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引っ越しをして経済活動の大原則を学んだお話。

あるとき、何度目かの引っ越しをした。当時転職だのなんだので疲れていたので、荷造り付きのパックをお願いした。ネットの見積もり比較サイトで見積り依頼を送信したら、夜中なのに電話とSMSがバンバンやってきて、後日数社に実際に来てもらって正式に見積もりしてもらって比較・検討し、「荷造り付きなら、部屋は今のままで大丈夫です!なーんもしなくてOKです!当日も、横になってゴロゴロしていて構いません!」と、やたら説得力のあるおじさんオペレーターに電話で言われたので、それではとお願いしてみた。たしか、荷造りオプションはプラス5千円だか1万円だか、それぐらいだったと思う。

それまでの引っ越しでは、荷造りは全部自分でしていた。一人暮らしのわりに物が多いので、引っ越しの1か月前くらいから一日1時間ずつくらいかけて、部屋の隅から順に箱詰めした。梱包材の準備は必要だし、その間部屋には段ボールが山積みになるし、読みたい本を梱包しちゃって読めないってこともあるし、「はさみ間違えて梱包しちゃった!使う!」と開封するなんてこともあるし、まあなかなかに大変な作業だ。

果たして、荷造りをお願いした引っ越しはめちゃめちゃ楽だった。おじさんオペレーターにいわれた通り、使った食器を洗ったくらいで、ほかは何にも片付けずに当日を迎えた。時間になると「それではお願いしまーす」とスタッフさんたちが3人ドヤドヤとやってきて、もくもくと、そしてテキパキと荷造りをしていった。私はその間、こちらも言われた通り、ベッドの上に座ってくつろぎながら見ていた。

私だったらひとつひとつ神経質に袋にいれるな…と思う小物も、最小限の、でも確かな梱包で、どんどん段ボールに詰めていった。私だったらプチプチやキッチンペーパーで一つずつ包む食器や壊れ物は、専用のふかふかのスポンジが詰まった箱みたいなのを出してきて、切れ目に差し込んでいった。いつもハンガーを外して一枚一枚畳んで段ボールに入れるコート類は、中にハンガーパイプのついた専用の大きなボックスを持ってきて、ハンガーをつけたままガッとまとめて掴んでそのボックスのラックにかけた。鮮やかであった。

そんなこんなで、2時間くらいで荷造りは終わった。「では出発しまーす。現地でお会いしましょう〜」と、トラックは去っていった。現地で荷物を運び入れてもらい、また数日かけて荷解きをして、めでたく引っ越しは終わった。本当に楽だった。

私はこの引っ越しに何やら深く感銘を受けた。今までの私が、1日1時間の荷造りを一か月のうち少なめに20日かけて行っていたとしたら、私は合計20時間をかけていたことになる。それが、たったの2時間で終わった。3人でやったことを考慮しても、2時間×3人で6時間だ。プロの技だから、圧倒的に早い。さらに、引っ越し前の1か月間、段ボールに部屋が圧迫されたり、あれがどこにいっただのなんだの私が不便を感じることもなかった。時間に加え、精神的エネルギーも節約できた。人類全体で見たときに、この作業にかけた時間もエネルギーもきっと節約された。人類が使える時間とエネルギーは、総和として増えたのだ。

もちろん私にお金はかかった。1万円程度。得られるものを考えると安いようで、馬鹿にはできない金額だ。でも、その頃の私は仕事が忙しくてよく残業をしていた。時間的にも精神的にも助かった分しっかり休んで、必要な時にしっかり残業をして、その分稼げばいい。

しかも、私のやっている仕事は、引っ越しのスタッフさんはしない仕事だ。引っ越しの仕事をしているのが私でなくそのスタッフさんであるのと同じように、この仕事をしているのは私だから。1万円で引っ越し業者にお願いして私の20時間を確保して、その20時間で、私が自分の仕事を通じで社会で、1万円以上の価値を生み出せばいい。私がしない仕事を、私が1万円を払って引っ越し業者にお願いして、私は20時間を受け取る。私はその20時間で、例えば2万円を誰かから受け取ってその誰かに価値を提供する。そうすれば、その20時間で幸せになった人は増える。わかりやすく見れば動くお金は増える、つまり社会の富は増幅しているのだ。

私は一時期ビジネススクールの授業を受けていた。その中で、「経済活動はなんのために行うのか。企業はなぜ利益を追求するのか」という話があった。その授業での答えは「お客さんの役にも立つし、国に税金を納めることができる」ということだったと記憶しているが、「社会の富を増やし、人類全体が豊かになるため」が真の経済学的答なのではないかと、思った。経済の大原則を、身をもって学んだのであった。

さすると、自分が担当している今の仕事も、誰かの時間とエネルギーの節約のお手伝いをしている。その人はその分、趣味の時間を過ごしたり、好きな人たちと過ごしたり、また誰かのために働いたりすることができる。それは、全員が自分のことをすべて自分で行う非効率な社会よりずっと豊かだ。私達の使う時間と精神的エネルギーは圧倒的に節約され、その分趣味や仕事に時間を使えて、人類全体が受け取れるいろんな価値は、確実にずっと大きくなる。

それまで、経済活動を行うと環境問題が引き起こされる、ゴミが増える、だから、必要最低限の質素な暮らしのほうがいいんじゃないかと思うこともあった。働くことやお金を使うことに価値を見い出せないこともあったし、罪悪感を持つことさえあった。それもある側面では正しいが、お金を介して苦手なことをお互いにお願いする。これが仕事の本質であり、社会全体が豊かになる過程なのだ。

お金がもったいないから節約する。めんどくさいからお金を払ってサービスを使う。お金がほしいから働く。こういうことだけでなくて、自分のお金の使い方、稼ぎ方が社会の豊かさにどう影響してるのか、常に把握しておこう。社会のためになると思ってお金を使い、働こう。経済活動と仕事について理解が深まり、視野が広がった体験であった。

ちなみに引っ越し後の部屋は快適だ。部屋が好きだと在宅ワークも捗る。これからも、苦手なことは人に助けてもらいながら、自分にできることで人を助けながら、私たちは社会を生きてゆくのだ。

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