『塔』2024年6月号より②
『塔』2024年6月号から、気になった歌をあげて感想を書きました。
(敬称略)
・子育てをしていた頃と、現在の心境の変化が詠まれている。子育てを終えた今となっては、「二度とない日々だつた」とわかる。
当時は周りを見ることもできないくらい必死だったのだろう。
そうしたかつての自身の姿を懐かしむと同時にいたわっているようでもある。自身の心境の変化に対する戸惑いも感じられる。
額縁に収められた絵画か写真を見ているのだろう。その中にさざ波が揺らめいている。額縁の中の世界に没頭していると、現実の世界との区別がつかなくなるような感覚をおぼえたのだろう。
幻想的な一首である。
・一首目、「懲り懲り」(こりごり)の音の響きがキムチを嚙む音につながる面白さがある。
・2首目、テレビや新聞などの報道で使われる言葉への違和感。
被災された方々の心に寄り添う作者の気持が一首に出ている。
・作者が実際に見て感じたことを、その時間軸に忠実に再現している。
・二つの「呼吸」に(いき)、(こきゅう)と異なるルビが振られている。樹木と花では呼吸のリズムが違うことを作者は感じ取っているのだろう。「聴く」の漢字にもそれが表れている。
作者と自然との対話の時間とその場のゆったりした空気が感じられる一首。
・迫力のある一首。「蛍光服」が効いている。
余計な説明がされていないのもよく、読者の想像力にゆだねられている。
・横断歩道を渡るこどもによくある場面だが、「因幡の白兎」と結びつけたところが巧い。
・「掴みそこねたる」という把握が新鮮で、助詞のつなぎ方や一首の調べにも特徴がある。
多用されている濁音、特に下句のB音に作者の沈んだ気持ちが反映されているのかもしれない。
・かつてはよく見かける光景だった。少年期の孤独や、性への興味が象徴的に詠まれている。
・日常のさりげない自身の行為を通して、他者へと想像力を働かせている。これは大切なことだと思う。
字余りを含む調べも効果的に作用している。
・人が亡くなってしばらくは、生前のさまざまな思い出とともに表情も思い描くことができるが、次第に忘れてゆき、遺影の表情しか思い出せなくなる。そうしたことに作者も寂しさを感じているのだろう。
・一首から丁寧な暮らしとその中にある小さなよろこびが感じられて印象に残った。
今回は以上です。
お読みいただきありがとうございました。
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