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「アメリカ発握り寿司ブームとその問題点」 寿司侍が見た現状と課題

世界60カ国をまわり、安全でおいしい日本の寿司を伝えるとともに、寿司職人の指導や地位向上にも努めている寿司職人、小川洋利さん。日本では、TBS『ぶっ込みジャパニーズ』のマスクをかぶった寿司職人としても有名です。アメリカ、ヨーロッパ、アジア、アフリカなど、世界各国の変わり寿司ネタの話や、食の安全性、食文化、生魚を取り扱うことの難しさなどについてを伺いました。また、最後にはフィリピン人による寿司ドリームの話も!

ノルウェーの首都オスロで開催された「NORDIC  SUSHI  CUP」

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小川さんに話を聞いたのは2020年3月8日。現在、小川さんは現在ノルウェーのオスロに滞在しています。

「ちょうど昨日まで”NORDIC  SUSHI  CUP”を3日間開催して終わったところなんです。それで夜中まで仲間と一緒に飲んでいました」

小川さんが審査員として参加した「NORDIC  SUSHI  CUP」とは、ノルウェー人の寿司職人のためのノルウェー選手権。選び抜かれた20人のトップシェフが、日本の伝統的な禅に基づき審査されます。どのシェフも5年以上の経験を持つプロ中のプロばかり。

優勝者は2020年11月、日本・東京で開催される「ワールド寿司カップ2020」への決勝戦に出られるということで、かなり盛り上がったそうです。

4年連続ミシュラン1つ星を獲得した寿司専門店「Sabi Omakase」

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「現在、ノルウェーでミシュランの星を獲得したレストランは全部で10店舗しかなく、そのうちの2店舗が寿司専門店。どちらも、僕の仲間がやっているお店です。『Sabi Omakase』は、フィリピン人のRogerの店で、4年連続ミシュラン1つ星を獲得した寿司専門店です。私がお店の看板文字を書いたり、日本から食材を送り、メニュー開発したりしたお店で、私にとっても思い出深い店舗です。

Omakase Oslo』は、こちらも私の仲間です。彼は2013年に”ワールド寿司カップ”に出場した時に知り合い、”ノルウェーにきたときは寿司について教えてほしい”といたんです。『Omakase Oslo』のPakさんは2014年に会って2017年、ワールドすしカップJapan決勝大会で優勝し世界チャンピオンになった人で、今年2020年にミシュラン1星を獲得しました。彼は今回の大会は運営側におりました。『Sabi Omakase』『Omakase Oslo』、どちらもノルウェーでは超人気店です」


未知なる味を引き出すか、そぎ落として素材の旨味を最大限引き出すか

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ところで、ノルウェーでは日本の寿司はどのくらい広まっているのでしょうか?

「私がノルウェーを訪れたのは2015年。いまから6年前ですね。その頃はまだロール寿司がメインでした。当時はソースが決め手で、そのために魚本来が持つ素材の旨味を活かしきれていないと感じました。とはいえ、それは食文化が違うので当然のことだと思います。

ヨーロッパはソース文化で、素材を組み合わせて未知なる味を生み出すスタイルです。それに比べて日本の食文化は、素材そのもののうまみをいかすことを大切にしています。そのためヨーロッパでは加える食文化、日本は余計なものをそぎ落とす食文化なのです。

ノルウェーは北海道と一緒で魚が豊富に獲れます。日本にもサーモンを出荷していますよね。でも、ノルウェーには生魚を食べる文化はないから、私たち日本人からしたら食べられるようなところを捨ててしまうことが多いんです。たとえば、フグやタラなどの精巣は日本では「白子」といわれ、高級品扱いされますが、現地では捨ててしまう。そのため、僕はレストラン寿司懐石のイベントなどで捨てるはずだったものを使って白子の天ぷらを作って出したんです。そしたら現地の人たちにおいしいって受け入れられたんですよね。

ノルウェーでは生魚を食べる文化がないし、生魚といえば塩漬けしたアンチョビ、スモークやオイル漬けなどでした。それが寿司文化のひろがりとともに徐々に魚を生で食べることが増えてきて、今は日本の伝統的な握り寿司が高く評価されるようになってきました。最近は、寿司の握り方についておしえてくださいという依頼もたくさんいただいています」

