マガジンのカバー画像

RIPPLE〔詩〕

132
運営しているクリエイター

#小説

短い長い口づけ【掌編1200字】

短い長い口づけ【掌編1200字】

 翡翠を磨いたような湖面を見下ろしながら、ひとりの鳥人が飛遊に興じていた。体躯ひとつを優に超える翼を対にはためかせ、風を切っていく。立派な筋肉を備えた肩や背中の肌は、翼と同じ焦茶色の羽でまばらに覆われていた。

 ふと湖畔の岩場に人影を見つけた。足元が常人のそれではないことに気付くと、鳥人は舌なめずりをして近づいていった。
「よお! 何してるんだ?」
 岩場の手前で浮遊しながら無邪気に声を張った。

もっとみる
エミューの宴 【寓話】

エミューの宴 【寓話】

 起伏のない常闇に
 すべての命は眠っていた
 割れ目にしつらえた寓居に
 太陽もまだ眠っていた
 月や宵の明星が寄り添っていた
 天の川の兄弟たちも

 名もなき無数のプランクトンは
 闇の底で待ちわびていた
 形と言える形を持たず
 色と言える色を持たず
 その時を、永遠の眠りから目覚める時を
 ひたすら待ちわびていた

 最初に目覚めたのは
 小さな傷のようなエーテルだった
 大地に起伏がな

もっとみる
四行詩 15.

四行詩 15.

覚めたのはきっと現の方だ

夢はありったけのあるだけの日々

饗宴は ひとすじの星明かりへと

楽園は 一輪の花へ 還っていく

*  *  *

2018年は大変お世話になりました

どうぞ良いお年をお迎えください

矢口蓮人

*  *  *

四行詩 13.

四行詩 13.

朝が黄色い涙落とした

夕べは青く鳴いていた

移ろう色こそ恋と呼ぶなら

望むのは 永遠でなく あと1分
#詩 #短詩 #四行詩 #エッセイ #小説 #ポエム #恋

とある塔の頂で

とある塔の頂で

 遠く隔たっているようで、すぐ辿り着ける国の、離れているようで、傍にある塔の話。

 聞こえるか、摩擦で上げる雄々しい叫びが。見えるか、対比が示す猛々しい建造が。そうだ。上へ、上へ、上へと積み上げてきた塔だ。烈しさゆえに、物々しくも濃霧に隠された、輪郭と鋭角の象徴だ。

 こんな伝説がある。塔の最も高いところに剣を突き立てた瞬間のこと。稲妻が龍の如く天へと昇り、分厚い暗雲をつんざく、と。霧が晴

もっとみる
とある泉のほとりで

とある泉のほとりで

 遠く隔たっているようで、すぐ辿り着ける国の、離れているようで、傍にある泉の話。

 立ち込める霧は視界の全ては遮らない。霧は、泉のまわりにある原生林や山々や、その輪郭と色合いをうまく柔和させている。目の前の光景をむしろ美しく、ただ美しく見せ、旅人らを妖しげに誘っていた。
 霧と凪は仲良くしていた。ここでは晴れやかな陽気よりも、閑寂とした空気の方が似合うみたいだ。快活な太陽が照らせば、すぐさま光が

もっとみる
太陰暦

太陰暦

さあ飛べや飛べ

真実に満ちた夜の宴で

踊れ踊れよ 月の周りを

その情熱が欠けぬよう

焔絶やさぬ祈りの歌を

さんざん踊り明かした後には

すぐ鎮まれよ 翼をたたみ

還れ還れ還れ 日常へ

大地に座り見上げてみれば

暗き余白にも潜む真実
#詩 #短詩 #エッセイ #小説 #ポエム

四行詩 10.

四行詩 10.

    堕ちて潜って沈んだ先で

    「腐るだけ」などと誰が言う

    闇深まれば 深まるほどに

    踊りはじめる 光の砂塵

 お師匠さんの言葉からインスピレーションを受けて書いた。しかしどこに記載があったかをまったく見失ってしまった。こういうことってよくありませんか?
 きっと僕がこの詩をまた見失ったときに、ひょっこり顔を出して僕をたしなめるのだろう。
#詩 #エッセイ #

もっとみる