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『塔』2024年3月号より④
『塔』2024年3月号の作品1から、気になった歌をあげて感想を書きました。(敬称略)
数多の実つけし南天くっきりと影を映せる師走の障子
/福政ますみ
障子に映る南天の葉や実の影。
「くっきりと」により、その影の大きさや濃さ、また南天と障子との距離感が表現されている。
同時に障子や戸外の明るいことがわかる。つまり、影を歌いつつ、同時に光も詠んでいることになる。
「師走」が一首のイメージと合致しており、和室や年末の風情も感じることができる。
みどりから青へと変はる下半身サーモグラフィーいびつな模様
/丸山順司
「サーモグラフィー」は赤外線を使って、物体の温度を測り、画像処理する装置で、温度によって色が変わる。
場面は分かりづらいが、非常に面白い素材が詠まれている。
テレビなどではよく見かける映像だが、それを短歌の定型に納め見事に表現している。結句「いびつな模様」と締めたところもよい。
おそらく語順がよいのだろう。
ひと夏を使い続けし野球帽ひさしに白く塩の吹きたり
/入部英明
この夏は暑かったという歌はたくさんあるが、この歌ではそれを帽子の鍔に残った汗の塩によって表現しているところが巧い。
「野球帽」というアイテムに生活感があり、作者の暮らしぶりが色々想像できる。
子育てに追われし頃のわたくしが期限の切れたパスポートにいる
/大森千里
すでに期限の切れたパスポートの写真を見て、子育てに追われていた頃の日々を回想している一首だが、「わたくしが~パスポートにいる」という言い方におかしみがある。
「期限が切れた」により、現在の作者と当時の日々が切り離されているような印象を受ける。
今は子育てもひと段落して、しみじみと思い返しているのだろう。
安堵とともに、過ぎていった時間にさみしさを感じているのかもしれない。
フェミニズム気取る男の焼酎の数杯ほどで本音のあらは
/黒瀬圭子
なんとも痛烈な一首だが、結句「本音のあらは」で止めているところが非常に巧い。
短歌では強い直接的な言葉で言うよりも、むしろ手前でとどめたり、湾曲的な表現を使った方が、強い印象が残ることも多い。
今回は以上です。
お読みいただきありがとうございました。
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