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『塔』2024年6月号より③

『塔』2024年6月号から、気になった歌をあげて感想を書きました。
(敬称略)
ここからはダイジェストでお送りします。

干からびし蝉の骸を濡らす雨激しくなりてせみ揺れ始む
/鈴木健示 

p190

・鋭い観察によって一首が成立している。雨脚が強くなり蝉の抜け殻が揺れだした。それを作者が佇み見ている姿も立ち上がってくる。


立ち入りを禁じるロープ頼りなく芝生広場は取り囲まれて
/永井駿 

p196

・よく見かける景色だが、「頼りなく」という主観的な表現が、ここでは効いている。

一句一句に線をひきつつ春時雨遠まきにして連作を読む
/佐復桂 

p205

・こうして丁寧に歌を読まれている方もいるのだと背筋を正される思いがした。

カーネギー『人を動かす』読みつつも姉に言葉を冷たく投げる
/ドクダミ 

p206

・読書により道徳的な知識を得ても、実行することは難しい。特に身内には。


ラジカセのダイヤルまわし絞りだすソヴィエトの声 布団に覆う
/佐藤茂樹 

p213

・回想だろうか。想像力が刺激される一首。

秒針が震えるだけの時計ありこの部屋はずっと三時のままだ
/佐藤橙 

p213

・上句の観察が鋭い。二つの時間が存在しているように錯覚する。

わたしこそあなたを通り過ぎてゆく驟雨のような感情だった
/とりばけい 

p215

・抽象的だが印象に残った。「こそ」によって、相互的なドラマが想像される。


牙を剥く気持ちでベッドから足を下ろせば床から冷たさのぼる
/松岡優菜 

p216

・冬の朝に強い気持ちで起床しようとしている。「のぼる」という動詞もいい。


しんしんと肌に降り積む雪の気(け)のまことしやかな噂をひとつ
/和花 

p218

・二句切れとして読むべきか。韻律が魅力的。
塚本邦雄の名歌が思い浮かぶ。


今回は以上です。
お読みいただきありがとうございました。


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