「 自分のことでさえ、わからないから 」

来月から24年間過ごした故郷を離れて、遠く離れた町で彼と同棲することになった。そう自分で決めた。

一番大好きな人で、凄く心強い存在であるはずで、それを私自身が一番にわかっているはずなのに、不安で不安で仕方ない。
心細くてとふとした瞬間にじんわりと涙があふれてきてしまう。

凛として気丈で強い女性が好きだ。
自分もそうなりたいと思うし、傍からはそんなふうに映ることが多いと思う。
正直「弱気にならない」というわけではなくて、「弱気になっているように見せない」術をいくつか知っていて「弱気な自分を奮い立たせる」術をいくつか心得ているだけなのだけれども。

「強いふりをすることと、本当に強いことにどれくらい違いがあるでしょうか。それは自分で決めること。」神崎恵さんの言葉。

ただ、今回だけは自分の心を覆う「弱気」に、「不安」に、なかなか打ち勝つことができない自分がいる。
でも、それに飲み込まれて半べそな自分も確かにいる反面、そんな自分を俯瞰している自分にも気づく。
ここまでの大きな心の揺らぎ、きっと何か大きなものを私に与えてくれたり教えてくれる前兆なのだろう、と。
それは自分の想像をはるかに超える幸福かもしれないし、想像を絶する試練なのかもしれないけれど、私の人生にとって「意味がある」ということだけは分かる。感じる。
そんなどこか冷静で俯瞰している自分の逞しさに、救われ、ほっとしている部分もあって、そのちぐはぐさがどうも私らしいと感じる。

きっと数年前までの自分だったら、弱気と不安に支配され投げ出してしまっていたと思うし、そもそもこの道を進むという決断すらできていなかっただろうと思う。
こういうたくましく強い面もきちんと育ってきたからこそ、今私はこの道を選択したのだと思うし、だからこそ道が開けたのだと思う。

私一人の心だけでこんなにちぐはぐで、葛藤だらけ。
それを上手に飼いならしてあげることすらこんなに難しくて、もうどこか「おてあげ」、「諦め」でどうにかこうにかおさめているというのに同棲、結婚なんてそれが二つになるのだ。
二人の人間。二つの心。
どうなるかなんてわかるわけがないんだ。
弱くて不安ですぐに逃げ出してしまうような私が、数年でたくましい心を育んだ。
人は変わる。心は育つ。
本当に、どうなるかわかるわけがない。

楽しめるところまで進んでみたらいい。
ずっと手を繋いで並んでいたっていいし、たまに別行動してみてもいい。
その先でまた落ち合えたら嬉しいし、そのままそれぞれの方向を進んだっていい。
ちょっと頑張って彼のおおきな歩幅に合わせてみてもいい、
「先にいってていいよ」って手を振ってもいいし、
「寂しいからゆっくり歩こう」とお願いしてみてもいい。
寄り道して、遠回りして。ちょっと焦って近道して。

私一人では見つけられなかった景色を世界の楽しみや素敵さを彼は教えてくれる。
その出会いで新しい夢が見つかるかもしれない。
信じられないほどの「好き」に出会うかもしれない。
自分にはしっくりこなくて彼とのずれを学べるかもしれない。

なんにもわからない。なにひとつ、さっぱり。
わからないからこそ、不安で。でもやっぱり楽しみ。

「いつからか頭のなかで飼っている悩みがついにお手を覚えた」木下龍也さんの歌。
彼との同棲に向けてむくむくと大きくなった「不安」を私は少し飼いならせるようになったのかもしれない。まだまだ手に負えなくて突然暴れだすこともあるけれど。
そうするとやっつけたかったこの思いもなんだか愛らしく思えてきたりする。

弱くて、でも強くてたくましくなってきて、でも不安で不安で仕方なくて、でも冷静に俯瞰していて、そしてとびっきり彼のことが大好きな「私」。
全部全部飼いならして、大切に愛してあげたい。

「自分の感受性くらい

ぱさぱさに乾いてゆく心を
ひとのせいにはするな
みずから水やりを怠っておいて

気難しくなってきたのを
友人のせいにはするな
しなやかさを失ったのはどちらなのか

苛立つのを
近親のせいにはするな
なにもかも下手だったのはわたくし

初心消えかかるのを
暮らしのせいにはするな
そもそもが ひよわな志しにすぎなかった

駄目なことの一切を
時代のせいにはするな
わずかに光る尊厳の放棄

自分の感受性くらい
自分で守れ
ばかものよ」

最後に強い人の強い言葉。強いパワーをくれる。
自分のことは自分でなんとかする。
それをできるようになったうえで、他人ともやっていけるようになるんだと思う。

茨木のり子さんにはどんな愛らしい「弱さ」があったのだろう。
一緒に暮らす彼だって私の知らない弱さを、不安を抱えている。

自分の強い部分を育てて、それで自分を守れるように。時にはその力で彼も守ってあげられるように。
時には彼の強さに助けてもらって、
時には本の言葉に助けてもらって、同棲生活楽しむぞ!

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