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『僕はきっとこの温度を忘れることはないだろう。』

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BOY meets MUSIC ストーリーズ
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#音楽

孤独な君のレジスタンス。

孤独な君のレジスタンス。

『僕はきっとこの温度を忘れることはないだろう。』中学生編 -9

バンドは団体戦だ。
クラスの片隅でひとり、どんなに鬱屈として世間を呪ってみたところで、その一瞬で世界を一変させる1,2,3,4の奇跡の4カウントは、教室の窓の外からも気になるあの子の寝言からもまるで聞こえてきやしない。

どんなにコミュニケート不得手だろうが、仲間を集めないことには音楽は鳴り始まらないのだ。これはゲームではない。

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心の中から現れたものは常に正しい。

心の中から現れたものは常に正しい。

『僕はきっとこの温度を忘れることはないだろう。』中学生編 -7
昨夜の日曜洋画劇場で『ベスト・キッド』を観たおかげで、興奮して寝付けずに絵に描いたような寝坊を喫した僕は、遅刻ギリギリで教室に飛び込んだ。
真っ白な開襟シャツはすでに汗でぐっしょりだ。

しかし今や気分はKARATEの達人、僕に案ずることなど何もない。
これしきの事は「心頭滅却すれば火もまた涼し」、である。

(このオープニング・タイ

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なんだこの感じ、この感覚。

なんだこの感じ、この感覚。

『僕はきっとこの温度を忘れることはないだろう。』中学生編 -6

「何だよ、見せたいのって。」

ヒサミツが訝しげな顔をして、僕の部屋の本棚を手持ちぶさたに品定めをしている。

遙か古(いにしえ)から、初めて訪れた部屋において繰り返し行われてきたであろう、ささやかな通過儀礼である。

しかし、僕の一番の愛蔵書である宮沢賢治大全集には微塵たりと興味を惹かれなかったようであり、遺憾ながら彼は早々にテレ

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世に一つしか存在しなかったプレイリスト。

世に一つしか存在しなかったプレイリスト。

『僕はきっとこの温度を忘れることはないだろう。』

中学生編 -5
部屋で流していたFM放送はいつの間にか深夜番組に変わり、僕はラジオのスイッチを切った。
家族も寝静まった夜中にひとり、CDラジカセの前に座り込む。
山積みのCDとカセットテープ。
よし、これで事を始めようじゃないか。

翌日、昼休みを知らせるチャイムが鳴り渡り、クラスのみんなは脱兎の如くそそくさと席を立ち、トイレに行ったり、購買に

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見えない銃を撃ちまくるしかない。

見えない銃を撃ちまくるしかない。

『僕はきっとこの温度を忘れることはないだろう。』中学生編 -4

ハードル跳びのエリアからひと際大きな歓声が上がった。ちょうどスタートしたばかりのようだ。状況を把握しようと順位を確認した僕は目を疑った。
え…?!
先頭には、他校の選手に大差を付け、カラフルな装いの中で唯一、緑色のジャージと白いスニーカーをまとったやつがぶっちぎりでトップを走っていた。

「す・・すげぇ、ノビじゃんっ!」

まる

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学校の机に好きなバンドのロゴを書いてしまったり。

学校の机に好きなバンドのロゴを書いてしまったり。

『僕はきっとこの温度を忘れることはないだろう。』 中学生編 -2

人生初のライブ、それは最高の体験でしかなかった。と言うより他に表現のしようがなかった。

(ほ、本物だ…!)

(音、デカっ…!)