欧米の寿司の概念を変えた一本の映画『Jiro Dreams of Sushi』

これまでは海外で寿司といえばカリフォルニア巻きのような巻き寿司だったのに、なぜ日本の握り寿司の文化が広まったのでしょうか。

日本の握り寿司が世界で有名になったのには、2011年にアメリカで公開された映画『Jiro Dreams of Sushi』の存在が大きかったと思います」

『Jiro Dreams of Sushi』は、2011年にアメリカで公開されたドキュメンタリー映画。日本でも安倍首相とアメリカ前大統領のオバマ氏が訪れたことで有名になった「すきやばし次郎」の店主である小野二郎氏(当時85歳)をドキュメンタリータッチで撮り続け、1つの寿司を握るまでにどれだけの人生を削っているのか、その技を極める姿が話題になった映画です。日本では『二郎は鮨の夢を見る』というタイトルで公開されました。

「次郎さん、90過ぎているのに今も現役で寿司を握ってるんですよ。この映画を世界の人たちが見て話題になったんです。なぜかといったら、寿司の文化を知らない海外の人たちは、寿司というのは、ただ単に白米の上に魚を乗せて食べるサンドイッチのような手軽なものというイメージで見ていたんですよね。それが映画で次郎さんの寿司にかける生き様をみて、大きく考え方が変わったのです。

「Omakase」が伝えた日本の親方文化

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不思議なことに、物が流行るときはアメリカからなんですよね。日本からじゃ流行らない。アメリカでこれまで主流だったロール寿司にかわり、握り寿司がはやり出し、カウンターから直接お寿司を出す文化が定着し始めました。いままでは奥の調理場で寿司を作り、ウエイトレスが作ったものを持っていくというのがいっぱんてきだったんです。日本では寿司屋に行くと寿司職人がお客さんの目の前で寿司を握り、それをカウンターから直接出すでしょ。これは世界ではあまりないことなんですよ。この映画をきっかけに「O makase」という言葉、‟Trust me=わたしのことを信用して”という言葉がはやり始めたんです。「シェフにおまかせ」という文化は飲食業界ではほとんどないことだったんです。

日本のお寿司屋さんでは”親方文化”、つまり‟寿司屋の親方が厳選した、その日一番おいしいものをいただく”というがありますよね。親方、シェフにすべて任せて、シェフのいうとおりに食べなければいけない。海外にはこれまでそういう文化がなかったのですが、意外とこの”親方文化”が海外でウケたんですよね。

日本にある、こだわりぬいた寿司屋では、お店を予約して10分すぎると入店を断るところもありますよね。寿司はもちろんのこと‟寿司を食べる空間”にまでこだわりぬいている職人気質なところが、海外では新鮮だったんでしょう。

職人にも3つのタイプがあって、1つは今言ったように親方気質の職人さん。2つ目はお客様が食べたいものを選んでもらい、それを握るというタイプです3つ目はお客様からのどんな要望もお受けしていかにうつくしくお造りできるかというタイプ。

私は、お客様が食べたいというものをいかにおいしく出せるかが本当のプロだと思います。お客様が望んでいる以上のものを出せるかが、勝負です」

寿司職人における「一流」と「超一流」の違いはないか

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ところで、一流の寿司職人と超一流の寿司職人、違いはどこにあるのでしょうか?

「まず、一流じゃない寿司職人はお客様のリクエストをきちんと作ることができない人です。これは論外です。一流の寿司職人は、お客様のリクエストにきちんと応えられる人です。では、超一流の寿司職人はなにが違うのかといえば、お客様の期待以上のものをだせるということです。

たとえば、さきほどの親方気質か、お客様からのリクエストを聞いて寿司を握るスタイルかという話でいえば、おまかせで作ってみたものの、お客様を満足させることができなかったら、単なる自己満足になってしまいます。これに対して、お客様が期待した以上のものを出せれば、親方気質でもリクエスト型でも、それは超一流の寿司職人です」

「捨て目、捨て耳」を活かして居心地のいい食空間を作る

「よく私たち職人は、捨て目、捨て耳という言葉をつかいます。お客様のことを見てないようで見ている。聞いていないようでちょっとした音にも気を配るという意味です。

氷の音がカランとなったら、ドリンクが空になりかけているなと気づき、必要があれば新しいサワーをお出しする。お茶の差し替えなども同じです。お客様に意識をさせないように、会話の邪魔にならないように、お客様が今何を望んでいるのかを察する。

もし、来店されたお客様が話をするのが好きな人だったら話相手になったり、一人で飲みたい人には話しかけないようにする。カウンターに立つものだったら誰でも気をつけていることだと思いますが、ただ寿司を握るだけではなく、お寿司をおいしく召し上がっていただくために、その場の雰囲気作りも大切にしています」

