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ダウン症の息子が産まれた話④〜現在、そして未来〜

前回までの話はこちら
ダウン症の息子が産まれた話①~妊娠編~
ダウン症の息子が産まれた話②〜出産編〜

思えば遠くへ来たもんだ。

結婚してからの私の人生が面白すぎる。
夫に選んだ人が鬱になり、仕事が出来なくなったと思いきや、生まれた子供はダウン症児。

夫のいいところは魂が綺麗なところだが、とはいえ彼も若かりし頃は自分らしからぬ営業職に無理やり自分をフィットさせたことにより何らかの歪みが生じたのか、一時期は非常にスレた、いけ好かない野郎に成り下がっていた。

男の人生は成功してなんぼ。
親は息子を正しい道に導くために正しいレールをがっちり敷いてやらねばならない。
そんな風に鼻息荒く語っていた日もあった。

子育てに対し理想があることは悪いことではない。
だが、親の理想の形に子供を無理にはめ込むやり方は必ずいつかどこかで歪を生む。
それは子供のためのものですか?
理想という名の親の欲ではないですか?

夫が鼻息荒く語る子育て論を聞き流しながら、もし将来私たちに息子が産まれたら、夫と息子の関係性はいずれ破綻するかもしれないなという暗い予感が脳裏をよぎったこともあった。

夫はまだ見ぬイタリア旅行に己の夢や希望、そして欲望をありったけ詰め込んでいた。
ところが行き先がオランダに変わった。
大きな見えない手で行先を強引に捻じ曲げられたような理不尽さを感じたこともあるが、結果的に私たち家族には実はオランダこそが最適な到着地であったのかもしれない。

膨らみに膨らみ今にも暴発しそうだった親の期待は一旦全て捨て去ることになった。
さぞ悲嘆に暮れているだろうと思いきや、夫は存外に清々しい顔をしている。
捨て去って初めて気づいたのかもしれない。
抱え込んでいたものの重さに。

荷物を捨てた分、身軽になった。
視界が広がり、空の大きさを感じることが出来るようになった。
道端に咲く小さな花の美しさに目を止める余裕が出来た。

遥か彼方の目標を追い続け、目の前の美しいものを味わうことなく人生を先へ先へ進めていくやり方は、少なくとも私には合わない。
私は目の前の出来事を愛する人たちとともに味わい尽くしたい。
その充実した毎日の積み重ねこそが、私たち家族がいつかたどり着く未来そのものであるはずだ。

金もコネも権力もない私たち夫婦が息子に与えられるものは、望まれて産まれてきたんだという実感、愛されて育てられたという実感だけだ。

いずれ息子に大きな壁が立ちはだかる日が来るかもしれない。
向けられるからかい、蔑み、悪意を前に、息子を支えるものはこの実感であると信じている。
それは挫折や悲しみを乗り越えるための愛情の基礎体力みたいなもの。

もちろん「いじめ」の範疇を超えるようなものに関しては、全力で息子の心及び安全を守る心づもりである。
相手が子供だって容赦はしない。
大人の知恵、金、力、全てを駆使し一生後悔させてやろうと今から腕まくりして構えているから、震えて待ってろ。
あ、まだ起きてもいないことでヒートアップしてしまった。

だがしかし、ダウン症ということで普通の子より嫌な思いをするリスクは格段に上がるだろう。
今は無邪気に幸せの最中にいる息子が成長し、他人から悪意を向けられた時、私が冷静でいられるとは思わないし、もしかしたら息子に対して申し訳ないと思う日が来るかもしれない。

でも、今はまだ何も分からない。今はまだ何も起きていない。
起きてもいないことで今を不幸せにする気は毛頭ない。
どんなにお金持ちの家の子供にも、どんなに顔の可愛い子供にも、非の打ちどころのない子供にだって他人からの悪意が理不尽に襲い掛かることがある。
この理不尽から完全に逃れる術はない。

だから私はとりあえず祈ろうと思う。
息子が優しい人たちの中で暮らしていけますように。
挫けても立ち上がる力を持てるように。
そして、私自身もまた出来うる限り人に優しくなれますように。

魂の尊厳を傷つけられていい人間なんていない。
軽んじられていい人間なんていない。

息子を産んで育てている中で、心の底から理解した。
人は皆誰かの大切な人であるのだということを。

もしかしたら甘い考えかもしれない。
だがそう思うことで自ずと他人に優しくなれる気がする。ほんの少しだけ。
優しさが循環している世界は、障害のあるなしに関わらずすべての人にとってきっと過ごしやすい世界であるはずだ。

私は今日もすやすやと眠る息子に「愛してるよ」「なんて可愛いの」とささやき、キスの雨を顔中に降らせている。(唇は奪わない。虫歯菌を移したくないしね)

未来は不確かだから不安を感じることもある。
ただ、もしかしたら将来、想定以上の素晴らしい未来を生きている可能性だってある。

だって私たちの息子はこんなにもこんなにも愛らしいのだから。
YouTubeで福太郎(仮名)のかわいらしさを全世界に発信して、あわよくば荒稼ぎしたい欲望をぐっとこらえ、今日も私と夫は息子のむちゃくちゃにかわいい笑顔を独り占めする贅沢を味わっている。

無事に産まれてきてくれてありがとう。

おわり


暗く重い話に付き合っていただきありがとうございました!(途中ふんどしパンツを挟みましたがw)
一度は書いておきたかった自己満足の記事ですが、書いててとても楽しかったです!
長文で書いてますが私が泣いたり暗かった期間はなんとたったの2週間です。
ケロッと完全復活していますので、ご心配されないでくださいませ!

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