一人で来ていることなんて全くどうってことなかった。最初の一音が鳴った瞬間、全神経はステージに釘付けになり、遠く海を越えて演奏しに来てくれた彼らの一挙手一投足に、終始心を震わせた。

あえて言うならば

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弾けないギターを弾くんだぜ。

弾けないギターを弾くんだぜ。

『僕はきっとこの温度を忘れることはないだろう。』 中学生編 -1

「ギターが欲しいっ!」

それまでシンセのカタログばかり眺めていた僕は、取り憑かれたようにギターの広告を見漁るようになった。

当時は、少年ジャンプの最後の通販みたいな胡散臭いやつばっかりで、
まともなモノは、小学生がおいそれと買えるわけもなく、文字通り指をくわえて見るしかない日々が続いた。

そうして僕は中学生になった。

とい

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この気持ちに、名前はまだ無い。

この気持ちに、名前はまだ無い。

『僕はきっとこの温度を忘れることはないだろう。』 小学生編 -6

12歳、また夏がやってきた。

望まずとも課せられる呪いみたいな夏休みの宿題。

今となっては『Back to the Future』のデロリアンの設計図を提出できる訳もなく、ひとり粛々と日々タフにやり過ごしていくしかなかった。

少し時を戻そう。

その年の4月。
新学期、僕の学校では2年ごとのクラス替えがあり、小さな町ではあっ

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If You Leave (君がもし去っていくのなら)。

If You Leave (君がもし去っていくのなら)。


『僕はきっとこの温度を忘れることはないだろう。』 小学生編 -5

通学路のイチョウの木にはあざやかな緑が色づき、
夏への扉は、その入り口をもう開きはじめていた。

僕は来る日もひとり学校から帰ると、まっすぐ部屋にあがり、前にもまして狂ったように音楽番組を観あさっては、数少ないレコードを繰り返し回し続けていた。

小学生の男子に処理し切れない感情なんて、ぜんぶ音楽に向けるしかなかった。

そんな

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僕はきっとこの温度を忘れることはないだろう。

僕はきっとこの温度を忘れることはないだろう。

『僕はきっとこの温度を忘れることはないだろう。』 小学生編 -4

「ほんと、クラスのみんな夜ヒットとかの話ばっかでやってらんないよなぁ〜」

「一応、確率論的に言えばそう定義せざるを得ませんね。(マタヒコくん、一体どの口が言っているのですか。)」

「やっぱ、吉岡しか話わかるヤツいないからな。なぁ、今日こんな天気だしさ、また兄ちゃんのMTV録ったビデオ観ようぜ。」

(これも後に判った事だが、彼

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珪藻土マットの様な吸い込み力で。

珪藻土マットの様な吸い込み力で。

『僕はきっとこの温度を忘れることはないだろう。』 小学生編 -3

マタヒコ11歳、吉岡家での電撃的洗礼を受け、明らかな「音の目覚め」を迎えた僕は、それからというもの取り憑かれた様に洋楽を聴きあさった。

チェック柄シールの貼られたカセットテープがラジカセで走る事はめっきり減り、代わりに丸い塩化ヴァイナルが毎日、止まることなく回り続けた。
漆黒の円盤は表になり裏になり、毎晩、僕の部屋は宇宙になった

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ハンマーで殴られた事なんてなかった僕たちは。

ハンマーで殴られた事なんてなかった僕たちは。

『僕はきっとこの温度を忘れることはないだろう。』 小学生編 -2

そう、先に言っておくと僕らの通う小学校は小高い山のてっぺんに建っていて、階段を300段(!)ぐらい登らされるうえに住んでる家も山の上だから、つまり山から山へと3km近く歩いて移動しなきゃいけないっていう、わりとクレイジーな学校なんだ。

そんなわけで僕らは、はやる気持ちを抑えきれずダッシュで吉岡の家に向かった。(それでも通学路は

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あれが全ての始まりだったんだ。

あれが全ての始まりだったんだ。

せっかくなので自己紹介も兼ねて、あらためて自分の音楽遍歴(とそれにまつわる食歴)を振り返ってみようと思います。
過去のブログや当時のインタビューで既出の話もあるかもしれませんが、そこはご愛敬ということでお付き合い頂ければ嬉しいです。

『僕はきっとこの温度を忘れることはないだろう。』 小学生編 -1

五月晴れの明るい太陽がだいぶ傾いてきた頃、町外れにある青少年会館から自転車で帰宅した12歳の僕

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