カウンターに立つ職人さんは、寿司を握るだけじゃなくお客様の状態を気にかけつつ、適度に聞き流す。そんな見えない気遣いがあってこそ最高な空間を演出できて、私たちはより一層お寿司をおいしく食べられるのかもしれません。

世界で人気の寿司ネタはマグロよりも……

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※ポーランドの首都ワルシャワでのテレビ収録

日本で寿司といえば、まぐろが人気ですが、海外ではどんなネタが人気なのでしょうか。

「どこでも人気なのはサーモン。今、日本でもマグロを超えてサーモンが人気です。サーモンがウケる一番の理由は色でしょうね。海外の人は生魚を食べたことがない人が多いからまずは魚の色を見るんですよ。サーモンは時間がたっても色がかわらないし、身もやわらかくて口に入れるとトロっとしてるでしょ。海外の人は、身が締まった魚は好きじゃない人が多いです。ひらめとか鯛は日本ではプリっとしていて歯ごたえがあるから人気ですが、海外では噛まないでつるんととけるものが人気なんですよ」

マグロもきれいな赤い色をしていますが、それはどうなんでしょうか。

「マグロの赤身はいいけど、時間がたつと黒ずんでしまいますよね。かつおにも同じことがいえるけど、マグロもかつおも色がかわるのがはやいんですよ。でも、味はかわらない。色素の問題で色がかわっても鮮度には問題はありません。日本人は生魚を食べる文化があるから、ちょっと黒ずんだインドマグロなど脂がのったものが好きです。でも海外だと脂身が少なくても色の薄いキハダマグロのほうが人気があります」

「寿司は怖い」!? 生魚をめぐる食中毒と対応策

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海外で日本の寿司がもてはやされる一方、寿司に対して「食あたりなどが怖い」と思う人も増えてきているといいます。

「これまで日本食といえば、ヘルシーで体にいいというイメージがありました。しかし、ここ2、3年は違います。日本食に対して”怖い”というイメージを持つ人が増えてきています。というのも、今、寿司を握ってお店で出す人は世界で40万人いるといわれていますが、中には生魚や甲殻類の扱い方を知らずにみようみまねで出してしまう人もいるからです。

これまで海外ではやっていた寿司は、ロール寿司など加熱した魚を使うことが一般的でした。しかし、日本食文化の普及と同時に、生の寿司を出すところも増えてきています。そこで問題なのが食中毒や甲殻類アレルギーの問題です。

エビやカニなどの甲殻類は、そのまま使うとアナフィラキシーというアレルギー症状を引き起こしてしまうことがあります。そのため私たち寿司職人は必ず下処理をして出します。海外で寿司を握っている人たちはそのことを知らずに出してしまうことがあります。大人は口のまわりがかゆくなる程度ですむかもしれませんが、万が一、子どもに甲殻類アレルギーがあった場合、アナフィラキシーショックを引き起こして呼吸が苦しくなるから、取り扱いには十分注意が必要です。

アニサキスを処理しないで食べてしまうと激しい腹痛に襲われることに

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さらに、生魚を扱うときにアニサキス食中毒の問題があります。日本でも、少し前に芸能人の方が魚に寄生していたアニサキスを魚と一緒に食べてしまい、病院で治療したという話がありましたよね。

アニサキスは、日本の寿司職人であれば調理の段階ですぐに見つけて対処します。しかし、それを知らない人が魚をさばいで出してしまうと、まれに魚の切り身と一緒に人間の体内に入って生き続けてしまうことがあります。基本的にはアニサキスは調理段階で処理されるため胃まで到達することはありません。しかし、まれに胃まで到達するものもいて、胃の粘膜をくいちぎってしまうこともあるんですよ。そうなるとお腹が痛くなる。

フランス、イギリスなどは、魚は必ず冷凍しないと刺身では売ってはいけないことになっています。日本ではマイナス20度以下で48時間冷凍しましょうとなっています。この冷凍時間も国や地域によってまちまちです。たとえばカリフォルニアでは156時間、約一週間冷凍しましょうというんですけど、そうなると魚を解凍したときに水っぽくなってしまうんですよね。寿司はただ握ればいいというものではなくて、魚の下処理の仕方からちゃんと学ぶ必要があるのです」

魚をさばくのに水を使わないと腸炎ビブリオが一気に増殖

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アニサキスのほかにも、食中毒の1つ、腸炎ビブリオも注意が必要。

