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『塔』2024年3月号より⑥
『塔』2024年3月号から、気になった歌をあげて感想を書きました。
(敬称略)
区役所に二匹の水母(くらげ)飼われおりかたみに寒き呪いを吐きて
/空岡邦昂
「寒き呪い」が見事な比喩。「寒き」と「呪い」を組み合わせることでさらに強度が増した。
「区役所」という特殊な設定もよくリアリティが生まれている。
高知から乗りしあしずり9号は夕日に向かひ車輪ころがす
/寺田慧子
四国への旅行を詠んだ連作の中の一首だが、どの歌も大胆で力強く実感がこもる。
掲出歌は「車輪ころがす」までの組み立て方がいい。
正時より泳ぎ始めしクロールのターンに逆さの時計を見たる
/山縣みさを
クロールでターンをするときにプールに掛かっている時計が逆さに見えたという印象的な瞬間の映像が詠まれている。
「正時」という言い方も巧い。
銀針(ぎんしん)がⅥを跨ぎてさえざえとほうれん草は茹であがりたり
/山崎杜人
時計の秒針を表現した上句も斬新だが、その上句から「ほうれん草」への展開に意外性がある。さらに、「さえざえと」が秒針にかかっていると思わせて、下句にも繋がることに驚いた。
風景に垂直・平行ふえてゆきバスは夕刻大阪に着く
/片山裕子
都会に近づくにつれてビルや大型の建物が増えてゆくことを言っているのだろう。
景色が変化してゆく時間の経過が詠み込まれており、旅が終わることへ寂しさも滲む。
クリスマスツリーのやうな水脈引きて小舟一艘宍道湖をゆく
/森田敦子
クリスマスツリーという、水脈とは一見結びつかなそうなものに喩えたことで強力な比喩となった。
ロマンティックな歌で、一首としての組み立て方もよく、「宍道湖」も効いている。
自転車を先に通せる仮歩道あうらに小(ち)さき石の感覚
/横井典子
時々に出くわす場面だが、それを見逃さずに歌にしたところにセンスを感じる。
下の句で身体感覚を詠まれている点や、結句の収め方も巧い。
誰ひとりぶつかることのない奇跡繰り返される朝の改札
/則本篤男
誰もが感じたことがあることだろうが、それを過不足なく短歌にして詠んでいる。
「奇跡」とまで言い切ったことと、「朝の改札」を結句に置いたところがよいのだろう。
今回は以上です。
お読みいただきありがとうございました。
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