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『塔』2024年4月号より②

『塔』2024年4月号から、気になった歌をあげて感想を書きました。
(敬称略)


わが影を取られぬように丸まって風つよき日の街路を急ぐ
/菊井直子 

p210

イソップ童話を思わせる上句で、冬の冷たい風を受けて歩みゆく様子が伝わる。


山門より長く見てをり入れ替はりつつ修行僧の鐘撞く様を
/田口朝子 

p212

情感のある印象深い一首。「長く見てをり」がいいのだろう。


AIよりも無機質に「精査します」と裏金派の国会議員
/谷口富美子 

p252

「裏金派」に皮肉がきいている。


廃棄する時期が分からず履いてゐるパンツのやうな都市で働く
/宮本背水 

p259

ごく身近な「パンツ」と「都市」という二つのスケールの落差に驚きがある。
シニカルな一首だが、現代の都市生活者の視線が反映されているように感じる。

歌会より帰りきたればしずかなる不機嫌を抱くきみが待ちおり
/松本志李 

p261

短歌に限らず、夫婦間、家族間ではこうしたことはよくあるのだろう。
「しずかなる不機嫌」が場の微妙な空気を伝え、一首の印象を強くしている。


漢字もつ友の名かしこくみえゐしが現在(いま)は「ひろ子」が心に適ふ
/櫻井ひろ子 

p265

「適ふ」は「かなふ」。
幼少期から違和感のあった「ひろ子」の表記が、時を経て現在では作者自身にしっくりと馴染んできたと詠まれている。
一首に作者の人生が込められていると感じる。


想像してごらん瓦礫と爆撃のなかで子を生む女の気持ち
/田島千代 

p272

戦地で苦しむ人々に思いを寄せる歌は多いが、ジョン・レノンの「イマジン」を連想されることで奥行きのある一首となった。


補欠のまま部活の終わり迎えた日ずっと三日月ついてくるんだ
/富田小夜子 

p285

「ついてくるんだ」が心に沁みる。さびしさを引きずっているようにも、三日月に励まされているようにも感じる。


老人の宴の終わりは覚悟する別れに握手の力の籠る
/北条暦 

p292


高齢者同士の集まりでは亡くなられる方もあり、開催されるごとに人数が減ってゆくのだろう。なかば永遠の別れも覚悟して、酒席がお開きになり握手する手に力が籠る。この「力の籠る」に作者と相手との数々の思い出、そして作者自身の人生が滲む。


今回は以上です。
お読みいただきありがとうございました。


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