「腸炎ビブリオは、海水や海産の魚介類などに生息している菌です。海水にいるときに魚のうろこなどに付着する菌ですが、実はこの腸炎ビブリオは真水に弱いんです。そのため魚をさばくときは真水をまきながら行います。ただ、欧米の場合は肉文化で、肉を調理するときは反対に少しでも水が飛んだらふき取ります。そのため、魚を扱うときも同じようにしてしまうのです。それが原因で、腸内ビブリオ菌が増殖してしまうのです。

さらに、寿司職人は手酢(てず)とよばれる、水に酢を1対1でまぜたものを手が届くところにおき、常に両手を湿らせ、手を殺菌消毒します。バクテリアの殺菌作用を利用して菌の増殖を防ぐことができるんです。海外の寿司職人は、この手酢を普通の水と勘違いしてマネしてやる人がいますが、水だけつけてやっていると、今度は違う菌が発生してしまうからとても危険なんです」

見よう見まねでやってしまうと、食べた人が食中毒になってしまうので、海外で寿司を握る人には、ここは本当に気をつけてほしいところですね。この手酢、実は殺菌効果のほかにももう1つ大事な役割があるといいます。

手酢をつけることで、手のひらを冷やす効果もあるんですよ。手のひらを冷やすことで、手の熱で酢飯の温度が上がってしまうことを防ぎ、手に米粒がつきにくくなります。

ビニール手袋の着用はかえって菌が付着しやすい

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食中毒の話で気をつけたいのがビニール手袋の着用。海外では素手で食品を触ることが不衛生とされているところもあり、寿司職人にもビニール手袋を着用するよう求められたことがあります。

しかし、ビニール手袋をつけて握ることで食中毒が逆に増えてしまったんですよ。なぜかというと、ビニール手袋をつけて作業することで、手を洗わない人が出てきたのです。つい自分の手はきれいだと思って油断してしまうけど、実は菌がいっぱい付着している。そんな状態では、いくらビニール手袋をつけていても不衛生です。

また、魚を触った時に素手で触ればいつもよりぬめりけがあるから傷んでいるということもすぐにわかります。ところがビニール手袋をしているとそれがわからないから、見た目が問題なければそのまま使用してしまう。それが原因で、食べたお客さんが食あたりを起こしてしまう。これは問題です。それもあり、今またビニール手袋を使用するかどうか再検討されているところです。

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海外では、これらの衛生面のことに話すときは、日本の保健所に協力してもらい、手のひらにどれくらいの菌がついているのかなどのデータをみせながら説明します。日本では‟親方のやることを盗め”という文化でしたが、海外ではそんなことをしたら誰もついてきません。ちゃんとデータをもとに根拠を示し、納得してもらうまで説明する。ところ変わればというやつです。でも、それがすごく大事なことなんです」

語学が堪能で、ロジカルかつ丁寧に説明できる小川さんのもとには、各国の大使館からの依頼も多いといいます。

「さきほど話したアニサキスや甲殻類アレルギーの問題も含め、食中毒対策や生魚の扱い方について講習をしてほしいという依頼が大使館からあります。実は3月12日からイタリアのミラノ&ローマ、&ベルギー、フランス、チェコといろんな国からのオファーがあったのですが、コロでナウイルス対策でキャンセルになってしまいました。残念ですが、また次があるでしょう」

多くの寿司職人を育ててたくさんのお客様に喜んでもらいたい

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小川さんは、今後どんなところに力を入れていくのでしょうか。

「世界中に一人でも多くの寿司職人を育成したいと考えています。寿司職人の最終的な目標としては、自分のお店を構えることでしょう。私は29歳の時に自分のお店を構えました。リーマンショックなどで大変な時もありましたが、なんとか10年間赤字を出さずにやってこれました。それもあり、自分のお店を持つという夢は、もう達成できたんですよね。

だから今は後進の育成に力をいれています。自分がお店をやっても来店されるお客様はせいぜい20人か30人。その人たちにお寿司を握ることで喜んでもらうことはできるかもしれないけど、できればもっと多くの人に喜んでもらえることをしたい。そう考えた時に、寿司職人を育成すれば、その人たちがそれぞれのお店に来るお客様を喜ばせることができる。だから、私はこれからは後進の育成に力を入れようと思い、今のように世界各国を訪れて、その国の人たちに寿司文化や衛生面のことなどを教えています。

給料は、自分でお店をやっていたほうが絶対に稼げますけどね。収入なんて4分の1ほどに下がりましたから(笑)」

情報がないなかでも日本の寿司を模して作るキューバの職人たち

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これまでに訪れた国は60カ国以上、1年間で約25国30都市をまわる小川さんですが、印象に残っている都市やお寿司はありますか?

