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浜崎純江歌集『ポンポン船行く』(青磁社)
浜崎純江さんの歌集『ポンポン船行く』(青磁社)を読みました。
亡くなられた両親や夫への深い思い、そして介護が必要な息子さんとの二人暮らしの日々が描かれています。
大変な日々であったと思いますが、歌にはどこか明るさがあり、作者のおおらかな人柄が伝わってきます。
歌集の後半で息子さんが亡くなられるのですが、その場面は控えめな表現で詠まれています。
そこには歌にできなかった深い悲しみがあったのではな
『塔』2024年6月号より③
『塔』2024年6月号から、気になった歌をあげて感想を書きました。
(敬称略)
ここからはダイジェストでお送りします。
・鋭い観察によって一首が成立している。雨脚が強くなり蝉の抜け殻が揺れだした。それを作者が佇み見ている姿も立ち上がってくる。
・よく見かける景色だが、「頼りなく」という主観的な表現が、ここでは効いている。
・こうして丁寧に歌を読まれている方もいるのだと背筋を正される思いがした
『塔』2024年6月号より②
『塔』2024年6月号から、気になった歌をあげて感想を書きました。
(敬称略)
・子育てをしていた頃と、現在の心境の変化が詠まれている。子育てを終えた今となっては、「二度とない日々だつた」とわかる。
当時は周りを見ることもできないくらい必死だったのだろう。
そうしたかつての自身の姿を懐かしむと同時にいたわっているようでもある。自身の心境の変化に対する戸惑いも感じられる。
額縁に収められた絵画か
『塔』2024年6月号より①
『塔』2024年6月号から、気になった歌をあげて感想を書きました。
(敬称略)
・桜の花びらが散って、水面を覆っているのだろう。そのような風景を美しいと詠みがちだが、負の印象で受け止めている。
それにしても上句の比喩の過剰さには驚かされる。何らかの作品が下敷きにあるのかもしれない。
・印象的で味わいがある一首。
成長した子に対する複雑な思い、そして子育てをしてきた歳月への感慨が込められているの
『塔』2024年5月号より②
『塔』2024年5月号から、気になった歌をあげて感想を書きました。
(敬称略)
・「鬼は外」と言うたびに「鬼」という声が夜の闇にばらまかれるのだ。
そんなユーモアの歌と読んだ。
「心の中に棲む鬼」と捉えることもできるが、そのまま楽しい歌として読んだほうが味わえる気がする。
・二つの行為が提示されているだけで一首が構成されている。
この二つの行為が似ていると感じたのだろう。
官能的な雰囲気を持つ
『塔』2024年5月号より①
『塔』2024年5月号から、気になった歌をあげて感想を書きました。
(敬称略)
・満開ではなく、「まばらなる花」を咲かせる白梅を「老いを深めつつあり」と把握した。特に「深めつつ」が良い。
梅が咲き、春がまた訪れる。巡る季節の中で白梅は老いながらも深まってゆく。その白梅に作者自身を投影しているようでもある。
淋しい風景のようでありながら、ゆったりとした時間の長さが感じられる、しみじみと胸に沁みる一
『塔』2024年4月号より②
『塔』2024年4月号から、気になった歌をあげて感想を書きました。
(敬称略)
イソップ童話を思わせる上句で、冬の冷たい風を受けて歩みゆく様子が伝わる。
情感のある印象深い一首。「長く見てをり」がいいのだろう。
「裏金派」に皮肉がきいている。
ごく身近な「パンツ」と「都市」という二つのスケールの落差に驚きがある。
シニカルな一首だが、現代の都市生活者の視線が反映されているように感じる。
『塔』2024年4月号より①
『塔』2024年4月号から、気になった歌をあげて感想を書きました。
(敬称略)
