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今日が水平線に落ちる頃

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散文、詩、ドローイングなど
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#エッセイ

耳鳴り

耳鳴り

「左耳から高い音の耳鳴りが聞こえると天使がいるんだって。」

耳鳴りがするたびに根拠のないジンクスを思い出す。
確かに確かに。というように、実際見たことはない。だから一時期ずっと天使の絵を追っていた。

実際には雪の降る前は、よく耳鳴りがするもので、私はその意識が少し離脱するような感覚が嫌いではない。

旧約聖書に出てくる天使はとてもこの世のものではない霊的な姿や存在として描かれている。私クリスチ

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飽きることとホモサピエンスすること

飽きることとホモサピエンスすること

人は人科らしい。学術上で言葉で表すと人科人亜科の人族など、ネット上の文献で調べられるが、特に意識したことはない。私は自覚する中、自分や他者を 人 であると思っている。
ホモ・サピエンスと言うともう少し、知的な とか、新人類 進化したなどと読み取れる文献も出てくる。
ついでに言うと私はそう言った分野に全く詳しいわけでも勉強したわけでもないのでこんなタイトルですみません、よくわかっていなくて。といった

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知らない先

知らない先

未来を見る力なんて無い。今しか感触は無い。

大変な時代になってしまったと人はいつも思うのかもしれない。いつも主語は曖昧で飽和している気分でいる。集合意識というものがあるのなら、どこまでが自分でいられるのかと思う。

今の社会の動きの中、過去という織物に織り込まれていくようで気持ちが圧迫されていく。知らない時代の糸を受け入れている今は、生きることに対して陽を感じることが本当に必要だろうか。

少な

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空が遠ざかるのは、きっと鳥のはばたきに余白を残して

空が遠ざかるのは、きっと鳥のはばたきに余白を残して

もうそろそろ夜明けは、少しまるくなった温かい風が運んでくる。

何年も先の日記のページを暗示するような明るさの雲の層は、数々の鳥の目覚めを飲み込んでいる。遠くに頬の高揚に似た、桃色がしみてくる

聞き慣れた音階に似た声の鳥に集中すると、聞き取れる音域が広がってきて音楽が組み立てられていく。

小さな鳥 大きな鳥、それを何セットか繰り返したのを合図にセミがだんだんと鳴き重ねていく。風が少し吹く、シャ

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銀河、私たちは永遠の夏の子ども。

銀河、私たちは永遠の夏の子ども。

瞳の奥に赤い華の咲き乱れているそこは夏の終点。宙の露が、光る場所。

汗は顔や身体中をつたってざわめき世界中の道のような血管の凹凸を重力に従って落ちていく。熱い土に黒くシミを落として、そして目指す。私たちは全く誰もいない知らない場所を知っている。

このむせるような暑さの果て。真夜中、ペルセウス流星群には今年も搭乗できなかったけれど、強くこの道から進もう。たいそうな旅になるかもしれないと心配すると

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羽化の穴

公園へ行った。朝の暑くなってきた頃に。そこいらじゅうに大人の親指程度の 穴、穴。蝉のでてきた穴だ。夜にたくさんの秘密が生まれていることを思うと、羽化を感じるために夜の木々の間に耳を歩かせている自分がいる。

木の多い大きな池のある公園は、長い梅雨を終えて待っていたとばかりの蝉の大合唱の真っ只中だ、密に何種も鳴き始めている気がする。私には三種類くらいしかわからないんだけれど、ミンミンゼミ ツクツクボ

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窓をたたく女

窓をたたく女

夏になると決まって不思議な出来事の番組や、盆近くになれば何か普段とは違う空気が流れていた。なかなか、今夏休みなんて意識しなくなってしまったけれど、あの雰囲気を皮膚の下に潜んでいる忘れた神経痛のようにピリピリと感じる時がある。

免許を取り仕事も始めたばかり、私は運転を練習しながら一人のその時間を楽しんでいたし月給もわずかだが実家だったため車のメンテナンスには十分でドライブのみで随分遊べた。その始め

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テグジュペリ 「夜間飛行」について

自分は、経験してきた今までの仕事に対して、磨き上げた満足感という感覚がこれといって無い。何について、どれだけ深く追求し、愛という時間を込めたのか、自分の中の神さまに使えたんだ。と言い表せるような諦めに似た澄んだ気持ちになってみたいと、サン テグジュペリの「夜間飛行」を読みながら思う。

その当時の飛行士は、決して誰も現場を見ることのできない、夜という黒い海の中、完全な孤独と経験にゆだねられていたの

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体の中の音は何よりも近く。命がノックする音が聞こえる。

体の中の音は何よりも近く。命がノックする音が聞こえる。

私は音を聞くことが好きである。そして海中を思う。あまり響かないのか、響く最大の波長を聞こうと頑張るかの、ただの実験的毎日に過ぎない。海中で消えてしまうような無意味な音は泡に似ていると思う。聞くことは、書くことに変換して増殖する。泡が分裂するように。聞くというのは、その季節や1日の時間の移り変わり、バイト先での音楽やら駅のたくさんの動的なものが含まれた場所の音の収集作業だと思う。  それらが 「言葉

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見送られるのはエンドロールの前に

見送られるのはエンドロールの前に

緊急事態宣言は 1ヶ月ほど経ちすでに感覚が融解している。

最前線を片隅に皆がネットを徘徊し、粛もその言葉の意味をなさなくなっている。モニターの層に存在する社会は、悲しみが際立って何もつかみ取れない。

申し訳なくも、パソコンの前で意味のないキーボード演奏を続けるのは悲しいけれど、こうしているしかないのです

 今日は雨音が少し道を打ち付けてきて、辺りを、頭の中を、エコーが縮小していく。跳ね返る

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刺さらぬはずの、棘が指に食い込んでくる。

刺さらぬはずの、棘が指に食い込んでくる。

 私たちの暮らしはすでに夜が増えている。仕事を迎えない朝が続くことは奇妙であり、日差しだけ妙にリアルで、息苦しい。           日に日に増えていく、赤の濃淡でマッピングされた、          この、見たことのない世界地図は一体何だ。 

 夜までに、だんだんと私達は、実に弱い貧弱で寂しい集団になり、モニタの中のシェアハウスに出たり入ったりする。              明かりのついた

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