「キューバです。キューバは社会主義国で、軍事政権なんです。そのため医者も寿司職人も同じ給料です。ネットが全部シャットアウトされているから外からの情報はなかなか入ってこない。

実は、キューバにも寿司屋がありますが、そこの寿司はすごいですよ。なんでも寿司の作り方を本で見たとか、人から聞いたから作ったというものなんです。それでもすごく人気があるんですよね」

小川さんがTBSテレビ『ぶっこみジャパニーズ』の収録で訪れたキューバでは、寿司を作るのにシャリは芯が残り、水っぽい。そして異様に甘い。

「砂糖水をごはんにかけたような感じです。シャリを握る時もカップに魚の切り身を入れてその上にシャリを押し込む。そんな作り方でした」

そのシャリカップに使われていたものは、喘息の薬の蓋だったとか! なかなかない珍しい寿司の回でした(詳しくは、ぶっ込みジャパニーズ6、キューバで検索してください)。

「キューバではインターネットなどが使えないから情報がほとんど入ってこない。そんななかでも、日本のお寿司について考え、オリジナルのものを作っていたんです。彼らに敬意を評して、よりおいしいお寿司を作り、お店を繁盛店にして欲しいと思い、正しい作り方を伝えました

シーフードのかわりにフルーツ満載! アフリカのオリジナルすぎる寿司スタイル

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※ヨーロッパのある国では、苺のロール寿司があった

「寿司は世界各国に広がっています。どんな山奥でも寿司がある。たとえば、海がない国、チェコでも寿司を扱うところが100店舗近くあります。

日本人はお寿司といったら海鮮を使うというイメージがあるけど、アフリカはお寿司というとイチゴやバナナ、ブドウを使ったものが出てきます。

ブラジルではお寿司は前菜。そのあとに肉料理が出てきます。寿司に衣をつけて揚げ物にしたものもありました。メキシコも同じ。ヨーロッパの寿司はなんでもチーズが入ってたりね。

タイは、外の気温が30度以上になるのに屋台で寿司を売っているんですよ。しかも、ハエがたかっていました。あれは衛生上、売ってはまずいよね。それでもタイ人に聞くと、‟食あたりをしてもしかたがない。屋台でたべるというのはそういうリスクもある”というんですよ。これもタイ人のすごい文化なんでしょうね」

世界は広い。寿司も、国や地域によっていろんな変化を遂げていくのかもしれません。とはいえ、やはり生魚を使うため、衛生面においては非常に注意が必要です。正しい知識と、素材の旨味を活かしたおいしいお寿司を小川さんに伝えてもらいたいと思います。

料理人を幸せにできる「料理人」になりたい

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小川さんには、もう1つ目標があるといいます。

「料理人の地位向上です。日本やフランス、中国などはシェフの立場が確立されていますが、食文化のないアメリカなどでは、シェフの地位が低いんです。

シェフよりも、直接お客さを接待するウエイター、ウエイトレスのほうが地位が高いんです。シェフはキッチンの裏でコツコツ働いていくだけの人にみられがちです。そのため、アメリカの調理場の9割以上がスペイン語で話されているといわれているほど。ようするに、メキシコ、ペルーやベネゼエラなど移民の人ばかりなんですよ。

ブラジルのレストランの厨房では、お客様の残ったものをシェフたちがみんなでビニールに詰めて持って帰るんですよ。それを持って帰って子どもに食べさせる。移民だから家がなくて、残飯を持って帰る文化。ようするに給料いらないから食べ物をくれということなんです。南米などでは、そういう国ががとても多いんです。

日本でも、昔は訳アリの人が多かった。お金がなくて住み込みで働く人、〇ヤの人。世間的にも料理人の地位は低かったと思います。それが近年は、川越達也シェフなど、料理もできてかっこいいシェフなどが増えてきて、料理人はオシャレな職業になってきたなと思いますよ。

私は、これまで世界60カ国ほどをまわり、食の仕事に携わる人たちを大勢見てきました。それもあり、食に携わる人たちの地位向上もかねて今の仕事に取り組んでいるんですよ。