バスを降りて歩く人々が、日なたと影の境界を越えてゆく様子を、作者が離れた位置から見ている場面と解釈した。作者自身が歩いているのかもしれない。
「あゆみゆく身」、「分ちを越ゆる」という表現に注目した。
辻に生っている南天の実。普通ならその南天を観察して詠むところだが、こういった詠み方もあるのだ。
韻律が5・5・7・7
『塔』2024年3月号より⑥
『塔』2024年3月号から、気になった歌をあげて感想を書きました。
(敬称略)
「寒き呪い」が見事な比喩。「寒き」と「呪い」を組み合わせることでさらに強度が増した。
「区役所」という特殊な設定もよくリアリティが生まれている。
四国への旅行を詠んだ連作の中の一首だが、どの歌も大胆で力強く実感がこもる。
掲出歌は「車輪ころがす」までの組み立て方がいい。
クロールでターンをするときにプールに掛かっ
『塔』2024年3月号より⑤
『塔』2024年3月号から、気になった歌をあげて感想を書きました。
(敬称略)
山道や山村の流れる細い用水路、その溝の端にスミレがささやかに咲いている、そんな美しい光景を思い描いた。
「素水奔れる」には透き通った水が流れてゆくその速さや、音も表現されているようだ。
晩秋の澄み渡る空気も感じられる。
唐突な上句に驚かされるが、読み進めるとwebでよく見かける不正アクセスを防ぐためのものだとわかる
『塔』2024年3月号より④
『塔』2024年3月号の作品1から、気になった歌をあげて感想を書きました。(敬称略)
障子に映る南天の葉や実の影。
「くっきりと」により、その影の大きさや濃さ、また南天と障子との距離感が表現されている。
同時に障子や戸外の明るいことがわかる。つまり、影を歌いつつ、同時に光も詠んでいることになる。
「師走」が一首のイメージと合致しており、和室や年末の風情も感じることができる。
「サーモグラフィー
『塔』2024年3月号より③
『塔』2024年3月号の作品1から、気になった歌をあげて感想を書きました。(敬称略)
「大正金時」はあずき色のおおぶりのインゲン豆で、北海道で発見され、大正村(今の帯広市内)で量産されたのが由来らしい。
この歌では「十勝」や「大正金時」という固有名詞が、「ほたる火」と響き合って情緒を生みだしている。
「ほたる火」はガスの極弱火のことだが、「ほたる」を出したことで、おのずと十勝の夜の野に蛍が浮かぶ
『塔』2024年3月号より②
『塔』2024年3月号の作品1から、気になった歌をあげて感想を書きました。(敬称略)
水木しげるの漫画『ゲゲゲの鬼太郎』では、主人公の鬼太郎の足を引っ張ったり、裏切ったりと悪さばかりをするねずみ男だが、そこに人間らしさが描かれているとも言える。
そんなねずみ男の「立ち直る早さが好きだ」という作者の人生観も興味深い。
一字空けの後の「明日も嘘つく」には開き直りがあり、不思議な清々しさがある一首だ。
『塔』2024年3月号より①
『塔』2024年3月号の月集から気になった歌をあげて、感想を書きました。
(敬称略)
近づいただけで逃げてゆくメダカ鉢のメダカ。
そのメダカの動きとささやかな波紋の美しさが想像できる。
上句では穏やかな天候が出され、ゆったりとした作者の心のありようもうかがえる。
カフェで注文したコーヒーに息をふーふーと吹きかけていると、窓から見える池の水面も波立っていた。
まるで自分の息がそのまま池に伝わり、
『塔』2024年2月号より⑥
『塔』2024年2月号の作品2から、気になった歌をあげて感想を書きました。(敬称略)
亡き母の身体に残る床ずれの跡を見て、生前の母の痛みや苦しみに思いを巡らせる。
そこには、もはやどうすることもできない無力感や、後悔もあるのかもしれない。
教師である作者が、生徒に万年筆を貸したのだが、生徒は使い慣れていないため上手く書くことができない。
近年は万年筆を使う人はまれであるから、生徒もおそらく初め