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『可愛い世の中』山崎ナオコーラが、女性の自立と結婚に対する多様性を描く!解説は『自転しながら公転する』の山本文緒

誰だって、自分が努力してきた事柄に関して、世間から認められたいと願うものだ。だから、自分の得意分野の定規をあててもらうことを望む。そして、その定規で見ると低い位置にいる人が引け目を感じてくれたらいいな、とつい思ってしまう。

あぁ、生き辛い。多様性、多様性と、耳が痛い。

たしかに、昭和、平成、令和と、多様な価値観を受容する大きな流れみたいなものは育ってきたんだろう。でも、だからといって、生きやすくなった人の「数」が増えたとは、到底思えないのです。

いろんな選択肢があるからこそ、冒頭に引用したようなモヤモヤが、個々の中にあふれていく。自己顕示欲が暴走していく。

いまって、多様性を受容する社会への過渡期で、みんなが混乱してる。自分の立ち位置を模索してる。むかしとは別の生き辛さも、いっしょに生まれてしまった。そう思えてならないなぁ、と。

長くなりました。今回は、アラサー女性に刺さる1冊、山崎ナオコーラさんの『可愛い世の中』のご紹介です。20代の初読時よりも、30代になって再読した今の方が、読後の心臓の痛みが強い。しんどい。

冒頭が重くなったので、紹介はさらりと読みやすく、簡潔にしました。テーマに興味を持って開いてくださった方は、ぜひ最後まで読んでいってほしい。

四姉妹の次女、豆子の結婚を巡る物語


物語の主人公は、四姉妹の次女、豆子。姉妹構成は、以下の通りです。

花(35)・・・派遣社員。離婚歴あり。恋愛に奔放な性格
豆子(32)・・・会社員。社会貢献のために結婚を決める
草子(27)・・・ニート。両親と暮らし、家事をこなす
星(24)・・・専業主婦。大手会社員と結婚し、恵比寿に住む

お話は、豆子が結婚することになり、結婚式を挙げるなかで感じた、世間と自分の価値観のズレに向き合っていくというもの。

この豆子がね、「面倒なヤツだな」と感じてしまう性格で!

もとも自分をブスだと思い、恋愛はしてこなかった豆子。結婚も、「愛されていれば、他には何も求めない」と、自分よりも収入が低く、何を頼んでもミスばかりの結婚相手を選んで、自分が一家の大黒柱になると決意します。

で、「結婚式はゲストのために開きたい」と言いつつ、自分の結婚観を理解してほしいがために、スーツが着たいとか、自分が挨拶をして、オーナーシップを取っていく宣言がしたいとか、ゲストが期待する「結婚式の型」をことごとく拒否するの。

そうして決行された結婚式のシーンは、とても見どころです。

でも、読んでいて頭の中でうっすらと思ったのは、程度の違いはあれど、多くの人が、「社会から求められる行動」と「自分の主張」との折り合いをつけながら、たびたび矛盾した行動をとるものだよな、ということ。

一筋縄じゃいかないよね、自分の人生となると。

見どころは「全部」!


長々と書いてしまったので、いくつか内容をピックアップして終わりにします。紹介したい文章が多すぎて悩みました。少しでもあなたの琴線に触れる文章があれば、ぜひお手に取ってみてください。

新聞を呼んだりテレビを観たりしていると、建前としては「独身女性を非難してはいけない」とされている。だが、社会の本音がうっすらと透けて見えることがある。世の中から子どもを求められているように感じながら、豆子は日々を過ごしていた。
子どもというのは、自分のために産んではいけない。子供のために産まなくてはいけない。(中略)だが、今この瞬間にも、子どもが欲しいという欲求が湧くのを豆子は感じてしまう。それは社会参加欲というもののなれの果てだ。
男の人だったら、「オレが主に稼ぎます。でも、にこにこしたり、気遣いしたりは、あまり得意ではありません」は、逆に恰好いいイメージだよね?なんで属性が女ってだけで、それがマイナスイメージに変わっちゃうんだろう。

これは、どちらかというと豆子に賛同して心に響いたというよりは、逆に、男の人はこれを恰好いいイメージではなくて、当たり前のものと思われる辛さがあるよなぁと考えさせられた一節でした。

さいごに、豆子はどんな人生を選ぶのか。希望の持てる終わり方なので、読後感はさわやかです。ぜひ。

あとになって人のせいにしない覚悟があれば、どんな決断だってしていいのだ。

これに尽きます。


■この本が気に入った方には、こちらもオススメ

2021年、本屋大賞5位に輝いた、『自転しながら公転する』。著者の山本文緒さんは、山崎ナオコーラさんの熱心な読者のひとりで、『可愛い世の中』では、解説をよせています。テーマとしても似た部分があるので、こちらもぜひ。



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