寿司職人は、海外ではまだまだ認知されていないところもあります。でも、実はすごい職業なんだよということを伝えたいんです。

「今までは寿司を握ることにプライドを持てなかった」あるチベット人の告白

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5、6年前、インドで講習会をやったときに、チベットの人が僕のところにやってきてこう言ったんです。

‟寿司職人がこんなにすごいことだとは思わなかった。今までは寿司を握ることにプライドを持てなかったけど、あなたの講習を受けて感動した”

今はまだ、寿司職人についてその技術の奥深さが伝わっていないところも多く、白米の上に魚をのせているだけのようにみられることもあります。

いわばサンドイッチ職人のように思われているんです。でも、実際に講習を受けてみると、さしみひとつきるだけでもこんなに技術が必要なのかということがわかると思います。

寿司職人は今よりも技術や地位が認められて、給料もよく、ちゃんとした職業として成り立つようにやっていきたいんです。一部の職業人は立場も待遇もいいと思います。でも、それはまだほんの一部の国だけです。

今、寿司職人は男性にこだわらず、女性も増えています。

インドネシアはほとんどが女性です。それは文化的なものもありますが、私は女性が活躍するお店があってもいいと思います。私たち寿司職人は女性もウエルカムです。女性には女性の良さがあります。

日本でも、島国だったから寿司を握るのは日本人というイメージがあったけど、国際結婚や海外からの移住者も増えてきているから、いろんな国の人が握ることもこれから増えてくると思います。

高齢者の中には外国人が握ったお寿司は食べたくないという人もいるかもしれません。でも、たぶん若い人たちは柔軟に受け入れるでしょう。寿司文化と技術をどんどん広げていきたいですね」

ノルウェーに20店舗を展開。皿洗いから始まったフィリピン人シェフの寿司ドリーム

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小川さんが最初に話してくれたノルウェー・スタヴァンゲル『Sabi Omakase』シェフで、ミシュランの星を取得した彼は、実はフィリピン人なのだとか。

「彼は、フィリピンからノルウェーに出稼ぎに来ていたんです。9人兄弟の長男で、自分がほかの兄弟たちを養っていかなければいけないからということで海外に出たそうです。

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※ノルウェーで日本食すし店で初のミシュラン星を獲得したRoger asakil joya さん

彼はノルウェーに来ても仕事がないから、最初は皿洗いから始めました。日本の寿司店では、見習いがあり修行時代は全部こなして板前になりますが、海外では掃除専門の人は掃除のみ、皿洗い専門の人は皿洗いのみ、ウエイターはウエイターのみと、各業種に分かれています。でも、彼は料理人になりたくて必死に勉強し、そしてシェフになったんです。

さらに、彼はお金を貯めてレストランのシェアオーナーになり、そこからどんどんお店を増やしていきました。今ではノルウェーに20店舗のお店を持つオーナーにまでなり、ついに2017年には彼のレストランがミシュランを獲得までになりました。まさに寿司ドリームです。今、彼は兄弟たちが住むフィリピンにお金を送金し、一族みんなを養っているそうです。 

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指導した料理人たちがどんどん自分のお店を持ち、たくさんの人たちが訪れるレストランを作って活躍する。そんな料理人たちにありがとうと言われるのがとても嬉しいんです。今は、そんな料理人たちをもっとたくさん育てたい。そして寿司を通してみんが幸せになる。それが一番力を入れてやっていきたいことです」

フィリピン人で始まり、フィリピン人で終わった世界各国寿司物語

実は、今回小川洋利さんにインタビューすることになったきっかけは、私が毎朝やっているオンライン英会話の先生とお寿司の話になったこと。先生がフィリピンでお寿司を食べたらしいのですが、味がなかったり、おなかが痛くなったりしたとのこと。そのことをnoteに書くにあたり、おいしいお寿司の写真がほしいなぁと思い、いつもFBにおいしそうな寿司写真を乗せていた小川さんに頼んで写真を借りたんです。そのブログをFBにアップしたら、小川さんファンのMSさんからコメントで「小川さんのインタビューが聞きたい」という話になり、急遽小川さんにインタビューすることになりました。ちなみに、日本は朝11時過ぎでしたが、ノルウェーのオスロは午前3時。大会が終わったあと、仲間と打ち上げで飲んでいたあとに、お話を聞かせてもらっちゃいました。昼間だと仕事で忙しいから、とのこと。疲れているところ、ありがとうございました。

小川さんの話をもっと知りたい人は、こちらの本をぜひ読んでみてください。

こちらは、小川さんにインタビューするキッカケとなった朝の話。どちらもあわせてお読みいただければ幸いです。


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