『塔』2024年3月号より②
『塔』2024年3月号の作品1から、気になった歌をあげて感想を書きました。(敬称略)
水木しげるの漫画『ゲゲゲの鬼太郎』では、主人公の鬼太郎の足を引っ張ったり、裏切ったりと悪さばかりをするねずみ男だが、そこに人間らしさが描かれているとも言える。
そんなねずみ男の「立ち直る早さが好きだ」という作者の人生観も興味深い。
一字空けの後の「明日も嘘つく」には開き直りがあり、不思議な清々しさがある一首だ。
上句にある嫌悪感を直接言わずに、下句の描写によって表現しているところがよい。
あっけないほど短い時間で診察を終えた場面。
医師側からすると、簡単なやりとりで病状を把握できるのだろうし、一人の患者にあまり時間をかけていられないのだろうが、患者側からすると、様々な不安があり主治医に聞きたいこともある。
そういった場面での心の揺れが巧く詠まれている。
「風のよう」からは、医師の長い白衣が靡く映像が想像できる。
クモは網を張ることで、そこに引っかかる餌を捉えて採食するが、この場面では張り巡らされたクモの巣に、クモ自身が死骸となって吊るされていたのだ。
どこか物悲しさがあり、蜘蛛の巣に引っかかって揺れている映像が想像できる。
ファストフードで購入した商品を待っている場面。
「二番目に」とあることで、注文が通った順番が前後したことがわかる。よくある光景だが、わずかに心がざわっとするような気もする。
順番通りでないことに腹を立ててクレームをつける人の存在が頭によぎるからだろう。
「お待ちのお客様」と店員の言葉をそのまま使ったところがユーモラスで、下句の句またがりのリズムも心地よい。
霙(みぞれ)と言わずして詠まれているところがいい。「糸ひきて」が見事な表現で、霙の水っぽい質感や寒さが伝わってくる。
話しているのが妻だというのがよくて、夫婦の会話の場面や二人の暮らしの中での関係性が想像できるのだが、どこかおかしみも滲み出ている。
この「主語が大きい」というのは私にもそういう傾向があるのではと、ハッとさせられた。気を付けないと。
フラダンスをしている最中に誰かの携帯電話の着信音が鳴り出したが、持ち主が電話へ向かうでもなく皆フラダンスを踊り続けている、という歌でとても面白い場面だ。
「どなたかの」という柔かい言い方や、ゆったりとした調べがフラの音楽や踊りを思わせる。
おおらかな場の雰囲気が伝わる心地よい一首。
ヤマボウシの赤い実が「天空をあざやかに」するというスケールの大きな一首。
伸びやかな上句が魅力的で、下句は作者の願望と決意が込められているのだろう。
「風にも人にも」というところに作者の個性が出ている。
愛唱歌にしたい素敵な一首。
私が「私」であることからも離れて、「ただの人間になる」。
とても深い哲学的な一首。
今回は以上です。
お読みいただきありがとうございました。
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