだな」  とシヴァは口許を歪めている。長年、いいように使われてきた、という苦い記憶があるからだ。 「もちろん、上級の幹部たちは優秀だ。油断も慢心もしていない。だが、大多数はただの〝庶民〟だよ」  とショーティは言う。遠い未来の目標など持たず、日々が平穏であれば、それでいいのだと。  わたしも驚いたけれど、結局は、そういうも

          恋愛SF『ミッドナイト・ブルー ハニー編』32章-2

          恋愛SF『ブルー・ギャラクシー ハニー編』31章 32章-1

          31章 カーラ  自分で子供が欲しい、と思ったわけではない。わたしはまだ、自分で自分を持て余しているのだから。  ただ、人間とは〝飽きる〟存在であるということだ。  《ヴィーナス・タウン》で働く女たちは、辺境では飛び抜けて恵まれた環境にある。後ろ盾を持つ安全な職場、やりがいのある仕事、頼れる仲間たち。  だが、若さを保っている彼女たちのエネルギーは、次の目標を求めている。いつまでも、同じ日常の繰り返しには耐えられないということだ。いかに恵まれた日常であったとしても。

          恋愛SF『ブルー・ギャラクシー ハニー編』31章 32章-1

          恋愛SF『ミッドナイト・ブルー ハニー編』30章

          30章 シヴァ  しばらくは、平穏な日々だった。カーラが石を投じるまでは。  ハニーが午後のひととき、各部署の幹部級の女たちを集め、お茶とおしゃべりの集まりを主催していた時だ。  こういう時間に、色々な提案が出される。新しいイベント、新しい商品。誰かがちょっとした思いつきを投げ、それが会話の中で雪だるまのように転がって、大きな事業になったりする。  湖の上にクルーザーを出して、花火見物がてらの夕涼みパーティを開くとか。森の中でキャンプをして焚火とバーベキュー、あるいは

          恋愛SF『ミッドナイト・ブルー ハニー編』30章

          恋愛SF『ブルー・ギャラクシー 天使編』14章-10

          14章-10 ミカエル  ぼくがグリフィンとしての職務を果たすオフィスは、違法都市《ティルス》の市街地に用意された。  ここならば、リリーさんが帰郷してくる時、すぐに麗香さんの隠居屋敷がある小惑星に戻って、何食わぬ顔で出迎えられる。ずっと、屋敷で暮らしていたかのように。  そして、新しいオフィスには、ぼくの侍女としてセイラがやってきた。ジャン=クロードに頼んで、異動を認めてもらったという。 「ミカエルさまが許して下されば、わたし、ミカエルさまの元で働きたいのです。知識

          恋愛SF『ブルー・ギャラクシー 天使編』14章-10

          恋愛SF『ブルー・ギャラクシー 天使編』14章-9

          14章-9 ミカエル  杭を打ち込まれた吸血鬼のように、リリーさんは凍りついた。  やはり、ここが最大の弱点。 「そんなことをしたら、あの人は耐えられません。今だって、ぎりぎりで持ちこたえているんですから。もしも、ヴァイオレットさんの心が壊れてしまったら、リリーさんも傷を負います。それこそ、取り返しがつかないくらい。リリーさんがリリーさんであるためには、ヴァイオレットさんが必要なんです……これまで通り、貴女の伴侶は、あの人だけです」 「ミカエル!!」  リリーさんは

          恋愛SF『ブルー・ギャラクシー 天使編』14章-9

          恋愛SF『ブルー・ギャラクシー 天使編』14章-8

          14章-8 ミカエル  次に会った時、ジャン=クロードは妙な顔をした。まるで、ぼくが別な誰かになったかのように。 「何です?」  ぼくが尋ねると、彼は直立不動のまま、口元を引き締めて言う。 「何でもありません……ミカエルさま」  思わず、笑ってしまった。たった数日、会わなかっただけなのに。そして、センタービル上層階の客室を背景にしているだけなのに。それが、いかに豪華な客室であったとしても。  その間、ぼくはショーティに会い、シヴァの経歴を聞き、グリフィンの職務につ

          恋愛SF『ブルー・ギャラクシー 天使編』14章-8